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2006年04月13日
……落ち着かない。
俺は、カフェの一番奥の丸テーブルに、妹と向かい合って座り、ちらちらと周囲の様子をうかがっていた。黒のインテリアで落ち着いた雰囲気に纏められた店内。妹を初めとして、店員も、客も、女性ばっかり。俺以外に男といえば、角の席で妊婦と話し込んでいる、夫らしいのが一人いるだけだ。
どうも落ち着かない。この雰囲気。
パンが美味しいからと、妹に引っ張られて来たのである。ランチタイムをちょっと外れているのに、店内はほとんど満席だった。人気のある、旨い店なんだろう、とは思う。だが、この、まるで女の園のような空気は、俺にはどうにも受け入れがたいのだった。
「どしたの？」
そわそわしている俺に、妹が不思議そうな顔をしている。
「いや？」
反射的に俺ははぐらかした。
こういう、おしゃれな場所というのは、ダメなのだ。俺以外の周囲の全てが、傷一つない完璧な「場」を形成している。そこにおいては、インテリアやＢＧＭはおろか、客や店員といった人間たちも、場の構成要素に過ぎない。みんなで協力して、一枚の絵画を描いているようなもんである。
なのに俺は、とてもじゃないが、この場の構成要素にはなれない。色が違いすぎる絵の具なのだ。完璧な絵画を、俺はただ汚してしまっているような気がして、思わず背中を丸めてしまう。
肩身が狭いとはこのことか。まさに、鉄板か何かで四方を塞がれているような気分だ。圧迫感というか。閉塞感というか。
さらに悪いことに、店員の女の子がパウチされたメニューを運んできて……
見た瞬間、目がくらくらした。
「ここね、パンと具材を選ぶのよ。あと、飲み物と……」
妹が気を利かせて、俺のほうに身を乗り出した。メニューを指さし指さし教えてくれたことには、どうやら、好みのパンと具材を組み合わせて、サンドイッチを作ってくれるというシステムらしい。それに飲み物ひとつと、フライドポテトと、サラダがついて、セットメニュー。
俺はしばしばする目で、メニューをじっくりと見つめた。具材の下にパンの種類が書いてあるが、これしか組み合わせられないのか？ いや、違うな。オススメの組み合わせか。あ？ こっちの具材はこのパンしか使えないのか、なんだ。飲み物ってどれでもいいの？ なんか但し書きあるけど……あ、これはモーニングセットのことね。ランチだったらどれでもいいのね……
気が付かないうちに、そんな疑問が口に出ていたらしく、妹がうんそうとかいやちがうとか、あれこれ相づちを打っていた。
正直言って、めんどくさい。もっと、スッキリと注文できるものはないんだろうか。なさそうだな、メニューはＢ５一枚だしな……
妹は手慣れたもので、ぱぱっと組み合わせを選んでしまうのだ。なんだか、疎外感。オタクに対して非オタクが感じるのも、こんな感覚なんだろうかな。
ああ、落ち着かない。落ち着かないから、思考もあっちこっちへ散乱する。
とりあえず、適当に組み合わせを決めて（どう組み合わせても、まずいってことはないだろう……きっと）、俺はぐったりとテーブルに伏した。疲れ果てていた。カフェという、この完璧な場に居座るのも、早くも限界に達していたかもしれない。まだ注文したばっかりなのに。
と。
ややあって、店員がトレイに載せたコーヒーを運んできた。重そうなカップを、ソーサーごと持ち上げ、俺の前に置こうとした……その時。
がちゃん、と音がして、コーヒーカップが激しく揺れた。思わず俺は体を硬直させる。が、店員の反射神経のたまものか、コーヒーは危ういところで、こぼれ落ちるのを免れた。
店員の女の子が、カップをおきながら、ほっと安堵の溜息をついた。
「すいません、ごめんなさいっ」
店員は一息つくなり、怒濤のように謝りだした。俺はあっけにとられた。
完璧だと思っていた場が、そんな簡単なことで、あっけなく崩れ去った。
なんだ。失敗もあるんじゃないか。
当たり前のようなことに気付かされながら、俺は謝りまくる店員に、微笑みかけた。
「こぼれなくて良かったですね」
間抜けた台詞だな、おい。
だが、それもいいだろう。お互いにちょっとした間抜けをやらかした俺と店員は、お互いに苦笑し合い、そして店員は去っていった。なんだ。こんなことで、人間っていうのは落ち着くもんなんだな。
最後に、店の名誉のために付け加えておく。
ペッパーチキンと煮込みパプリカのベーグルサンドは、旨かった。
投稿者 darkcrow : 2006年04月13日 01:24
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コメント
注文に迷ったら、店員にむかって魔法の言葉を唱えればおｋｗ
「おすすめはなんですか？」
「人気があるのはどれですか？」
投稿者 ＠寝すぎ : 2006年04月13日 09:50
「イキのいいとこを
てきとうに見繕ってくれや！」
でもok
投稿者 カプチ : 2006年04月13日 12:23
「この小切手に好きな金額を書きたまえ」
でも大丈夫だよね？
投稿者 木許慎 : 2006年04月13日 12:29
