警部補ガーランドの最期 5(ボツ)
※この作品はボツになりました※
131分隊の6人が瞬時に密集陣形を取り、一本の剣へと姿を変える。その動きに気付いたキャリオンクロウが、先頭のガーランドを指さしながら怒鳴り散らした。
『空機が来たぞ! みんな迎げ……』
しかし――
『……間に合わあっ!?』
遅い!
ヒュンヒュンと風切り音を響かせて、剣が黒い塊を貫いた。キャリオンクロウの陣形が風圧で吹き散らされたかと思うと、次の瞬間爆発の花が咲く。敵の陣形を貫きざまにガーランドたちの放った銃弾が、キャリオンクロウたちのバーニアを正確に射抜いたのである。
文字通り敵の中央を突破して裏に回ったガーランドたちは、急旋回しながらぴたりと宙に制止した。敵は今の突撃に混乱し、陣形を左右真っ二つに分離している。この機を逃す手はない。
「左手包め!」
ガーランドが左腕を挙げるや否や、弾けたように飛び立つ6条の光。6本のラインが編み目を描き、鴉の一団を包囲する。敵に逃げるヒマさえ与えずに、ガーランドは左腕を振り下ろした。
「砲撃っ!」
131分隊の火器が一斉に火を噴いた。六方から降り注ぐ銃弾の嵐が、為す術もない鴉たちを撃ち落としていく。何人かの鴉は弾幕をかいくぐって包囲の外に逃げ出すが、
『逃がすかっ』
待ちかまえていたシーファの拳にあえなくヘルメットを砕かれ、墜ちる。
初めの突撃から僅か15秒。キャリオンクロウが気付いた時には、半数の仲間が撃墜されていたのである。これが航空機動隊。力の差がありすぎる。ほとんどの鴉がすくみ上がる中、一人がやけくそ気味に大きな声を張り上げた。
『クソっ! 好き勝手をやらせるな、行けえっ!』
その一喝で鴉たちの硬直が解けた。気を取り直した鴉たちはバーニアから青白い光を迸らせて、
『冗談じゃねー!』
『やってられるか、いっちぬーけたっ』
一斉に背を向けて逃げ出した。
声を張り上げた鴉も、ふと気が付けば戦場にたった一人。慌てて急速旋回すると、逃げた仲間達の後を、全速力で追いかけていった。
『ば、バッカ野郎ォ! 置いてくな!』
その背を見送りながら、ガーランドは安堵の溜息を吐いた。
敵はフリーのキャリオンクロウ。アンダーグラウンドの庇護も受けていないモグリの傭兵である。貰った金の分くらいは命を張るだろうが、それ以上の義理立ては決してしない。そういう、強かで割り切った連中なのだ。
だから、出鼻をくじけば逃走してくれるだろうと思っていた。見事思惑通りに事が運んだ、というわけである。
『ガーランド! 連中、逃げるぞ!』
ガーランドのそばに慌てて寄ってきたシーファが、バフッとバーニアを噴射させて急停止した。ガーランドが無言で頷いている間に、他の連中も集まってきた。全員、すぐにでもまた飛び出せるように、体勢を維持している。
『どうする、追撃するか?』
落ち着いた低い声で問うミュートに、ガーランドは首を横に振った。
「よそう。この先で、安藤の地上部隊がトリモチ高射砲の網を張ってるんだ。変に刺激して罠を警戒されたら困る」
そしてガーランドは、ぱんと大きく柏手を打った。
「よしっ! これにて任務完了、みんなお疲れさま! あとは周辺に軽くローリングをかけ……」
と、ガーランドがにこやかに言いかけた、その時。
後ろでつまらなそうに話を聞いていたマーガレットが、突如、ヘルメットの中で鼻をひくつかせた。彼女は戦闘用に作られた強化人間である。五感の鋭さは並の人間を超越している。犬並みとも言われるその嗅覚で、マーガレットは何かを感じ取った。
弾かれたように、彼女は上を見上げた。
空に、輝き。
『避けてっ』
マーガレットが甲高く叫んだのと、ほとんど同時に。
光が降り注いだ。