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警部補ガーランドの最期 6(ボツ)

※この作品はボツになりました※

 ガーランドは弾かれたようにその場から飛び退いた。一直線に逃げるガーランドの後ろを、幾筋もの光のラインが貫いていく。歯がみしながらガーランドが機動を変えた。ほんの一瞬後には、四方八方から光が躍りかかり、ついさっきまでガーランドがいた空間を切り裂く。
 まずい。完全に敵に囲まれている。不規則機動で回避するのにも限界がある。
 ガーランドは混乱した頭を沈めながら、大声を張り上げた。
「みんな、無事か!?」
『大丈夫だ!』
『死んじゃいねえよっ』
 シーファとルイス。よかった、まだ生きている。
『2班、無事だ』
 ミュートの声。マーガレットもウェインも大丈夫ということだ。ガーランドは相変わらずギリギリの回避を繰り返しながらも、心の奥で安堵した。最初の不意打ちは乗り切った、あとはみんなの腕前を信じるだけだ。
「よし! 2班はミュートに任せる!」
『任されよう』
「シーファとルイスは固まれ! 互いの背後に注意するんだ!」
『分かってる! まだ死にたかねえからなっ』
『ガーランドはどうするんだ!?』
 シーファの叫びが、まるで鋭い針のように耳に突き刺さった。その一言だけで、彼女の訴えたいことが怒濤のように伝わってきた。ガーランドはどうするんだ? また、自分を餌にして危険な真似をするんじゃあるまいな! と。
 残念。
 その通りだ。
「ふっ!」
 爆発のように息を吐き、ガーランドはその場で素早く一回転。上下左右から襲いかかった低速レーザー砲の一撃を、体の捻りだけで回避する。だがそれだけで済ますつもりはない。体を回転させたのには訳がある。
 がきんっ!
 鈍い音がして、ガーランドの指先に、固い何かが触れた。
 これだ!
 ガーランドは渾身の力でそれを掴み、一気にバーニアを噴かしてその場を離れた。低速レーザーを撃つ何者かは、恐るべき反応でその動きを察知し、五十土のような鋭いカーブラインを描きながら追いすがってくる。だが遅い。それに動きがワンパターンすぎる。ガーランドの体が華麗に宙を舞い、後ろから追ってくる低速レーザーをことごとく避けきった。
 そのままビルの影に逃げ込み、ガーランドはほっと胸を撫で下ろした。敵からの砲撃が止んだ。ビルの影に入ったガーランドを見失ったか。だが安心しているヒマはない。ガーランドは睨むように手の中のそれを見下ろし……
 そして言葉を失った。
「なんだ……これは?」
 ガーランドが掴んだものは、黒い板のようなものだった。だいたいB5の用紙を縦半分に切ったくらいの大きさだろうか。厚みは2センチばかり。光沢のある黒い塗料でコーティングされていて、側面に目のような彫刻が彫られている。
 ……いや、違う。目ではない。これが低速レーザーの砲口だ。見たところ、小型のレーザー砲としか思えないが……
 これがただのレーザー砲ユニットであるハズがない。こいつは自在に空を飛び回り、フロートドレス真っ青の機動性でガーランドに追いすがり、次から次へとレーザーの雨を浴びせてきたのだ。バーニア一つついていない板が、なぜ飛べる? あれだけのレーザーを撃ち出すエネルギーはどこに格納されている?
『それは……な……BEAM兵器の「ラメラー」というんだ……』
 声。
 聞き覚えがある声。ガーランドは弾かれたように顔を上げ、背後のビルを蹴りつけた。反動でガーランドが飛び退くと同時に、頭上からまたしても低速レーザーが降り注ぐ。すんでの所で死の光を避けきったガーランドは、一気に高度を上げて敵の正面に躍り出た。
「……蠍!」
 ガーランドは目を細め、血まみれの日本刀をぶら下げた黒いキャリオンクロウを睨め付けた。蠍、先にも述べたとおり、間違いなく大阪最悪のテロリストと呼べる人物である。彼の周囲には、ガーランドが持っているのと同じ黒い板が、十基ばかり浮遊している。今の砲撃の正体はあれだ。
 半透明のバイザーの奥で、血走った目を引きつらせつつ、蠍は高らかに哄笑した。
『ハッハッハ! いーだろー! こんないーもの貰ってしまってェ!』
 ひゅんっ!
 甲高い風切り音を響かせて、宙を舞っていた黒い板が蠍の背に集合した。ガーランドの手の中にあったそれも、生き物のようにもがくと、指の拘束を振り切って主の元へ急ぐ。ガーランドが呆然と見守る前で、黒い板は重なり合い、禍々しい漆黒の翼を形作っていった。
『ありがとうございます……バロン・アンタイトルド閣下!』
 ――なに?
 ガーランドは凍り付いた。
 バロン・アンタイトルド。
 奴が!
 次の瞬間、ガーランドは無意識に突進していた。一直線に蠍の懐へと飛び込み、引っ掴む。抵抗する時間も与えず、奴の背を後ろのビルに叩きつける。かはっ、と苦しそうな喘ぎ声が密着したヘルメット越しに聞こえてくる。
「……やっと……」
 握りつぶしそうなほどの力で蠍の喉元を締め上げながら、ガーランドは咆哮した。
「やっと見つけた! 奴の息がかかった傭兵をっ!」
『ふ……ふふ……おめでとう……』
「ふざけるな! 奴はどこだ? バロン・アンタイトルドはどこにいる!? 答えろっ!」
 にいっ。
 蠍の口元が不気味に吊り上がった。
『自分の胸に……聞いてみろおっ!』
 バシュッ!
 軽い破裂音を響かせて、蠍の翼が弾け飛ぶ。翼は再び黒い板――ラメラーへと姿を変えて、雲のようにガーランドを取り囲んだ。ラメラーの目から、一斉に迸る低速レーザー光線。ガーランドは舌打ち一つ、蠍の腹を蹴り飛ばし、その反動で遥か後ろへ交代する。
「何を!?」
『何をではない! 貴様はおれと……この私を決着をつけてはいない! 勝負だ、袖星よ……戦おう、袖星よ……』
「ぼくは袖星じゃ……」
 言いかけて、ガーランドは気付いた。俯き、肩を震わせる蠍の姿に。そうか、とガーランドは納得する。成り立たない会話。奴はもう、宿敵、袖星真弓の顔さえ分からなくなっている。
「狂っているのか……蠍、お前はもう」
『戦おう……な? 袖星、おれ……?』
「……哀れに思うつもりはない。言葉が通じないなら、捕まえて尋問でも何でもやってやる! 行くぞ、蠍っ!」
 空を裂いてガーランドは蠍に突撃した。蠍はすぐさま嬉しそうに顔を上げ、
『そう来なくっちゃあ!』
 目を子供のようにキラキラと輝かせた。

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