警部補ガーランドの最期 4(ボツ)
警察局の廊下を分隊室へと歩いていくガーランドは、堂々と胸を張っていた。ついこの間、よたついて窓にもたれかかっていた彼とは、まるで別人のようだった。迷いはもうなかった。やるべきことは決まったのだ。
ガーランドが安藤の謀略によって地位を失ってから、もう2年半になる。それは、彼にとって決して短い時間ではなかった。それなりの心の決着を付けるだけの時間はあった。生涯一現場人間として生きていくのも、悪くはない。そう思えるようになる程度には。
確かに、本来進みたかった道からは逸れてしまった。だが、一人の警官として、人々を守る歯車として働くことは、それなりに彼を満足させてくれた。小さな歯車の道を全うすることも、自分が目指した壮大な道と変わらず、大きな価値のあることなのだと……ガーランドはそう感じはじめていたのだ。
でも結局、それでは満足しきれない。
そのことに気付いてしまったから。
警察を辞めて、軍に入ろう。ゆっくりと廊下を行きながら、ガーランドはそう決意した。
今まで自分が歩んできた道を否定するのではない。
ただ、彼にとって最も輝かしく見える物は他にあった、というだけだ。
……そうすると、問題はあと一つ。
ぴたりとガーランドは足を止めた。
お腹が痛い。
頭の中に次から次へと顔が浮かんでは消えていった。ルイス。エミリィ。渋谷隊長。大橋小隊長。ミュート、マーガレット、ウェイン。
「みんな……」
思わずガーランドは声に出して呟いた。
そして、
「シーファ……」
ぺたっ。
ガーランドは窓に背を預け、手すりに肘を乗せて、ぼうっと天井を見上げた。背の後ろでは、夜の大阪がまるで星空のような輝きを放っている。
約束、したっけ。二十歳になったら、二人で一緒に飲み行こうって……
「どんな顔するかな……」
胸一杯に息を吸い込みながら、ガーランドは想像する。シーファの顔。シーファの仕草。シーファの言葉……
「怒る……だろうな……」
ガーランドは盛大に溜息を吐く。
覚悟を決めてしまったとはいえ、この最後の難関は……シーファたちに自分の決意を伝えるという難関だけは、さらりとくぐれそうにはないのだった。