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警部補ガーランドの最期 2(ボツ)

 千里中央(センチュー)の夜空に爆発の華。シーファは爆風に吹き飛ばされて、彗星のように落下していく。消し飛びかける意識の中で、シーファの意地が燃え上がる。耐えろ。戦え。
《飛べっ!》
 気迫がそのままコマンドとなり、フロートドレスを突き動かした。腰に装着した鞘のようなバーニアが、重金属プラズマを噴射する。墜落寸前のシーファが空へ跳ね上がり、小さな胸に加速度のハンマーが振り下ろされる。
 かはっ。
 苦しげに喘ぎながら、それでもシーファは網膜投影HUDを睨んだ。レーダーに感。敵を示す光の点が、瞬きながら接近してくる。
『よく頑張った。でもこれで終わりだ!』
「ガーランド!」
 空機最強のフロートドレス・パイロット。シーファの上司、先輩、憧れの人。でも今は、
 敵だ!
 急速反転、シーファはガーランドを正面に捉え、一直線に前進する。
 瞬間ガーランドのミサイルポッドが無数の白糸が発射した。優しい指のように包み込んでくるミサイルの束。距離を取って回避すべき状況。だがそれではガーランドの思う壺だ。接近戦特化のシーファを寄せ付けないための、彼の戦術なのだ。
 だったら敢えて前に行く!
 ――避けろよ、シーファっ!
 自分に言い聞かせ、
「《アクティヴ》!」
 シーファは背中の増加推進器に火を付けた。迸る光が翼となって、シーファを瞬時に120m毎秒まで加速する。体が引き裂かれそうなほどの衝撃に耐え、シーファはそのままミサイルの網に突っ込んだ。四方から噛みついてくる蜘蛛の糸の中を縫い進み、その追跡を振り切ってガーランドの目前へと接近する。
『避けたのか!』
「すごいっ!?」
『自分で!?』
 思わず突っ込みを入れながら、ガーランドは慌てて後退した。だがシーファのトップスピードから逃げられるドレスは存在しない。瞬き一つするより早く、シーファはガーランドの懐に飛び込み、右の拳を叩き込む。
 フロートドレスは人間の体重を千分の一に縮小する。だからただのパンチでも、千倍の力で殴られたに等しい衝撃を受けるのである。ガーランドは矢のように吹き飛ばされて、ビルの外壁に強く背中を打ち付けた。
 ――行ける!
 シーファの背筋に予感が走る。バーニア全開、拳を振り上げながらガーランドを追い、一瞬動きを止めたガーランドの胸に必殺の一撃を叩きつける。
「《インパクト》っ!」
 手甲に内蔵された電磁ピストンが、ガーランドの胸をまともに貫いた。

「ぷはっ!」
 シーファはヘルメットを脱ぐなり、破裂するように息を吐いた。全身汗でびしょぬれだ。暗くて狭い、訓練用フロートドレス・シミュレータのシートの上、シーファは荒い息を吐く。首の後ろのニューロリンク・コネクタから端子を引き抜くのも忘れ、ぼうっとヘルメットに視線を落とす。
 ……うそ。
「勝っ……!?」
 シーファは思わず飛び上が
 ごん。
 次の瞬間天井に頭を打ち付けて、シーファは頭を抱えつつ、再びシートに座り込む。
 だが痛みよりもずっと大きな感情が、胸の中で核爆発を繰り返していた。痛がっている場合ではなかった。シーファはシミュレータのドアを蹴り開け、外へ転がり出た。
 シミュレータ・ルームには、シーファが入っていたのと同じ、大きな箱形のシミュレータが5、6台設置されている。シーファは自分の隣のシミュレータに飛びついて、勢いよくドアを開け放った。
「ガーランドっ!」
 中では、頭を抱えたガーランドが、ぐったりとシートに座り込んでいた。
 シミュレータとはいえ、神経リンクで痛みまで錯覚させる代物だ。それだけに、致命傷を受けたときは、寸前で神経リンクを強制切断するという無茶な安全装置が働く。それで致命傷は避けられるのだが、同時に脳神経への大きな負担ももたらし……
 シミュレータ内で「戦死」したものは、乗り物酔いに似た衰弱状態に陥るのである。
 ということは……
「が、ガーランド、私……」
 シーファは黒髪を振り乱して、汗ばんだガーランドの胸にすがりついた。
「私っ!?」
「おめでとう」
 ガーランドは微笑んで、
「負けたよ、シーファ」
 悔しそうにシーファの勝利を認めたのだった。
 最初は呆然。
 次にびっくり。
 最後に津波のような嬉しさが押し寄せて、
「勝ったあー!?」
 梅田城じゅうに響き渡るほどの大声で、シーファは絶叫した。

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