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警部補ガーランドの最期 5(ボツ)

 なんだか無性に体を動かしたくなった。だからガーランドは……京阪電車に飛び乗った。
 淀屋橋から電車で東へ15分ほど行ったところに、枚方という街がある。大阪と京都のちょうど中間点にある、かつての宿場町。今では、大阪国と日本国の国境線にあたる物々しい要塞都市となってしまった。淀川を横断してに築かれた長く高い防壁は、枚方ゲート。姫路ゲート、生駒ゲートと並ぶ大阪国三大国境の一つである。
 枚方の駅で降りて、バスに乗り換える。国防軍の基地が並ぶ山道を、ガーランドを乗せたバスは進んでいった。大阪の東の果て、緩やかな丘の上に、目指す場所はある。
 十数分後、西日の差す山の斜面を登っていく、ガーランドの姿があった。片手には小さな花束を提げ、もう片手には水と柄杓の入った桶を提げ、まるで大阪国を見守るように立ち並ぶ石柱の中を、ガーランドは真っ直ぐに進んでいく。
 ここは、大阪国でも最も大きな墓地なのである。
 様々な人種が入り交じる大阪国の墓地は、さながら墓標の見本市のようだった。半数ほどを占める和風の御影石。様々な形の十字架。中国風の平たい墓碑。イスラムの土葬場。火葬後の灰を流せるようになっている川は、ヒンドゥー教徒用。端の方には、ペット用の共同墓石も見える。
 世界中のありとあらゆる宗教、文化が集まる大阪。その特性が最も色濃く現れるのは、墓地なのかもしれない。
 やがてガーランドは、一つの墓石の前に辿り着いた。
 ここに眠っているのだ。ガーランドの両親と……そして、姉が。
 意外にも、ガーランドの家族が眠る墓石は、和風の御影石製だった。ガーランドは移民の二世だが、母方は日本人なのだ。
 水で清め、墓石を拭き、花を取り替える。もう11月だというのに、夕暮れ時に本気で墓掃除をしていると、額からは汗が噴き出してくる。無心になって体を動かし続け、やがて目の前の墓石が夕焼けに煌めくまでになると、ガーランドはやっと胸の息を吐き出した。
 墓前に線香を立て、しゃがみ込んで手を合わせる。
「姉さん」
 ひとしきり祈ってから、ガーランドは眩しげに墓石を見上げた。
「ぼく、軍隊に行くよ」
 山肌を撫でるように風が吹き抜けていった。ガーランドの額に浮かんだ汗が、ひんやりとした感触を残しながら消えていく。
「本当を言うと……惜しいんだ。今の仕事、気に入ってるんだ。ルイスも、エミリィも、隊長も、大橋さんも……シーファも……みんな、好きなんだ」
 ガーランドには、自分一人でそれを確かめることができなかった。
 誰かに聞いて貰わなければ、自分一人で考えたことなど霞のように消えてしまうような気がした。なんて弱々しいんだろうと思う。脆すぎると自分でも思う。でもそんな自分を乗り越えるために、決断して前に進むために、どうすればいいかをガーランドは知っているから。
「でも」
 だからガーランドはここに来た。
 今は亡き姉に、弱音の全てを預けてしまうために。
「まだ、ぼくはあの頃のぼくだから」
 そしてガーランドは立ち上がった。
 行こう。新たな場所へ。
 自分の歩むべき道の、新たなる一歩へ。

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