ボツ。
なんて、格好付けてみたはいいものの。
決意を固めても、まだ問題は一つ残っている。翌日、警察局の廊下をとぼとぼと歩きながら、ガーランドは内心モヤッとしたものを抱えていた。
あんまり出勤したくないなあ……
不登校の子供のようである。
転職のことを話したら、みんな、どんな顔をするだろうか。
特に……シーファは。
気が付いたら、131分隊室のドアに前に立っていた。ガーランドは大きく溜息を吐く。気が重いから、できるだけゆっくり歩いていたのに。なるたけ遅く、できるだけ長く、と思うときほど、時間は速く流れていく。時の支配者は残酷だ。覚悟を決めるのに十分な時間は、いつだって与えてくれない。
でも、避けては通れない道なのだ。
だったら早いほうがいい。今日、顔を合わせたら真っ先に話そう。そうでないと、決意が鈍ってしまいそうだった。話す機会を失ってしまいそうだった。
さあ、行け!
不安な心を深呼吸で押しつぶし、ガーランドがドアを開こうとした……そのとき。
「ガーランド」
誰かに呼ばれて、ガーランドはびくつきながら振り返った。腕組みしたまま廊下の壁に背中を預けたシーファの姿がそこにあった。思わずガーランドはすくみ上がった。突然のことに驚いて、言葉一つ出てこなかった。ただ、むっつりした顔で見つめる……いや、睨んでくるシーファの前に、立ち尽くすのみだった。
「シーファ……」
「ちょっと来てくれ。用があるんだ」
「え?」
ただ戸惑っているだけのガーランドに苛ついたのか、シーファは彼の手首を掴み、強引に引っ張って歩き出した。小さなシーファに引きずられながら、ガーランドは気付いた。この方向にある部屋と言えば……
シミュレータ・ルーム。
着くなりシーファは無言でドアを開き、コンソールに張り付いて起動作業に取りかかった。やがてシミュレータに電源が入り、微かな唸り声が反響し始める。ここに至っても、ガーランドには説明の一つも無しだ。
ようやく落ち着いてきたガーランドは、半分呆れたような声で問いかけた。
「シーファ、朝から演習?」
「おととい」
「え?」
ぴたり、とシーファは手を止めた。
顔を伏しがちにして、ガーランドにつかつかと歩み寄る。
「私が勝ったとき、お前全力じゃなかったな」
体が凍り付くかと思った。
後ろめたさが、ガーランドに顔を背けさせた。確かにあの時は、転職のことで頭がいっぱいで、演習どころではなかったのだ。
「ぬか喜び……させられた」
シーファは震えていた。
「……ごめん」
沈んだ声で謝るガーランドに、シーファはぷいと背を向けた。起動作業の続きにかかる彼女の震えは、もう止まっていた。
「ま、あの話を聞くまで気付かなかったんだから、私も間抜けだ。お互い様ってことで、おとといのことは許してやる!」
早口にまくし立てるシーファの声は、不自然なほど明るかった。