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へっぽこアドベンチャラー ボガー&ウルリカ 2

 上下水道整って 道路は全て石畳
 中央にそびえる大きな城は 威風堂々エイトサークル城
 街中流れるハザード川は 多くの帆船水面に遊ぶ 南北商業の大動脈
 あの斬新たるデザインを 三角塔をごらんなさい
 魔術師ギルドを一手に統べる 賢者の学院の御姿だ
 ああ おっかさん ここが花の都オランだよ

 調子っぱずれな竪琴の音。
「いーぞ、レジィナちゃーん!」
 昼間っからガラの悪いのが集まる繁華街の酒場、「古代王国への扉」亭。歌い終わった吟遊詩人の女の子を、酔っぱらいどもが取り囲み、やんややんやの大喝采。美人とは言えないが愛嬌のある女の子は、照れくさそうに笑いながら、次の曲をポロンと奏で始める。
 ――みんな楽しそうだこと。
 カウンター席のウルリカは、だはぁーっと盛大に溜息を吐いた。酒場の賑やかさが、余計に落ち込んだ気分を助長してしまうのだ。
「やっぱ向いてないのかなァ、戦士……結局泥棒には逃げられるし」
 逃げたのはこっちである。
「おかげで報酬もパァ。宿代とお店のツケは溜まる一方。困ったモンだ、まったく」
 そして、くいっとお酒のグラスを傾ける。
「困ったのはこっちも同じだ」
 カウンターの中でむつかしい顔をしているのは、酒場のマスターである。40がらみの、なかなか渋いおっさんで、がっちりした体型がウルリカ好み。エルフはみんな年を取らないし、線の細いのばっかりなので、こういうオジサンタイプは新鮮だったのだ。
「愚痴ってないで、早く次の仕事を探すんだな。ホレ」
 グラスを磨きながらマスターは店の壁をアゴで指した。白い石造りの壁に、無数の張り紙がところ狭しと貼られている。その数2、30枚。長年貼っては剥がしてを繰り返してきたらしく、糊の跡があちらこちらに残っていた。
 冒険者募集のチラシ、である。
 このアレクラスト大陸の至る所には、恐ろしいモンスターが棲んでいる。街中だってまだまだ治安が悪いし、お宝が眠っているかもしれない古代遺跡の類が各地に点在している。というわけで、荒事に慣れた人間の需要は、非常に高い。
 役人や商人などに雇われて、そうした危険に立ち向かう、腕に覚えのならず者たち……人は彼らを「冒険者」と呼ぶ。戦士、盗賊、魔法使いに吟遊詩人、なぜかお坊さんや学者まで、ありとあらゆるうさんくさい連中が、冒険者として日々危険を買う商売をしているのだ。
 もちろん、ウルリカもその中の一人。
 自由業と言えば聞こえはいいが、要するにただのゴロツキだ。お仕事をこなしていかなければ、明日の生活も危うくなる。ウルリカがこの酒場にやってきた理由も、愚痴を言いたかったのが半分、お仕事を探したかったのがもう半分なのだ。冒険者は酒場に集まり、必然、仕事の依頼も酒場に集まる……というわけである。
 ウルリカは肩をゴキゴキ鳴らしつつ、椅子から降りて張り紙の方へ寄っていった。
「どっこいしょ……っとお。さーて、オイシイお仕事さん、いませんかーっと」
「優雅さのねえエルフだな……」
 マスターは呆れて肩をすくめながら、店の奥に引っ込んでしまった。

「フンッ!」
 カビ臭い酒場の裏通りに、ボガーの気合いが響いた。左右の腕で一つずつ、酒樽を軽々と持ち上げる。丁度顔を出したマスターが、あまりの怪力に感嘆の声を挙げながら、
「おう、ボガー。その樽、店の中に運んどいてくれ」
「あいよっ」
 景気よく答えてボガーは裏口から店に入っていった。
 今日の彼は、当たり前だが、昨夜のような黒ずくめの服装はしていない。動きやすいように上半身裸になって、黒光りする胸板の上に、首から手ぬぐいをぶら下げている。確かに体型はずんぐりむっくり、顔は短い髭に覆われているが、顔つきそのものは若々しい18歳のそれだった。
 さて、彼がこんなところでなぜ酒樽を運んでいるかというと。
「ふうっ! やっぱ、汗掻いて働くって楽しいぜ!」
 ……バイトである。
 足が遅い、頭が悪いで、盗賊としてはへっぽこな彼。盗みに入っては失敗し、怪力でなんとか追っ手を振り払って逃げてくるのが精一杯なのだ。当然、盗みの仕事だけで食べていけるわけもなく、こうして日頃はバイトに勤しみ、その給料で盗みの計画を立てているのだった。
 アホらしいと言うなかれ。本人は大まじめである。

(続く)

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