へっぽこアドベンチャラー ボガー&ウルリカ 4
太陽の燦々と照りつける、爽やかな西部の朝。白い石畳に覆われた大通りを、恰幅のいい商人が一人、荷馬車と丁稚たちを引き連れて練り歩く。丁稚の一人がじっと物欲しそうに見つめるのは、露店に積まれた果物の山。ずらり並んだ露店を、雀のような主婦たちが物色して回り。その足下を子供達が転がるように駆けていく――
そんな平和な日常を、ぶちこわしにするだみ声一つ。
「待ぁてえええええっ!」
その声に振り返った人々は、蜘蛛巨人を一目見るなり、悲鳴を挙げながら道をあけた。どすんどすんと重い足音を響かせて、大通りを逃げる蜘蛛巨人。唖然としてその背を見送る街の人々を、遅れてやってきた二つ目の影が、暴れ馬のように跳ね飛ばす。
「どけどけーっ!」
「どわー!?」
走る大迷惑、その名はボガーである。
規則正しく呼吸を刻み、ボガーはえんえん蜘蛛巨人を追っかけ回していた。もうかなり時間がたったと思うのだが、蜘蛛巨人の背中はちっとも大きくならない。まあ、小さくなりもしないのが、せめてもの救いではある。
どうやら、ボガーと蜘蛛巨人の素早さ……否、足の遅さは、いい勝負のようである。
「くっそー、離されもしないけど……これじゃあいつまで経っても追いつけないぞ!」
いいかげん疲れてきたボガーが、ひいひい言いながらぼやいていると、
「ちょっとあんた。何やってんの?」
横から飛んでくる呆れたような声。
いつの間にか追いついてきたエルフの冒険者……ウルリカが、軽やかに股を上下させながら、ぴたりとボガーに併走していた。ボガーの方は全力疾走なのに、まるで軽いランニングでも楽しんでいるかのような、涼しい顔つきである。
なんだか少し悔しいが、取りあえずそれは置いといて。
「追いかけてるんだ、あいつをっ」
「それが全速力なわけだ……」
――か、「かわいそー」みたいな顔するなあー!
口に出して言うと余計に悲しくなりそうなので、ボガーは叫びたいのを必死に堪えた。
そんな穏やかならざるボガーの心情を知ってか知らずか、ウルリカは、にっと憎めない笑みを浮かべた。
「オッケー。あたしも目的は一緒だよ。協力しない?」
「協力?」
「あたし一人じゃあ、とてもあいつを取り押さえられない。と、ゆーわけで、先に行ってあいつの足止めするから、その間にあんたも追いついて!」
「わ、分かった!」
走りながら互いに頷きあって、即席パーティ結成!
次の瞬間、ウルリカは一陣の風となった。固い靴底が石畳を叩き、バチッ、バチッ、と赤い火花が音を立てて弾け飛ぶ。まるで真っ赤な蛇のように火花は連なり、みるみるうちに蜘蛛巨人へと迫っていく。
ドスドスと重い足取りで逃げる蜘蛛巨人の背は、もう目と鼻の先である。
――追いついたっ!
思うが早いか、ウルリカは一際強く地面を蹴った。
「とぉーりゃあああああっ!」
がばっ!
ウルリカの体が宙を舞い、そのまま蜘蛛巨人の背中にのし掛かった!
だきっ。
どすん。どすん。どすん。
――あれ?
「おーい。おんぶされてどーすんだー。」
後ろの方でボガーの冷淡なツッコミが飛んだ。
背中にのし掛かったつもりが、あんまりにも体が軽すぎて、ただ巨人におんぶされただけ。もちろん、蜘蛛巨人は何事もなかったかのよーに歩き続けている。
派手に気合い入れて飛びかかった手前、ウルリカはかぁーっと赤面し、
「う、うるせー! これからやるの、これからっ!」
巨人にしっかり抱きついていた腕を放すと、ひらりと地面に舞い降りる。そしてウルリカは腰の剣を抜きはなった。