へっぽこアドベンチャラー ボガー&ウルリカ 6
「と、ゆーわけでぇ……」
揉み手なんぞしつつ、ウルリカは満面の営業スマイルを浮かべた。目の前には、さっきの魔術師のおっさん。あと、その連れ……というか、部下らしき男達が数人。あまり目立ちたくないというおっさんの意向で、人通りのない裏通りに移動して、交渉開始。
そう。いざやたのしき報酬受け取りの瞬間である!
「なんか、さっきと姿形は変わっちゃってますけどぉ……間違いなく、あのごっつい巨人と同一人物ですから!」
自信たっぷり、ウルリカは後ろの女の子を披露した。
女の子には頭からすっぽり布をかぶせてある。ライトグリーンのショートヘアがまぶしい、美人とまではいかないが、それなりに可愛い女の子である。こんな娘を素っ裸で連れ歩いたりしてみなさい。目立つどころか下手したら憲兵にとっつかまりかねない。
というわけで、取りあえず肌を隠してみたのだが……
大きな布をかぶってもちっとも隠れない大きな胸(羨ましくなどない!)。布の切れ目からチラチラ除く脚線。そして何より、布の上からグルグル巻きに体を縛る荒縄。
――逆効果だったかもしんない。
その証拠に、女の子を縛る縄の先を握ったボガーは、真っ赤な顔をして目をそらし続けている。それでも、時々ちらりと布の隙間のあたりをのぞき見てしまうのは、青少年の悲しき運命か。
まあ、いまさら過ぎたことを悔やんでもしかたがない。誰かが憲兵に通報しないことを祈るだけである。
とにかくおっさんは、布の隙間からまじまじと女の子の顔を見つめた。顔面くしゃくしゃにして泣きじゃくる女の子に向かって、満足そうに大きく頷き、
「ああ、確かにこいつだ。よく捕まえてくれたな」
「あのー。俺、よく分かんないんすけど……」
後ろでボガーが首を傾げる。
「女の子があの巨人って……どういうことなんすか?」
「あんたねえー、ここまで来たらだいたい分かるでしょーが」
呆れ顔で振り返るのはウルリカである。腰に手を当て、もう一方の手でぴこぴこ人差し指を振り、
「突然街中に出現した巨人。襲われたのは魔術師らしきおっちゃん。巨人はいきなり女の子になっちゃった。とくれば、答えはひとつ。この子も魔術師なのよ」
「そう……《変化(シェイプチェンジ)》という魔法があってね。魔術師は自在に姿を変えることができるのだよ……」
背中の後ろで補足説明するおっさんに、ウルリカは一人こくこく頷いて……
瞬間、背筋を走る悪寒。
弾かれたようにウルリカが振り返った時にはもう遅い。いつの間にか背後に忍び寄っていたおっさんの部下の一人が、丸太のような腕でウルリカを羽交い締めにする。一瞬の早業、しかも屈強な男のパワー。じたばたもがいてみるが、男の腕はびくともしない。
「ちょっ、何!?」
「お前ら、何するんだ!」
叫びながらボガーは背中の得物、大きなヘビー・メイスを抜きはなつ。だがボガーがそれを振るうよりも早く、
「《眠りの雲(スリープクラウド)》」
ぼわんっ!
おっさんが低く唱えた瞬間、ボガーと女の子の頭上に白い雲がもくもくと膨れあがった。二人はそれをまともに吸い込み、
「はうっ。」
くたり、とその場に倒れ込む。
――魔法の催眠ガスか!?
「な、なさけねーぞドワーフの兄ちゃん! しっかりしろー! こらー!」
とはいえ、情けないのは羽交い締めにされて身動き一つできないウルリカも同じである。ウルリカを苛む無力感も、もはや顔なじみである。おっさんは抵抗を止めたウルリカの顔を覗き込み、にやぁっ、と悪党面をしてみせた。
「さすがにエルフは賢いな。しかし……その賢さが身を滅ぼすこともある」
――くそっ。
噛みしめた奥歯の隙間から、眠りの雲がウルリカの肺にも忍び込み――
ウルリカの意識は闇に没した。