へっぽこアドベンチャラー ボガー&ウルリカ 7
――どこ、ここ?
気が付けば、ウルリカは森の中に立っていた。
うっそうと覆い繁る新緑。強烈な緑の臭い。足下でぎゅっと音を立てて沈み込む森の土。水は遠くでさやさやと流れ、風の精霊……シルフが、ウルリカの頬を撫でながら駆け抜けていく。
――ここは……
はっ、とウルリカは気付いた。
――エルフの里!
そう思った瞬間、あたりの景色が熱風に吹き飛ばされ、心安らぐ緑の風景は、殺伐とした真紅に彩られた。炎。森を灼いていく炎に囲まれて、ウルリカは身を強ばらせる。炎。
炎の中に、ゆらめく異形。
青銅色の肌。
長い鞭のような尾。
はげ上がった頭に一本生えた、歪んだ角。
禍々しく輝く両の瞳。
悪魔(デーモン)。
――来るなあっ!
ウルリカは思わず叫びながら両手を広げた。自分の背後にある故郷を、エルフの里を護らないと。自分が護らないと。護……
ふと、背後で蠢く気配。
振り返れば、そこに懐かしい顔が並んでいた。ネリー。ヴェネクナ。テプシュリーエ。
――みんなっ!
と声を掛けようとして気付く。かつての友達は、みんな一様に、怒りと恐怖に顔を歪めて、ウルリカを……いや、ウルリカの後ろにいる悪魔を睨みつけていた。彼女たちの手が、胸の前に掲げられる。一人が手にした松明の中で、火蜥蜴(サラマンダー)がチロチロ舌を出している。
――だめ……
ウルリカはまるで子供のように首を振った。
「《火弾(ファイアボルト)》!」
――だめーっ!!
松明の炎を切り裂いて、一斉に放たれる三条の火炎。
火の矢はウルリカの体をすり抜けて、悪魔目がけて飛んでいった。決して外れることのない魔法の矢は、しかし悪魔の体を目前にして、
「《四大制圧(サプレス・エレメンタル)》」
ぼしゅっ!
水をかけられた焚き火のように、焦げた臭いを放ちながら消滅する。
悪魔の唱えた魔法によって、精霊の働きそのものを停止させられて。
敵うわけがない。非力なエルフが、精霊の助けを借りることもできず、邪神の眷属を相手にして……
――逃げて!
ウルリカは叫んだ。
あんなのは、もう二度とごめんだった。
あんなことになるのだけは!
――逃げ……
だが、必死の叫びも空しく。
「《火球(ファイアボール)》」
炎が爆ぜた。