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2007年02月19日
マントは冒険者の必需品である。
衣服としてのマントは、お世辞にも洗練されているとは言い難い。ほとんどが丈夫な布を適当な大きさに切っただけのシロモノで、せいぜい、それに留め具がついただけ、といった具合。袖のあるちゃんとした外套に比べれば、いかにも、安物といった風情がある。
だが、それでも冒険者達は、必ずと言っていいほどマントを身につけている。もちろん値段が安いということもあるが、何より、マントには「着る」以外の様々な用法があるからである。
たとえば、物を包んで背中に結わえ付ければ、簡単なザックの代わりになる(東方の異国には、「フロシキ」というそれ専用の布も存在する)。革製のものなら、水汲みにだって使える。地面に敷けば、夜の凍り付く大地から身を守る大切な寝具になる。
英雄譚に登場する英雄達が、必ずマントを翻しているのは、そうした理由があるからなのだ。だから、刺繍やら宝石やらの飾りが入ったド派手なマントなんてもってのほか。そんなものを着て冒険者をやるなんて、邪道も邪道。冒険者は常に、実利第一である。
というわけで、今日も今日とて……
エルフで侍のウルリカは、ボロボロになった自分のマントを馬小屋の藁の上に敷き、今夜の寝床を作るのに勤しんでいた。
……のだが。
「いやー、今日の収穫はスゴかったよなー」
いち早く寝床を作り終えたドワーフのボガーが、馬小屋の藁をワサッと踏みしめ、熱弁を振るっている。
「地図作りも順調! 魔物からぶんどった宝箱を開けてみたら……なーんと! 上物の短剣が入ってた! 店で買えば15000はしようかって逸品だ」
「うんうん。テンション上がったね、あんときは」
ボガーの足下で、ちっこい女の子がこくこく頷いている。ノームハーフのプリースト、ポー。種族が種族なので子供みたいな背丈だが、こう見えても立派な大人である。なんだかんだで、年はパーティで一番高かったりする。
「あのとき俺は震えたね! ああ、これでしばらくは豪遊できる、ってさ!」
「ロイヤルスイート泊まれたかな~?」
「あったり前だろ? 宿屋の親父のほっぺた札束でペチペチしてやれたぜ!」
「あぁ~ん! あ・こ・が・れ・るぅ~」
ウルリカの長い耳がぴくぴくしている。がまんがまん……
「ねーねじゃーさじゃーさ、お札でうちわつくれる!? ねえ作れる!?」
「作りまくれる。冬なのに扇ぎまくってうっかり凍え死ぬくらい作れる!」
「あふん……も、だめ……このまま凍え死んじゃいたいぃ~」
手許のマントに皺が寄っている。ウルリカの細い指に握りしめられて。
でもがまんがまん……
「そーいえばぁー、私ぃー、今までずぅー……っと革鎧だったんだけどぉ~」
「みなまで言うな!」
ぴんっ、とボガーは人差し指を押っ立てた。
「ボルタックんとこに飾ってあった、かわいい模様の胴鎧……だろ?」
「いやぁぁあああ~ん♪ 買ってくれるのぉ~??」
「ああ……よく似合ってるぜ、ポー……妄想だけど」
「ありがとう、ボガー……私うれしい……妄想だけど」
「さあ、今日はロイヤルスゥィートでめくるめく夜を楽しもうぜ……妄想だけ」
「どぅあらっしゃぁーッ!!」
ばっさぁーっ!
ついに堪忍袋の緒が切れた。ウルリカはせっかくいい具合にできかけていた寝床の藁を、ボロボロのマントもろとも天井に投げ挙げる。
「悪かったわよっ! あーそーよ考えなしに突っ込んだあたしがみーんな悪いの! ごめんなさいねっ!」
「そーだお前が悪い。」
「もっと謝れもっと。」
二人並んで冷たい視線を送るボガーとポーに、ウルリカは拳をわなわな振るわせた。
「こ、コノヤロウ……」
つまり……こういうことである。
思わぬ大収穫を得たウルリカたち一行だったが、その直後、大きなカエルとコヨーテの群れに遭遇。どうせ大した敵じゃないとタカをくくったウルリカが、いつものように先頭に立って突進し……
なんと、意外な攻撃力を見せた大カエルに囲まれ、攻撃を集中されて死んでしまった。
前衛戦力の要を失った一行は、なんとか魔法を駆使して敵を撃退したものの、全てが終わった後には四つの死体。生き残ったのは、ボガーとポーの二人だけという有様だった。
で、結局。
上物の短剣を売って得た7500Gは、4人分の復活費用で、ぴったり露と消えたのだった。
「どーしてくれるのよー。あんたのせいで貧乏脱出のチャンス逃しちゃったじゃないのー」
「そーだそーだ。俺が普段、どんだけ苦労して生活費調達してると思ってんだー」
「ウ……ムグググ……ウキー!!」
二人にネチネチと詰め寄られ、さすがに今日ばかりは面と向かって反論も出来ず、ウルリカはサルのように寝藁の上で手足をバタバタさせるのだった。
そんな様子を見つめる三つの視線もまた、馬小屋の中にある。
「あ、ちょ、ちょっと……諸君、ケンカはよくないぞ」
「エドモンド殿。放っておくがよろしかろう」
ファイターのエドワードは、ケンカするウルリカたちを宥めようと腰を浮かせたが、すぐにアに呼び止められた。アは妙齢のエルフ女性で、この世の創造に関わったとされる偉大な神の名を神殿から授かった、由緒正しいビショップの一族である。彼女に、自分の名前についての蘊蓄をかたらせたら、一晩経っても終わらない。
「あの……ア殿」
エドワードは頭をぽりぽりと掻いたが、アは視線を向けることすらなく、胡座を掻いたまま。戦利品の杖を手に取り、持ち上げたりひっくり返したり、じっくりと鑑定することに余念がない。
ただ、エドワードにぴしゃりと言いつけたことには、
「大丈夫だ。ボガーもポーもじゃれておるだけ……儂にはなんでも分かる」
「僕の名前、エドワードなんですが」
……………。
「そんなことよりも」
「そんなことですか!?」
「よく考えてみるがよい」
アは杖を膝の上に置くと、遠い目をしてウルリカたちのケンカを眺めた。
「ボガーたちには、戦利品を持ち逃げして儂等を見捨てることもできた。だのに、なんだかんだでそれをせぬ。よき友ではないか、のう、エマニュエル殿」
「エしか合ってません。」
「それに比べれば、少々の貧乏など問題にもならぬ……のう、ズュタァーナ」
額の冷や汗を隠しつつ、アは隣にぼーっと座り込む、メイジの少女に視線を送った。少女の名はズュタァーナ。魔法の才能は申し分ないのだが、ちとオツムの方に問題があったりもする。
「ん」
ズュタァーナはとんがり帽子の広いツバの下で、金色の目をぱちくり。
「訓練場でかせいだらえーやん」
この世の外にいる何者かの意志でも受信したのか、また身も蓋もないことを言うズュタァーナであった。
●馬小屋ウォーマーズ メンバー表
ウルリカ サムライLv7 エルフ
エドワード ファイターLv8 人間
ポー プリーストLv8 ノーム
ボガー シーフLv8 ドワーフ
ア ビショップLv8 エルフ
ズュタァーナ メイジLv8 人間
投稿者 darkcrow : 2007年02月19日 23:39
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コメント
ブラボー。
投稿者 国東タスク : 2007年02月20日 01:28
アリガトー!
投稿者 木許慎 : 2007年02月21日 00:47