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2008年02月25日
RPGの華と言えばやっぱり剣。剣に限らず、武器防具。強力な武器の存在は、なんだかんだ言ってファンタジーの醍醐味です。
とゆーわけで、武器を作るために欠かせないもの……すなわち、金属について最近調べております。調査の途中結果をメモがてら記事にしてみます。
●武器となる金属に求められる性質
武器というのはかなり特殊な道具です。
金属は建材や機械部品として広く用いられていますが、武器ほど厄介な性質を求められる道具はなかなかありません。なにしろ思いっきり敵に叩きつけられるのが武器の役目ですので、素材的に「強い」ことがどうしても求められます。では、素材の「強さ」とは一体なんでしょうか。
まず第一には「硬度」が挙げられます。硬い素材で殴ればそれだけ破壊力が高くなるのは必然です。はるか原始時代、類人猿たちが石器を使うようになることで文明の曙を迎えたのも、石が「硬度」の高い素材だからです。
ところが、武器として用いるためには硬度だけでは足りません。硬度が高い物質は、擦りつけて何かを削るためには非常に役立つのですが、一瞬のうちに強い力(正確には力積)を加えると割れてしまうことがあるわけです。ダイヤモンドが好例ですね。
そこで、「硬度」の他に「靭性」が必要になります。「靭性」を簡単な言葉で言うなら「粘りけ」のようなもので、つまり、一度に大きな力を加えても変形しにくい、破壊されにくい性質のことを言います。
この二つの性質を併せ持った素材こそ、武器に最適な素材であると言えます。が、多くの場合、「硬度」を高めれば「靭性」は下がる傾向にあるので、この二つをどう両立させるか、絶妙なバランスに保つか、というところが、武器素材となる金属に求められるのです。
●鉄
言うまでもなく鉄は武器として最も広く用いられている金属です。現代の包丁とかには、ステンレス鋼とかモリブデン鋼とかが使われてますが、これらも鉄をベースにした合金です。モリブデン包丁、硬すぎて研ぎにくいんだよ!! 砥石がみるみる磨り減ってくよ!!
……閑話休題。
ひとくちに鉄といっても色々ありますので、それぞれ分けて見ていこうと思います。
◆炭素鋼
一般に「鉄」として用いられてるものは、基本的に全て鉄と炭素の合金(Fe-C)です。炭素含有量が増えるほど「硬度」が増し、逆に「靭性」は低下していきます。よって、用途に応じて炭素含有量を調整した鉄炭素合金(炭素鋼)が作られており、含有量によって名前が違います。
◇銑鉄
鉄鉱石(酸化鉄)を還元して作ったばかりの鉄のことを、銑鉄と呼びます。その過程で、融点を下げるために炭素を混ぜ込むため、炭素含有量は2~5%程度と非常に高くなります。「硬度」は高いのですが、「靭性」が低く、すぐに割れてしまうため、このままで建材などとして用いることはありません。そこで、転炉という装置を使って炭素を追い出し、軟鉄に作り替えるという過程が必要になります。
ちなみに、炭素4%くらいの銑鉄に(さらに何かを混ぜて)、鋳物の材料とした鉄のことを、鋳鉄と呼びます。融点が低いので融かしやすいところがポイントですね。
◇軟鉄
銑鉄から炭素を追い出し、炭素含有量を0.02%以下に下げたものを軟鉄、あるいは単に鉄と呼びます。ほとんど純粋な鉄じゃねえか!と思うかも知れませんが、化学の世界では、99.98%なんてのは純粋と呼ぶには程遠い数値なんです。
ともかく、炭素含有量がぐっと下がっているため、銑鉄に比べて非常に「靭性」は高くなります。反面「硬度」は低く、柔らかくて曲がりやすい性質を持ちます。釘とかワイヤーなど、柔軟性が要求されるところによく用いられているようです。
本題となる武器の世界では、刀身としてこの軟鉄が用いられます。しかし「硬度」がちょっと足りないため、刃の部分には下記の鋼鉄を溶接して用います。「靭性」の高い軟鉄と「硬度」の高い鋼鉄のいいとこどりというわけですね。
◇鋼鉄
一度炭素を追い出して作った軟鉄に、再び適量の炭素を混ぜ込み、炭素含有量をおよそ0.02%~2%の間にした鉄のことを、鋼(はがね)、鋼鉄と言います。銑鉄より「靭性」に優れ、軟鉄より「硬度」に優れる鋼鉄は、武器の素材として最適です。
そもそも、「はがね」という言葉は「刃金」が語源であり、刃の素材として使う金属のことを指していたんだそうです。今では建材やら機械部品やらに使う鉄合金はみんなひっくるめて鋼と呼びますが、これは言葉の意味がどんどん拡大された結果なのですね。
そして、刃として用いるときには、鋼鉄の炭素含有量が最大の鍵になります。最適な「靭性」と「硬度」のバランスが求められるわけです。日本の高級鋼として「玉鋼」と呼ばれるものがありますが、これが珍重されるのも、その絶妙な炭素含有量(プラス、合金を作る時の絶妙な混ぜ方)が、刀剣にぴったりだからなのですね。入ってる元素は単なる鉄と炭素だけなのに。このへんが、いかにも職人技という感じがします。
◆クロム鋼
クロムCrを混ぜた鋼は、腐食しにくい(錆びにくい)性質を持つようになります。いわゆるステンレス鋼です。
武器の素材としてはいいかなと思うんですが、「ステンレスの剣」とか言われるといかにも安っぽい……決して錆びない魔法の剣、みたいな感じで扱えば、ファンタジーっぽくなるかなと考えてます。あるいは「古の刀工の業物(なぜか錆びない)」とか。
◆モリブデン鋼
モリブデンMoを混ぜた鋼は、焼き入れ性が高くなります。これがわりと重要で、というのも、鋼は焼き入れ(ファンタジーの鍛冶屋さんもよくやっている、剣を加熱してから水に突っ込んでジュワーッってするやつ)によって組織の構造が変化し、硬くなるという性質を持っているのです。モリブデンには、焼き入れをしたときの硬度上昇率を高める働きがあるのです。
……前述しましたが、モリブデン鋼の包丁は、硬すぎて研ぐのが大変です。専用のダイヤモンド砥石なんてものもあるくらいで。
そのくらいの「硬度」を持ちますので、ファンタジーに取り入れるにはなかなか胸躍る素材です。調べたところ、現実世界でモリブデン鋼が作られたのは1894年のことだそうで、ファンタジー的にはオーバーテクノロジーです。それこそ魔法の武器扱いですね。
◆タングステン鋼
タングステンWはそれ自体が非常に硬い金属で、鋼に混ぜると「硬度」を驚異的に高める性質を持ちます。ドリルの刃などに使われる「高速度鋼」(ものすごい速さでぶつかる工具に使われる鋼なのでこういう名前がついてるようです)の材料としてタングステン鋼が用いられます。
また、「リアル斬鉄剣」で知られる「超硬合金」は、タングステンベースの合金です。(鉄ベースじゃないので鋼とは別物ですが……)とはいえ、こちらは武器にとって必須の「靭性」に乏しく、実用的ではないようですが。
……ああっ! 鉄だけでこんなに時間くってしまった。
あと銅合金とかアルミ合金とか、ファンタジー的に重要な「伝説の金属」とかについては、また日を改めて。
投稿者 darkcrow : 2008年02月25日 09:12
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コメント
最近のびっくり!!
伝統技術で世界最強の日本刀のナノテクノロジーを抽出し先端技術を駆使して日立金属がSLD-MAGICという金型用鋼を開発した。この特殊鋼は韓国製鉄が出来ない優秀なハイテン(高張力鋼板)を切り裂いたり、曲げたりする金型に応用され自動車などが製造されている。こんなことが韓国では出来ないのは切れ味抜群の日本刀には日本のオリジナル技術がいっぱい詰まっているかららしい。
投稿者 村下 : 2008年10月06日 21:46
私のところも採用しています。PVD処理等の表面処理との相性が良いですね。
投稿者 モッズ : 2009年02月23日 09:19
しかし、鋳造工学界での評判ではSLD-MAGICは鋳造できない金属と言われている。H金属はどうやってせいぞうしているのか?
投稿者 ミカサ : 2020年09月23日 15:00