« ARMORED CORE V -形骸- (1) | メイン | ARMORED CORE V -形骸- (3) »
2012年05月25日
2
ぼくとベイズは仕事を終えてコンドミニアムに戻ると、自家用のホーヴァに着替えて街に繰り出した。
「おつかれさん、くそったれども」
そのとたん、トリッガァの低音が歌のように聞こえてきた。彼は同時制御は大したもので、作業機械なら同時に2つ、マシンアーム程度なら十以上を容易く扱ってみせる。で、ついたあだ名がダブル。ダブル・トリッガァ。
「どうだった……。稼ぎは良好……。我が店に落とす金は唸ってるかね……」
「変な物を見つけてさ。
とぼくは言い、バーボン
「うねうね」
「黙っててよベイズ、話してるんだから」
「ACなもんかあ。U.S.なんちゃら」
「何の略……」
と、トリッガァが不思議そうに訊くのも無理はない。
「分からないんだ。ただ、黒くてACに似たものだったんだけど、肩のあたりにエンブレムがあった。大半は削れてたけど、分かったのは、鷲のマークと、それから」
「りんりん」
「黙れったら。下に文字があって、一語目はUnited。次はSから始まる単語で、三語目は最後が小文字のca。丁度その間が装甲ごと抉られてて」
「ACじゃないのかい……」
と、ちょうどその時、TVのアリーナ・チャネルにACが映った。
「レイヴンだ」
ベイズが唸る。
レイヴンはRa:VEN、
画面の中でACが跳んだ。ビルを蹴った。
画面が光った。ぶっ放した。
「銃閃だあ」
楽しそうにベイズが叫ぶ。ぼくは眼を細めた。撃たれたトラックが、列車が、作業メクが、灰燼に帰していく。見ちゃいられなかった。神経伝達の一つ一つに絡みついていた菌糸が、触手を引っ込めていく。
「消してくれよ」
「壊しろ、壊れるった、はっはあ」
まだ歓声を挙げているベイズを無視して、トリッガァがチャネルを変えてくれる。毒にも薬にもならない音楽チャネル。あれほど愉快そうだったのに、ベイズは文句一つ言わない。ぼくの予想では、たぶん彼も、本音では楽しんでなんかいなかったんだろう。思ったことを思ったように言えない、そのくせ喋りたがり、寂しがり。
「ミグラントってよ」
と、ベイズはビアに溺れながら言う。
「壊すだろ。亡骸を金にするだろ。だから
「へえ」
「音がするとよ。ちゃりぃん、てよ」
それっきり、ベイズは静かになった。静かに、構成体の残りを取り込んでいくだけだ。ぼくはベイズのそばに居てやった。彼がぼくと出会う前、どうであったのかは知らない。知りたいとも、知るべきだとも思わない。性格も合わない。互いにむかつくことばっかりだ。それでも一緒にいるのは、たぶん、こういうところが一致するんだ。
「掘り出したACのような何かは」
ぼくは誰にともなく呟いた。
「中に不自然な空間がある。胴体と、腕や脚のところにまで伸びてる。ちょうどACを、そのまま全長2m弱まで
「自律機械……」
「違うと思う」
首を捻るトリッガァに答えるうち、ぼくの中でわだかまってるだけだった考えが形になっていく。
「あそこには制御機械が入るんだ。メクを暴れさせないための何か。ACにはそれが欠けている」
「中空だっ」
突如としてベイズがわめきだした。ぼくはもう、これ以上彼を制御したいと思わなかった。好きなだけ大声を挙げていりゃいい。
「中空だっ。からっぽだっ。がらんどうだっ」
狂ったように。
「詰まってる……。ばあっ。あるはずの物を無くして、テクで埋めた。結果はどうだい……。答えろ。答えろよ、この野郎っ」
その叫びは誰に向けた物だったのか。ぼくには分からないが、少なくとも、構造体のおかわりを頼んだのは確かだった。
投稿者 darkcrow : 2012年05月25日 22:06
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.dark-crow.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/260