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2012年06月06日

 ■ ARMORED CORE V -形骸- (8)

      8

 ――気をつけろ、訳知りスミカ亡霊ファンタズマを持ち出してたはずなんだ。敵はそれ以上なんだぜ。
 地球守りアースセイバァのアドヴァイスが頭の中でぐるぐる回るようだ。ぼくには何のことか解らない。隠匿された真実、思わせぶりな用語ターム、疑わしい実在。
 教会の地下ガレージに降りたベイズは、黄色い四脚型ACの手直しに余念がない。嫌がる教祖様をこれでもかとどやしつけて、半ば強奪気味に贈呈された教会ビーハイブの虎の子だ。武器を取りつけ、実弾を篭め、その間ベイズは一言も漏らさない。
「ねえ、ベイズ。何のことだい……。亡霊ファンタズマ……。共食いインタネ……。主任……」
 やはり何も言わない。ぼくはだんだん焦れてきて、
「またぼくを怒らせる気か……。それで戦う気なんだろ……。誰と……」
分離パージはな、おれっちがやらかした。派手な仕事ビズだったよ。超・派手」
 ようやく出てきた彼の答えは、答えと呼べるものでもない。いつもの衒学癖だと気づいて、ぼくは黙る。面倒だからではなく、それが一番てっとりばやく情報を引き出す方法だと知っているのだ。
共食いインターネサインには全てが記録セーブされてる。地面の下に層を作って眠る、今は亡きものども、だ。おれは何人かをそこから分離パージした。純禾スミカユーティライネン、地球守りアースセイバァ弱虫モリカドル、その他30人ばかし。自由を対価に、おれは真実が知りたかった」
 ACのコアのそばに登って、ベイズはこっちを見下ろす。
「知って、知った、おれは、逃げて、怖いんだよ――」
 その瞬間、ベイズのボディが唐突に張力テンションを失って、糸の切れた人形のように転がり落ちた。ぼくの足下へ。ぼくはそちらには目もくれない。こんなのただの形骸だ。ベイズは今、ACの中にいる。
「ユーティライネンは死んだ。弱虫モリカドルも。主任は、あの手この手で分離パージ組を殺す気だ。奴らは真実を知る者を赦さない。だから、だからよ」
 それは、今まで聞いた中で、一番冷たくて暖かい声だったんだ。
「コンビは解消だ、相棒」
 ACが天井を突き破って飛び出した。

 ぼくはずっとそこにへたり込んでいる。外界の何もかも遮断シャットアウトしたまま。だから当然のこと、働き蜂ワーカァたちが現れて壊れた天井の片付けをし始めたことも、後ろに地球守りアースセイバァが近づいてきたことにも気づかない。
「本当に行きやがった。しょうのねえやつ」
「ぼくは、ぼくらは、形骸なんだろうか」
 ぼくはもう動かないベイズのボディを抱いて言う。全身クロム貼りの外装、ところどころからはみ出す青と赤のチューブ、連結素子ネクサスは背中から差し込むタイプ。古いが手入れは行き届いている、ベイズの普段着。
 それを抱くぼくの機械腕マシンアームは震えている。アクチュエイタが悲鳴を挙げている。重すぎることにか。あるいは、腕の中にあるものの絶望的な軽さにか。
「ぼくは、世の中と折り合いをつけたかった。世の中は大きくて、凄くて、完璧で、そのうえ金持ちだったから。少々の乱暴、行きすぎた不条理、なるたけ我慢して、世の中、社会、人間関係、つまり」
 ぼくは叫んだ。
「ベイズ」
 ぼくは何を喚いているんだろう。
 ぼくは何を思っているんだろう。
 ぼくは何を、何にこんなに、押し潰されようとしているんだろう。
 前にも言った。ぼくはぼくが解らない。思ったことを思ったように思えない。
 それなのに今、確信がある。ぼくの中は、ぼくの心は、ぼくのコアは、あまりにも赤と黒。
「世の中が思ったようなものではなくて、どころか自分自身もそうではなくて」
 独り言のように言うのは地球守りアースセイバァだ。
「もっとくだらない、中身からっぽの、形骸みたいなもんだった、と。誰だってそう思う時はあらぁ。奴だってな。で、ホントのことを知りたがった」
「ベイズは何を知ったの……」
「そいつぁ本人から聞きな。俺が知ってるのは、俺の真実でしかない。俺が言うのもなんだが、真実ってのは手前で創るもんよ。それが、信仰に毒されないコツ」
「でも、ぼくは」
「なぁにをへどもどしてるんだね、若い衆っ」
 地球守りアースセイバァが一喝する。ぼくは思わず、後生大事に抱えていたベイズの形骸を取り落とした。
「奴さんはあんたをなんて呼んだ……。相棒、つうたんだぜ」
 ぼくは立ち上がった。
 ぼくは走った。表にホーヴァが停めてあるはずだ。自前のガレージに帰れば、ACだってある。ぼくは走った。
「信者が掻き集めた情報によると、主任は今、ちょうど市庁舎の近くに詰めてるそうだ」
 後ろから大声が聞こえた。その後、照れ隠しのように付け加えたことには、
「ま、俺は太ってるから行かないけどね」

投稿者 darkcrow : 2012年06月06日 14:37

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