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2012年06月06日
8
――気をつけろ、
教会の地下ガレージに降りたベイズは、黄色い四脚型ACの手直しに余念がない。嫌がる教祖様をこれでもかとどやしつけて、半ば強奪気味に贈呈された
「ねえ、ベイズ。何のことだい……。
やはり何も言わない。ぼくはだんだん焦れてきて、
「またぼくを怒らせる気か……。それで戦う気なんだろ……。誰と……」
「
ようやく出てきた彼の答えは、答えと呼べるものでもない。いつもの衒学癖だと気づいて、ぼくは黙る。面倒だからではなく、それが一番てっとりばやく情報を引き出す方法だと知っているのだ。
「
ACの
「知って、知った、おれは、逃げて、怖いんだよ――」
その瞬間、ベイズの
「ユーティライネンは死んだ。
それは、今まで聞いた中で、一番冷たくて暖かい声だったんだ。
「コンビは解消だ、相棒」
ACが天井を突き破って飛び出した。
ぼくはずっとそこにへたり込んでいる。外界の何もかも
「本当に行きやがった。しょうのねえやつ」
「ぼくは、ぼくらは、形骸なんだろうか」
ぼくはもう動かないベイズの
それを抱くぼくの
「ぼくは、世の中と折り合いをつけたかった。世の中は大きくて、凄くて、完璧で、そのうえ金持ちだったから。少々の乱暴、行きすぎた不条理、なるたけ我慢して、世の中、社会、人間関係、つまり」
ぼくは叫んだ。
「ベイズ」
ぼくは何を喚いているんだろう。
ぼくは何を思っているんだろう。
ぼくは何を、何にこんなに、押し潰されようとしているんだろう。
前にも言った。ぼくはぼくが解らない。思ったことを思ったように思えない。
それなのに今、確信がある。ぼくの中は、ぼくの心は、ぼくの
「世の中が思ったようなものではなくて、どころか自分自身もそうではなくて」
独り言のように言うのは
「もっとくだらない、中身からっぽの、形骸みたいなもんだった、と。誰だってそう思う時はあらぁ。奴だってな。で、ホントのことを知りたがった」
「ベイズは何を知ったの……」
「そいつぁ本人から聞きな。俺が知ってるのは、俺の真実でしかない。俺が言うのもなんだが、真実ってのは手前で創るもんよ。それが、信仰に毒されないコツ」
「でも、ぼくは」
「なぁにをへどもどしてるんだね、若い衆っ」
「奴さんはあんたをなんて呼んだ……。相棒、つうたんだぜ」
ぼくは立ち上がった。
ぼくは走った。表にホーヴァが停めてあるはずだ。自前のガレージに帰れば、ACだってある。ぼくは走った。
「信者が掻き集めた情報によると、主任は今、ちょうど市庁舎の近くに詰めてるそうだ」
後ろから大声が聞こえた。その後、照れ隠しのように付け加えたことには、
「ま、俺は太ってるから行かないけどね」
投稿者 darkcrow : 2012年06月06日 14:37
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