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2012年10月16日
まずは更新のご報告! 新作を公開しました。
●勇者の後始末人(オリジナル)
“ハロー、ワールド。(前編)”
今回は、美少女術士カジュの過去話。どうぞお楽しみください!
さて、ここからが本題。以前、友人のくにさんに勧められたことなのですが、小説を執筆する上で、俺がどのようにプロットを組立て、どのように本文を書いていったかを記事にするのも有益なのではないか、と。そういうわけで、試しに今回のお話執筆のウラ話を語っていきたいと思います。
当然のことながら、バリバリにネタバレします。それに、読んでみないとこの後の話も意味不明になるかもしれません。まだお読みでない方は、まず上のリンクから読んでいただけると! うれしい! な! と!! 宣伝宣伝。
●発端
まず前々回のお話“邂逅”を書き終えた後、とりあえず書きたかった要素を片っ端から書き尽くしてしまった俺は、途方にくれていました。次は何を書けばいいんだー(茫然)、みたいな感じです。なにぶんありったけのエネルギーを込めた作品だったので、その反動も大きかったのです。
とりあえずリハビリのため、既に道筋の見えている過去作リメイクを、省エネに書ける短編形式で、とにかく一作仕上げよう……というのが、“テンプレート・メイド”を書いたときのモチベーション。なにやら動機は後ろ向きですが、自ら課した厳しい文章量制限の中に起承転結とキャラ描写とバトルとアレとコレとを詰め込む、というのは、かなり勉強になりました。
リハビリを終えた俺は、次回作のネタとして、“邂逅”を書く前の10ヶ月の間に溜まりに溜まった没ネタの中から、いずれ完成させたいと特に思っているお気に入りの一つをピックアップ。それをベースに構成を始めますが……これが上手く行かない。プロットが一応の完成形まで辿り着くこと3度、そのたび半分くらいまで執筆を進めた段階で「だめだ面白くない!!」と没るパターンが連続します。
没の連続になってしまった理由は、おそらく「理屈だけで起承転結が構成されており、主人公に俺自身が共感できていない」ところにあったかと思います。おかげで、バトルを書いても涙涙のシーンを書いても、いまいち上滑り。どうしても面白いものに仕上がらなかったのでした。
さて、没を繰り返しているその時期に、俺は米軍特殊部隊の一風変わった訓練に関する記事を、ネットで見かけました(たぶん……よく覚えてないんですよ、どこで見たんだか)。
それは、「兵士に犬を育てさせ、ある程度育ったところで自分自身の手で犬を殺させる」という、なんとも精神的に過酷な訓練でした。まあ、任務のために私情を捨てるための訓練なのでしょうね。この記事を読んだときは「うわーすげーことするなー。さすが特殊部隊」と思っただけで、それっきり忘れてしまってたのですが、先述の没プロットに行き詰まっていたある日、仕事終わりの帰宅途中で不意にそのことを思い出しました。
「そういえば、あの特殊部隊の訓練ひどいよなあ……俺だったら絶対殺せないな……」
「あっ」
「企業にいた頃のカジュがこんな訓練を受けるって話はどうだ!?」
その一瞬の閃きが全ての発端にして終端でした。閃いたのが横断歩道の手前で、横断歩道を渡りきった時にはもう話の全体像が頭の中にありました。ダッシュで駅に向かい、電車の席に座って、忘れないよう頭の中で復唱しつづけていたプロットを慌てて手帳にメモ。メモの内容は以下の通り。
試験管内、おきるカジュ→英才教育をうける、エリートいしき 出会う少年→淡い恋→実はホムンクルス! 「そんなのかんけいないよ」←語尾の「。」はない! 実は全て教育プログラムだった 「さあ、彼を殺したまえ。ただし、道具も魔法も使ってはいけない」「キミの手で殺すんだ」 なぜ生徒が1/4(ワンフォース)になるのか? 半分がホムンクルスを殺し、もう半分は殺せず死ぬから!→殺す→一人称「ボク」、語尾「。」つきに 全てをさとった目。大丈夫。全部分かってる。キミが生きるために さあ、ボクを殺して。 ↓ 従順なら生活には困らない。気楽。 「なんのために生きてるんだろう。」
実はここまででメモは半分です。残り半分は「後編」に回すことにしたわけなのですが、この時点で大筋は確定しています。つまり、
エリートなカジュ→少年と出会う→恋に落ちる→全て企業による教育だった→少年を殺すことを強要される→鬱々としたカジュになってしまう
という流れだけは、絶対に譲れないものと考えていたわけです。思いついてからメモを終えるまで、5分程度。そして思いついた後の興奮は、書き上がるまで二週間近くも持続しました。まさしくテーマは一瞬の閃きであり、そうでなければ面白い作品にはならない、ということでありましょう。
もちろん完成品と比べると、細かな差異は色々ありますが……(この時点、というか公開直前まではタイトルが「ワンフォース」でした。タイトルの変更は、この作品のテーマはヒドい教育プログラムというより、その中にあるカジュの心情だろ? と、自分で思い直したためです)
●構成
帰宅した俺は、メモを元にして実際のプロット構築に取りかかりました。こちらも僅か1時間ほどでできあがってしまったのですが、この時参考にしたのが大塚英志著「神話の練習帳」にて紹介されていた、ジョゼフ・キャンベルの単一神話論です。これは神話の中に広く見られる構造を分析した理論だそうで、神話はしばしば次のような構造になっているとしています。
A:出立 (1)冒険への召令 (2)召令の辞退 (3)超自然的なるものの援助 (4)最初の境界の越境 (5)鯨の胎内
B:通過儀礼 (1)試練の道 (2)女神との遭遇 (3)誘惑者としての女性 (4)父親との一体化 (5)神格化 (6)終局の報酬
C:帰還 (1)帰還の拒絶 (2)呪的逃走 (3)外界からの救出 (4)帰路境界の越境 (5)二つの世界の統合 (6)生きる自由
それぞれの要素の細かな説明は避けますが、まあタイトルだけでも、なんとなく分かるだろうと思います。この構造が「主人公の成長物語」のベースになっているということで、試しにこの構造に沿ってプロットを組んでみました。
A:出立
(1)冒険への召令 カジュは子宮と羊水をイメージした試験管の中で目覚める。そこから出てくる(保護者からの別離の象徴)。コープスマンから学園へ異動する辞令がもたらされる。
(2)召令の辞退 「……明後日すか」と、急な辞令に不満顔。学園へ続く長い道を歩かねばならないのがおっくう。嫌々向かう。
(3)超自然的なるものの援助 クルスとの出会い。クルスは援助(生命)をカジュに差し出す(援助1回目)→カジュは拒絶。
(4)最初の境界の越境 しかしカジュは、どさくさで嫌々来ていたことを忘れ、走って学園に入る。これで、保護者のいる世界から、未知の世界へ完全に移行した。
(5)鯨の胎内 鯨を思わせる丸みを帯びた校舎。これからカジュが冒険する「未知の世界」
B:通過儀礼
(1)試練の道 カジュはクルスをパートナーとせねばならない。孤軍奮闘するが、うまくいかない。クルスとの協力を余儀なくされる。
(2)女神との遭遇 クルスに「勉強を教えてあげる」と持ちかける。この時、クルスは援助(生命)をカジュに差し出す(援助2回目)→カジュは一旦受けとるが、リリース。クルスの笑顔にどきりとする。つまり女神=クルスである。
(3)誘惑者としての女性 複雑化を避けるため省略。本来この部分は「女神」からの援助を捨てて別の道へ行きたくなるような誘惑に襲われるシーンであり、あったほうがもう一ひねりあって面白いだろうとは思うが……。
(4)父親との一体化 最大の敵との戦い。雪山での遭難と、最終試験、および最終2次試験のシーン。「指(血)を舐める」(生命の援助3回目、ここで受け入れる)、「抱き合う」、「戦う」の3段階を踏んで、カジュはクルスを(象徴的に)取り込んで一体化する。
(5)神格化 クルスを取り込んだカジュは、クルスと同じ口調になる。また、学園の卒業資格を得たことで、一人前の大人として社会に認められた。(通過儀礼の完成)
(6)終局の報酬 大人になったカジュには報酬が与えられる。コープスマンが約束する特権やらなんやらがそれにあたる。
という感じで、多少のアレンジはあれど、基本的に「成長物語のパターン」に沿って構成してみたわけです。
さらに、「C:帰還」の要素は、続く後編で登場する予定です。実際のプロットはそこまで含めて組んでますが、紹介はまた今度ということで。
長々と書いてきましたが、今回プロット組んだ過程を忠実に追っかけてみると、こんな感じです。要するに、「テーマは閃き」「構成は王道理論をまっすぐ」を心がけたというところでしょうか。しかしテーマを閃くためには、没の連続で苦しんだ「理屈だけで構成しよう」としていた時期が不可欠でしたし、逆に閃いたテーマを生かすためには「有効性が確立された理論」が不可欠でした。
想いだけでも……力だけでも……! というのが今回学んだ教訓です。
投稿者 darkcrow : 2012年10月16日 01:19
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