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2013年02月19日
「赤と青」
「勘違いするな。確かにカルタゴを打ち破った犯人は“カラス”だ。しかし……」
青髪が、赤服に訴える。その声は悲痛とさえ言え、その根底に堪えがたい怒りと絶望と焦燥があるのは間違いなかった。マリネリス特別軌道艦隊は俗に言うところの宇宙軍だが、国連が保有する衛星港の宇宙軍とはそもそもコンセプトを異にする。あれらは、艦に搭載した大規模コンピュータと地球上にばらまいた微小計算素子気体(マイクロ・プロセッサ・ガス)によるクラウド演算によって正確に軌道計算を行い、電磁レールガン方式の時限爆弾で、地球の裏側から――時には地球の三周以上も前から――敵に致命打を叩き込む、ただそのためだけの兵器だ。要は、補足されず、補足し、攻撃されず、攻撃し、一方的にただ蹂躙する、それだけを目指した兵器。このコンセプトは1980年頃から、なんとかという超大国で俎上に登り、2000年代にはラプターだかライトニングだかいう戦闘機として結実した。それをさらに先鋭化させたのが、国連宇宙軍のハンニバル級なのだ。
だが、マリネリス特別軌道艦隊は、反乱直後の一週間に起きた全ての会戦で、例外なく勝利を収めてきた。それが火星側の自信に繋がった。地球恐るるにたらずと。赤服は、そうした連中を纏める急先鋒だったのだ。
彼らには、穏健派の長たる青髪は、どうしても臆病者に見えてしまうらしい。
「お前は恐れすぎなんだよ。まだ開戦からたったの10日、ローマが“乗り込み梯子(カラス)”を発明し、海兵隊のはしりを組織するまで、どれだけ時間がかかったと思う?」
「国連を甘く見過ぎだ。いいか、ローマがカルタゴに勝てたのはカラスのおかげだ。だが、注目すべきは発明そのものじゃない。圧倒的な国力と、未知の敵に対して即座に軍を再編するおそるべき柔軟さ、合理性。それこそがローマの真の力だったんだ。国連を見ろ、あいつらも歴史上戦争ばっかりしてる。戦力の乏しい、あれこれ工夫して立ち向かってくるしかない相手を、そのたびに蹂躙してきたんだよ。奴らはローマと同じなんだ。戦争をするために生まれてきたような組織なんだよ!」
「俺たちの戦術は破りようがない。デブリのふりをして、艦隊に近づき、衝角突撃で組み付き、制圧部隊を乗り込ませる。人型ロボット兵器なんてアニメみたいなものも、ただそのために開発した。準備は万端だ。実際うまくやれた。負ける余地はないんだよ!」
赤服と青髪の話し合いは、決裂した。
彼らは親友だった。幼い頃から地球進出を無邪気に語らい、事実、そのための力をつけ、素晴らしい知性と統率力を育てながら、協力してマリネリス国家をここまで進化させてきた男たちだ。なのに今、彼らの間に友情らしきものは一欠片も見いだせなかった。何が彼らの間に溝を作ったのだろう?
いつなんどきも、女は使用不可能。いかなる男も女には勝てず、女を制御もできず、まして手のひらに載せて自在に使うこともできない。女はただ女であり、そこに邪気はなく、二人の男に一人の女がいれば、それまでの全てを無に帰すことなど容易い。
一人の女が居た。彼女の関心を買うには、マリネリス軍の主導権を握る必要があった。
さて、彼らの軍隊は、地球に勝つことができただろうか――?
THE END.
※この作品は、「即興小説トレーニング」http://webken.info/live_writing/にて書いたものです。
お題:犯人はカラス 必須要素:女使用不可 制限時間:30分
投稿者 darkcrow : 2013年02月19日 22:22
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