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2013年06月03日

 ■  条件が真の間ステートメントを繰り返す

お題:おいでよ勝利 必須要素:夏目漱石 制限時間:30分

条件が真の間ステートメントを繰り返す

Do

 人生ってやつはよく分からない。
 不可解なのはいったいこれがどんなゲームなのかってことだ――ゲームとは数学的問題の象徴的解答のことだろう? 導くべき答えが当然そこには前提としてあるはずで、つまり答えが無い場合ですら「解無し」という答えが想定されているはずで、要するに、答えが存在しないとき問題も存在しないのだ。なのに私の目の前にあるこのゲームは、全くの無目的であるばかりか、解答を導かせてやろうという気概さえないように思える。
 とどのつまり、人生の勝利条件は何かってはなしだ。
 野球選手になるならWBCで優勝すりゃ勝利なんだろうか?
 政治家になるなら総理大臣?
 作家になるなら夏目漱石?
 一体どこに辿り着き、どんな功績を残せば、勝利したってことになるんだろう?

「勝ちも負けもないよ。人生はただ、人生」
「つまんない男」
 と、私は流し目を送る。
「ありきたりな答え。ややこしい質問をされたらどう答えるか、っていうノウハウ以上のものじゃないね」
「お前のことだからそう来るだろうと思ったよ」
 先生は肩をすくめるのだった。そもそも、疑問を先生に訊いて解決しようなんて思うのが誤りだったのか? でも先生ってそういう存在の筈だ。少なくとも私より先に生きてるんだから、それなりの解答はあってしかるべきだ。
 なのに先生は首を横に振る。
「まだ半分も人生やってない若造が、悟りきった答え持ってるほうが気持ち悪い。俺に言ってやれるのはただ、『そうだよな。謎だよな』ってことだけだ」
 ごもっとも。私は納得し――聴きたかったのは、まさにそのなぐさめだったんだと気付いた。たぶんこの先生のことが好きだったから、彼にこそなぐさめて欲しかったんだろう、きっと。

 こんなことに悩んでいられるのもいまのうち、なんだろうか?
 大人はみんなそう言う。暇な考えだねって。忙しくてそんなことどうでもよくなったよ、って。
 うそつき。
 本当はみんな、死ぬまでずっと悩んでるんじゃないのか?
 何のために生きてるんだろう。こんなことして何の意味があるんだろう。もし意味なんて何もないのだとしたら――?

 このところ、毎晩、ベッドに入る度に怖くなる。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない……死ねば全部消えてしまう。何も見えない。何も感じられない。無知覚の檻に閉じこめられ、二度と、永久にそこから抜け出せない。暗闇の中私は叫ぶ。出して! ここから出して!! だが答えるのは永遠の空虚。永遠の暗闇。永遠の孤独。どこまでもどこまでも続く、一方向に動き続けるだけの鋼鉄で周りを覆われたベルトコンベア。私はその中に放り込まれ、為す術なく流されていく。もう二度と誰にも会えない。誰とも話せない。誰も愛してくれない。誰も愛せない。
 私はひとりだ。
 怖くて、それが夢と現実の境界線上での出来事だってことも忘れて、私は本当に声を挙げる。呻く。布団を抱きしめる。転がる。胸が痛い。不安が襲ってくる。痛いほど腕に力を籠め、それでも不安は消えてくれない。

 永遠、怖い――

 なのにいつの間にか恐怖の中で眠りに落ち、翌朝目覚めれば、恐怖はどこかに消えている。
 昼間、学校に行って、つまらない授業受けて、どうでもいい話をして、くだらないものに心奪われて――その間私は完全に忘れている。疑問を。苦悩を。恐怖を。どうして忘れていられたんだろう。どうして気にせずにいられたんだろう。
 夜になると蘇る――これほどの痛みを。

 本当はみんな、死ぬまでずっと恐れてるんじゃないのか?
 大人になれば怖くなくなる、なんてのは私の勝手な希望的観測で――どこまでもどこまでも、永遠が恐怖であるように、恐怖は永遠なんじゃないのか?

 ある時、私は奇跡的に、昼間にあの恐怖を思い出した。
 私は書いた。書きつづった。永遠がどれほど怖いか。ベルトコンベアに流されることが、どれほど苦しい悪夢であるか。なのに私の書いた物を見た友人たちは、先生は、首を傾げるだけだった。どうしてそれがそんなに怖いの? 誰も分かってくれなかった。
 恐怖は私ひとりのものなのか?

 もっと気楽に構えればいいのか? 何事にも本気にならず。遊びとして。楽しむために。何を楽しむ? そりゃ、私自身の人生を。それをゲームとして捉えりゃいいんだ。
 人生。
 人生……?

Loop

投稿者 darkcrow : 2013年06月03日 01:30

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