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2013年11月07日
お題：ありきたりな教室 必須要素：ピスタチオ 制限時間：30分
「永い旅の始まり」
もうすっかりこんな教室見飽きていたが、他に行く場所もなかった。
私は窓際の席で頬杖をつき、中庭と、その向こうの広いグラウンドを眺める。体操服を着て、授業までの暇つぶしをしている下級生の歓声は遠い。終わりかけた昼休みのざわめきは薄皮一枚隔てた別世界のことのよう。不意に、不気味なまでの静けさが教室に訪れた。教室中を満たす三十人余りの会話が、申し合わせたかのように一斉に途切れる瞬間。
肌がぞっと泡立った――
みんなが気恥ずかしそうにはにかみながら、話を再開した。ほどなくして教室はもとの喧騒に包まれた。なのに私はあの一瞬の静寂から、ありきたりな日常の中に戻れずにいた。
これは、なんだ？
この人たちは、何を話している？
そして私は、一体どこにいるの？
いたたまれなくなって教室を飛び出す。ここにいてはいけない気がした。
がむしゃらに校内を走り回って、気が付けば、私は西門の前にいた。いつも登校のときにくぐる門。今は柵が閉められている。
でも、錠が下ろされているわけじゃない。
本当なら、防犯のためきちんと施錠しておくべきなのだろうか。来客が自由に出入りできるように鍵を開けておくのは教師の怠慢だろうか。しかし仮に鍵をかけておいたところで、たかだか１ｍほどの鉄柵である。足がかりだっていくらでもある。乗り越えるなんて簡単なこと。
なのに私はただの一度も、授業中にここから外へ出ようとしたことがない。
鉄柵の前に立ち尽くし、私は額に脂汗を浮かべる。この先には何があるのだろう。馬鹿を言うなと笑う？ お前は今朝、この門の外から入ってきたんだろう、と？ でも、考えてみて欲しい。確かに私は朝、外からやってきた。夕方には外へ帰って行く。でも。
昼間の世界が、私の知っている世界と同じだと、一体誰に証明できる？
だが教師たちは言う。外に出てはいけないと。授業が全て終わるまではと。ひょっとして、と私は思う。彼らは何かを隠しているのではないか？ 昼間の街には、私に見られてはまずい何かが溢れていて――それを私の視界に入れないために、彼らは私を閉じこめているんじゃないのか？
あるいは、と妄想は膨らむ。ひょっとしたら地球はとっくに滅びていて、生きている人類は私だけで、ほかのみんなは宇宙人の変装。街並みは全て、三次元的なかきわりのようなものなのかも。予算節約のために、私の行動半径を狭めて、私の行く範囲だけ地球の街を再現しているのでは？
それとも、いいや、まさか――
確かめよう。
手を伸ばし、力を籠めれば、柵はあっさりと開くはずだ。
私は、できるのだ。
私は柵に手を掛けた。
体重を乗せて引っぱる。
柵は、重苦しく開いていった――
THE END.
投稿者 darkcrow : 2013年11月07日 02:15
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