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2014年04月14日

 ■ 「失われた真のうどん」

お題:記録にないうどん 必須要素:京都 制限時間:30分

「失われた真のうどん」

「あんなものはうどんじゃない」
 雨に打たれ、体じゅうを泥まみれにして、それでも男は土を掘る手を止めない。彼の横では女が一人、傘をさしてしゃがみこみ、発掘抗の底でごそごそやっている哀れな生き物を見下ろしている。姿が見えないと思ったらコレだ。
「ほんとうのうどんは、あんなものじゃないんだ」
 男の目に燃える決意の炎は、降りしきる雨にすら消すことはできない。
「ここにあるはずなんだ……失われた真のうどんが!」

 世はまさに大うどん時代。
 日本人の主食がうどんであることは今さら説明するまでもあるまいが、その起源については諸説ある。江戸時代説、南北朝時代説……中でももっとも古いものが、平安時代成立説である。四国生まれのある高僧が若かりしころ、京都の大学で、中国(当時の唐)から渡来した僧侶に教わり、それを故郷に伝えたのだという。
 そのころのうどんは、今とは全く違っていたという伝承がある。
 それによれば、当時は今のようにチューブで吸引する食べ方ではなかったらしい。麦の粉を水で練って加熱し、塊状にしたものを、塩味のついた水につけて食したのだ。使っている麦も、現在使われているライ麦とは異なる品種だったと言われる。ライ麦でなければ、貴重なオオ麦だったのか、はたまたハト麦か……全く知られていない未知の品種という可能性もある。
 失われた真のうどん。
 どんな文献にも残ってはいない。単なる都市伝説の類かもしれない。だがそれに魅せられた男がいたのだ。
 彼は調べ上げた。青春の全てを賭して。財産の全てをなげうって。
 そしてたどり着いたのだ。この場所に。

「うどんは、もっとすばらしいものだったはずなんだ」
 彼の目から伝い落ちる雫は、雨粒か、それとも。
「今では誰もが、うどんスタンドに行くことを苦痛としか考えていない。生きるために仕方なくやるんだとしか思っていない。
 でも違ったんだ。うどんは、もっと快適なものだったはずだ。生きることは幸せなことだったはずだ。世界中に60億以上も……今の100倍以上も住んでた人間たちが、みんな幸福に暮らしていたはずなんだ。
 ぼくはそれを知りたい。幸福は……古い地層の奥に眠っているはずなんだ!」
「どうでもよくねー」
 女はあくび交じりに言う。
「帰ろうよ。今の私を幸せにしてよ」
「違う!! こんなものは幸せじゃない!!」

 男はずっと掘り続けている。
 その傍らには、もう女の姿はなかった。

THE END.

投稿者 darkcrow : 2014年04月14日 11:33

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