均衡のとれた幸福感のある世界の秩序を創り出すことを目指して
-ジオ・マトリクスの2人-


〜さらばリオン!マスターフロート暁に死す〜


登場人物

リオン・ハインリッヒ 19歳男
ジオマトリクス社のエンジニア兼テストパイロット。最近非常に疲れ気味。座右の銘は「若いうちの苦労は買い」。

ヘレン・クリストファー 21歳女
ジオマトリクス社の技術開発課課長兼現場監督。童顔で淫乱。座右の銘は「良妻賢母」。

ユイ・ヒイロ(緋色 由衣) 18歳女
胸が不必要にデカイ女性新入社員。座右の銘は「人を呪わば穴二つ」。
しつこくも言っておくが、ユイが名前でヒイロが名字。


ネオ・コートデパール。

ジオ社の大型艦が来るまで2日。その後の滞在期間が3日。
「いや〜、この世の天国だねぇ〜。」
豪華リゾートホテルでゴロンゴロン転がりながら、僕は最上級の幸せ(ハッペスト)を噛みしめていた。※そんな言葉ありません

しかし、そんな世界はドアをノックする音によって一瞬で崩壊した。
「オッス!リオン君、元気〜?」

へれんさんがあらわれた。りおんはにげだした!

「い、い、い、イヤですよ!まだ朝じゃないですか!それに昨日もあんなにしたのに…」
「何考えてるの…そんなんじゃないよ、ホラこれ。」
そう言うとヘレンさんはなにやらコードが色々伸びた物体を差し出した。
「今日のアニメ録画するから持ってきてっつったのリオン君でしょ?」
「あ、そういえばそうだった…僕はてっきり…」
「…しゅけべ」

 

放映まであと2分、配線終了、書き込み用ディスク挿入…録画準備完了!

そして、僕とヘレンさんは一緒にモニタの前に座っている。
録画するからと言って、リアルタイムで見なくてもいいなどと言う法律は存在しない!※当たり前です
「あと5、4、3、2、1…」
録画ボタンを押すと同時に、OPテーマが流れ出した…

萌えあが〜れ〜♪萌えあが〜れ〜♪萌えあが〜れ〜♪…

『ACです!通常の3倍のスピードで接近しています!』
『ACだと!?』
『し、しかし、このスピードで迫れるACなんて…』
『リ、リンファだ…あ、赤い華だ!』
『敵影識別出ました、ペンユウです!』
ンゴ―――ッ!!!
『見せてもらおうかしら、連邦軍のアーマードコアの性能とやらを!』

『何ッ!て、敵が目の前に!』
『エリィ、聞こえる?エリィ!』
『リ、リンファ!?』
『エリィ、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい…君はいい友人だったが、君の恋人がいけないのだよ!』
『リンファ!謀ったなリンファ!ええい、ホロコーストをこのままぶつけてやる!私とて科学者、無駄死にはしない!
クローム公国に、栄光あれ―――ッ!!!』
ドカーン。

チーン…
『いい、音色だろう?』
『は?いいものなんですか?』
『カラサワだよ…』
『はぁ。』
『そんなことよりさっさと目的地へ向かうのだ、カンバービッチ君』
『ハイ、ミ・ラージュ大佐。』

『アクセル、ヴァルゴ。ヤツにジェットストライクアタックをかけるぞ!』
『おう!』
『おう!』
『何ッ!3機が一列に並んで…』

『ウェイン中尉!?』
『ユイリェンちゃん、しっかり面倒見てよ?悲しいけどコレ、戦争なのよね!』
ゴ―――――ッ!!!

その時。

『番組の途中ですが、緊急のニュースが入っております。』

「なんだとォォォッ!」
「お、落ち着いてリオン君!あとでディスクを編集すれば同じだって!」
「はぁー、はぁー、はぁー…ええい、いいところだったのに…」
僕の息は必要以上に荒かった。

モニタからは、感情が薄っぺらな感じがする女性が淡々と事件の内容を述べている。

『ネオ・コートデパールのビーチに接近している武装集団の要求は…』
「え、ここなの!?」
「大丈夫、湾岸警備隊のACもあるし…」

しかし、止めの一言が室内に響いた。

『今の時間帯から放映予定の番組は全て中止し、今後はこの武装集団の情報を…』

「「ぬわぁんだとォォォォォッ!!!!!?」」

ヘレンさんも今度は声の限り怒鳴った。


「部長!ジオブレイブを出しますよッ!」
「おうっ、わかった!さすがだなリオン、情報が早い!」
「へ?」
情報が早いって…さっきのはコートデパール全体放送じゃなかったのか?
「ジオ社の機密情報を持って逃げ出したエムロードの部隊!潰せば本社から懸賞金「ジオブレイブ、出ますッ!」」

ジオ社巡洋艦の甲板からジオブレイブが出撃した。

オーバード・ブーストで加速して、巡洋艦から離れる。エネルギーが切れかけると、ブーストを切って慣性で直進し回復後に再びオーバードブースト。
その繰り返しで、巡洋艦のレーダーが捕捉していた敵艦隊に接近した。それと同時に、一番近い戦艦の甲板にMT部隊が散開する。

『先輩、聞こえますか?』
「ユイ、どうしたんだ?」
『敵MTは「アルデンテ」、ホバー移動による旋回性と火力を重視した通称「水上砲台」です!』
「了解!」
言ってる間に、アルデンテは次々と水上へ降り、こちらへ砲撃を仕掛けてくる。
しかし全然狙いが定まっておらず、ジオブレイブは直進しているだけなのに掠りもしない。
こちらがロックオンしてカラサワを撃ち込むと、直撃したヤツはもちろん爆風で近くにいた数機も沈んだ。
「これは…かなり脆い!」
ニヤリと笑うと、僕は武器を変更。オービットキャノンを発射可能状態にした。
一度ロックオンサイトを外し、再びロックオンした瞬間に射出する。
普通なら6発出るはずのビットが2つのみ敵へ向かった。

アルデンテは、レーザー射撃ほぼ一撃で沈む。ビットは続けてまわりのアルデンテも沈めていく。
2つのビットが推進剤を失って水上に落ちた頃、アルデンテは全滅していた。
僕はオーバードブーストで敵艦に接近すると、甲板に設置された自動砲台がガトリング砲でこちらを攻撃する。
ガトリング砲は腕の装甲で受け、僕はそのままブリッジと思われる場所にカラサワを撃ち込む。
思った通り、ブリッジを潰された戦艦は動きを止め、自動砲台の攻撃も止む。

「よし、次ッ!」
ジオブレイブの向きを変えた瞬間、レーダーに多数の反応!
「増援の戦闘機…数は…」

レーダー反応を数えていると、その間に反応がどんどん減っていった。

「あれは、ミサイル!?」
ミサイルの弾道から、撃たれた方向を判断し振り向くと…フロートAC!

そのACは8連ミサイルポッドの蓋を閉めると、左肩の4連ミサイルを放つ。それと同時に、両肩の追加ミサイルからも4発のミサイルが飛んでいく。
8発のミサイルは真っ直ぐに進み、奥に控えた敵旗艦の主砲を破壊した。

『リオン君、援護するわ!』
「その声は…ヘレンさん!?危ないから下がってください!」
『大丈夫、敵の残り戦力は僅かだから後方支援ぐらいなら大丈夫の筈よ!』
「…わかりました、お願いします!気をつけて!」
言いながら、オーバードブーストで加速して残った巡洋艦のブリッジを斬りつける。
そして、カラサワで戦闘機の残党を全て片づける。
…残るは、旗艦のみ!

「沈めッ!」

カラサワの銃口から高圧エネルギーが迸り、空気を焦がして敵旗艦へと直進する。
着弾と同時に爆発、ブリッジ下の柱が折れ…そのまま海の中へと転がる。

「…終わったか…しかし、時間は戻らない、か。」
『カッコつけてる場合じゃないわ!まだ、あと1機いるッ!』
「なんだって!?」

旗艦の甲板に設置されたリフト。そこから…一機のMTが現れた。

「あれは…デヴァステイター・トライ!」

超巨大MT…地球で生産されたはずなのに、何故火星に!

「ヘレンさんッ!下がって!!」
『きゃああああッ!!!』

僕が通信を入れるのと同時に、レーザー砲がヘレンさんのACを貫いた。

「貴様ァァァッ!!!」
オーバードブーストを起動し、デヴァステイターに飛びかかる。カラサワを連射しながら接近して、狂ったようにブレードで斬りつけ続けた。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ねェェェ―――ッ!!!!」
その時、右方向になにかが迫ってくる感覚があった。

ガゴォォォンッ!

僕はジオブレイブのバックブースターを発動したが…間に合わず、デヴァステイターのパンチが直撃した。
「っくうっ!」
圧倒的質量に弾き飛ばされたジオブレイブ。なんとか体勢を立て直すが…例のレーザー砲がこちらを向いている!
瞬間、レーザー砲の銃口が輝いた。
ジオブレイブは光に包まれ、熱によってラジエータの冷却能力が限界を超える。

デヴァステイターを見る…ブレードで斬りつけた傷はあるが、大したダメージにはなっていないようだ。
カラサワを見る…序盤で弾を使いすぎたのか、あるいはデヴァステイターへの連射が効いたか…

「一か八か、やってみる価値はある!」

僕は、デヴァステイターから距離を取り、コクピット内の配線を変え…ジオブレイブのリミッターを解除する。
そしてオーバードブーストを吹かしっ放しにして、デヴァステイターに接近した。

当然、例のレーザー砲が照射されるが…僕はカラサワを投げつけ、その爆発でレーザーの照射を防いで駆け抜けた。
ジオブレイブは、そのままデヴァステイターを通り抜けて反対側の海に着地する。そして、ブレードで戦艦の壁を斬りつけまくった。

ギャンッギャンッギャンッ!!

「いいぞ、このまま…」
その瞬間、デヴァステイターが振り向きざま、胸のハッチから何かを射出した。それはジオブレイブの頭上を飛び越え、背後に停止する。
その「何か」は、全方位から超大量のミサイルを発射した。
「パースーツミサイルだってぇ!?」
慌ててバックブーストを吹かし、ミサイルを避ける。ブーストで飛び上がって、
旋回しながら再びバックブーストを使用、全てのミサイルを後ろに反らす。

デヴァステイターが再びハッチからミサイルポッドを射出し、30発を越えるミサイルが発射された。
「よし、古典的な手だが…」
僕はオーバードブーストを起動し、加速して…すぐさまブーストを切る。慣性の法則で移動するジオブレイブをミサイルが一丸となって追っていった。
その間に、僕はジオブレイブの向きを変え…僕がブレードで掘り進めていた戦艦の壁、そこに激突する瞬間バックブーストで急速後退する。

30発のミサイルは全て戦艦に直撃する。

「やった!これなら…」
僕が戦艦の壁を覗き込むと、目的の物が見えた…

戦艦の、メインエンジン!

「このエンジンを暴発させて、戦艦ごとアイツを沈めてやる!」
ジオブレイブを戦艦の内部へと侵入させると…上のデヴァステイターが暴れ出した。
「もう遅い!」
メインエンジンの前に立ち、ブレードを発生させるが…すぐに立ち消えた。
「まさか…配線異常!?ここまで来て!!」
僕は、ブレードをジオブレイブから取り外して壁に叩きつけた。空しく、金属音だけが響く。

ガコンッ、ガコンッ!ガゴンッ!

「天井がへこんできた…!」
もうなりふり構っていられない。僕はメインエンジンに近づいた。

「最後の武器、浮遊機雷…弾倉内で全部暴発させて、誘爆させてやる!」

ガンッガンッガンッガンッ!!!

――天井も、限界か…

ドガァァンッ!

天井が割れ、隙間からデヴァステイターのセンサーアイが見える。

リミッターを切ったジオブレイブのジェネレーターは熱を帯び、機体は超高熱で包まれる。
ラジエーターは既に機能していない。

「残り時間、3、2、1…」

――ジオブレイブ、さらばだ…僕の相棒。

高熱に耐えきれず、機雷が弾倉内で1つ爆発した。
1つの爆発で、他の機雷も全て爆発する。ジオブレイブも、戦艦のメインエンジンも、デヴァステイターも全て光に包まれる。

そして、リオン・ハインリッヒは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘレン・クリストファー…帰還しました。」
「…おかえりなさい。」
ユイは、俯いたまま答える。
「…ジオブレイブは?」
ここで、誰よりも「リオン君は?」と聞きたかったのは彼女であろう。通信塔の誰もが先程からその言葉を口にしない。
「ジオブレイブは…消失しました。反応ありません。」
「部長…」
「ジオブレイブのデータは残っているから、作り直せる。」
「そうですか…」
部長も、リオンの名を出さない。
「私、部屋に戻ります。」
「ああ」

プシュッ。

ドアの閉まる音がしても、通信塔の空気は軽くならなかった。

 

 

私は、自分の部屋に戻らずにリオン君の部屋に向かった。
ドアを開けると、さっきまでアニメを録画していたデッキが見える。

それに一蹴をくれると、私はベッドに倒れ込んだ。

「嘘じゃない…リオン君はもういない。
好きだった人はもういない。あの海から帰ってこない。
リオン君は笑わない。怒らない。泣かない。私を見てくれない。私を愛してくれない…」

当たり前だ、死んだのだから。

「うああああああああああああああんっ!!!」
きっかけはホンの些細なことだった。アニメの録画を邪魔されたという、子供じみすぎて笑い話にもならない理由。
でも、それで彼はいなくなってしまった。永遠に。

コン、コン…

ひょっとして、リオン君だろうか。
甘い、甘すぎる希望を持ってドアの方を振り向く。

入ってきたのは、後輩のユイ。

「やっぱりここにいましたね…」
「ええ…」
「コレ、あげます。」
そう言って、手に持っていたワインを差し出した。
「…」
「私、こんなものしか持ってないから…バカですね。言葉も見つからないし…なにか物をあげれば喜ぶかな、なんて…」
「…ありがとう。」
ユイが顔をあげる。目には涙。
「今まで、ごめんなさいね…」
ヘレンも、最高の笑顔で微笑む。その顔は、穏やかだった。
シュッ。

ドアが閉まる。

もらったワインを置き、再びベッドに顔を埋める。

「リオン…もどってきてよ、なんでもしてあげるから…いつでもどこでも、どんなことでもわたしにできることならなんでもしてあげる。
だからもどってきて…わらって。おこって。ないて。わたしをみて…」

 

 

「あの…ヘレンさん、重いんだけど…」

………

……………

「なんでいるのよぉぉぉぉぉ!?」
「え、いや、脱出装置つけといたのヘレンさんでしょ?」
「ひょっとして、全部聞いてたの!?」
「うん、一応」
「まさか、他のみんな…」
「え、知ってるよ。無事だった祝いにジオ社からの懸賞金で明日焼き肉食いに行くかーとか言ってたけど…」

「ハメやがったなヒイロユイ――――ッ!!!」

「ま、まぁまぁ落ち着いてよヘレンさん…」

 

僕がベッドの中からヘレンさんをなだめると、また彼女がのしかかってきた。
「ぐえ」
「リオン君よね!?きみ、ホントにリオン君よね!?」
そ、そうですけど…く、くるし…
「よかったぁ!生きてるんだね!!」
今度は、人の頭を思いきり抱きしめる。
ああ、いくらユイより小さいとはいえこれはこれで結構…

「もう、あんな思いはしたくないよぉッ!リオン君、ずーっと私といっしょにいて!私と結婚して!」
「あ、はい。」

…え?

なんか今、とんでもなく軽率に返事してしまったようなきがするけどまぁいっかー。
あー、なんか抱きしめる力が強くなって…このままでは胸で窒息死してしまいそうですー。
ある意味理想的な死に方だろうけど、享年19歳はちょっといやだなー。

と言うわけで、ヘレンさんを引き剥がす。

「リオン君…ありがと。」
「あはは…まあ、ともかく助かって良かったですよ。ユイからもらったワインでも飲みましょうか?」
そう言って、ベッドから起きあがるとワインボトルを手にした。

そこで、電波を受信してしまった。

「ヘレンさん、さっき…何時でも何処でもどんな事でも出来ることならなんでもしてくれるって言ってましたよね…?」
「え、うん、まぁ…」

返事を聞くと同時に、ヘレンさんをベッドに押し倒した。

「え!?」
「ワインの美味しい飲み方をちょっと思い出しましてね…」
「ちょ、ちょっと!なんでワイン飲むのに服を…あ、こらっ!」

以下略。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、あのお酒の飲み方がクセになってしまったようだ。…ヘレンさんが。
そう思って少しばかり感傷に浸りつつ、せっせと婚約指輪を買うために働いている自分がすこし可愛いと思います。

ジオマトリクス社技術開発課課長…リオン・ハインリッヒ

実はTo be continued......


カプリッケ:kei-h@f7.dion.ne.jp