「AC部隊、巡洋艦のACとの戦闘を開始しました。敵マーマンは、ACに向かったようです」
 ミリアが状況を報告する。
 「ラー・ミリオンとルミナス・レイは?」
 「マーマンと交戦を開始しました」
 「巫護君…大丈夫なのかしら…」
 心配そうな顔で立ち尽くす、希望。ああは言ったものの、やはり不安は拭いきれなかった。
 「心配ない。刃がついている。巡洋艦のほうも、ガルド達なら問題ないだろう」
 希望の肩を叩いて、安心させるように言うビリー。
 「しかしエナはまだ実戦経験が少ない。不安だな…」
 だがグリュックは、あまり安心していないようだ。
 この隻腕の男がそういうからには、確かに不安な要素があるのだろう。
 「そう言っても始まらないさ。今は、敵潜水艦を叩く事を考えよう。メギドアークが沈んでは、彼らも戻って来れないからな」
 ビリーはそう言って、シェリーに攻撃の指示を出した。



 第5話「放たれた矢」 




 青い大海原の上、2機のACが武器を構えていた。
 黄金と純白のその機体は、まるで見えない敵を相手にしているかのように警戒している。現に、海上にはその2機以外に機影はない。
 海上、には。
 敵は彼らの足元。海中にいた。
 水陸両用MTマーマン。それが敵の名だ。
 「敵は……10機もいるぞ…」
 翔一はレーダーを食い入るように見た。そこには自機よりも低高度の敵を示す黄色い光点が10、映し出されている。
 その光点が赤くなった時・・・それは、翔一と刃という獲物を求めて、肉食魚のようにマーマンが浮上してきた、ということである。
 『いいか、レーダーから目を離すな!』
 通信が入った。グリュックだ。
 『魚雷ポッドのターゲットリストから、メギドアークの識別信号を外せ!』
 「りょ、りょうかい!」
 取り合えずは、言われたとおりにやるしかない。翔一はメギドアークをターゲットから外し、マーマンだけを目標にするよう設定した。
 この魚雷ポッドは海中に投下された後、周囲の熱源、スクリュー音に反応し、無数の魚雷を射出するのだ。コンテナミサイルの水中版のようなものである。
 だが、翔一が設定に注意を向けたその瞬間、翔一の近くの黄色い光点一つが、不意に赤くなった。
 ラー・ミリオンのモニターに警告が表示され、耳障りな警告音が翔一にその事を気付かせた。
 「くっ!」
 とっさに回避行動を取る。
 ラー・ミリオンはホバーボードに搭乗していた。
 ホバーボードはACの脚部を接続して、一時的にACにフロートタイプの特徴を持たせるようなものである。
 一瞬後に、ラー・ミリオンの今までいた地点から、マーマンが飛び出してきた。
 だが、そのマーマンが日の光を拝む事が出来たのはほんの一瞬だった。その直後には、刃のルミナス・レイによって撃破されていたからだ。
 「よし…喰らえ!」
 その間に、ラー・ミリオンから魚雷ポッドが投下された。無機質な四角い物体が、そのまま海中へと没していく。
 そして異変は起こった。
 海の中で次々と白い尾を引き何かが乱れ飛び、所々で爆発が起こる。
 レーダーを見ると、先程まで2人を取り囲んでいた黄色い光点が次々と消滅していくではないか。
「すげえ…これがラー・ミリオンか…」
翔一は魚雷ポッドの性能に驚いていた。海上戦では戦力的にACに匹敵する能力を持つ水陸両用MTを、こうもあっさり倒せるとは。
それは、メギドアークのビリーやグリュックにしても同じ事だった。まさか、これだけ短時間で敵を殲滅できるとは思っていなかったのである。
「ラー・ミリオンにルミナス・レイ…重要な戦力になるな…」




一方そのころ、ガルド達AC部隊も激戦を繰り広げていた。
ガルドのケイオス・マルスはリールのハーディ・ハーディと。
レイス、エナ、トラウマは量産型フロートAC、サハギンと。
ケイオス・マルスが右腕のガトリングガンでハーディ・ハーディに銃撃の雨を降らせる。同じ連射武器でも破壊力はマシンガンの倍近い。だが、ハーディ・ハーディは軽量級、ましてやリールは歴戦の猛者である。かすめはしたが、致命傷には至らない。
「さすがにやるな…」
「ほざくなっ!」
リールはガルドの余裕を見せるような態度に腹を立てたのか、軽量級の機動力を生かして一気に襲い掛かった。ホバーボードごと空中に飛び上がり、バズーカで連続射撃を仕掛けてくる。
ガルドは機体を左右に滑らせて回避するが、いかんせんホバーボードを装着した状態では慣性が働き、機体の切り返しが遅い。リールもそれをわかっているのか、確実にバズーカをケイオス・マルスに命中させていく。ケイオス・マルスの真紅のボディに、損傷が目立つようになってきた。
「ちっ」
ガルドがマルチミサイルを放つ。
敵に接近後4つに分裂する多弾頭ミサイル。だが、ハーディ・ハーディの機体にミサイルが届くことはなかった。空中でホバーボードをつけたままにも関わらず、わずかな動きでそれを回避。
大きく動くよりも必要最低限の動きで回避する熟練の回避能力だ。
ガルドはちらっと、他の3人に目をやった。
トラウマの哭死はサハギンと中距離を保ちながら、12連小型ミサイルでサハギンと交戦中だ。だが、サハギンの方もミドルミサイルで反撃している為、回避しながら撃っていたのではなかなか敵をロックオンするのは難しかった。
なぜなら、後方で援護射撃するエナのシュメッターリングをガードしながらの戦いだからである。
エナのシュメッターリングの武装はハンドガン、小型ガトリングガン、シールド。エナはプラスではないため、ガトリングを撃つには構え動作をとらなくてはならない。
だが、その間動けなくなるエナを敵が見逃すわけも無い。ハンドガンだけではAC相手の戦闘はつらい。ましてシュメッターリングにはブレードが無いのだ。
ちなみに、中量2脚にシールドという一見無謀とも言えるこのアセンブリは、エナのコーチであるグリュックのポリシーであるといわれている。
とにかく、レイスとトラウマは援護射撃をするエナをガードして敵を近付かせないようにする。という作戦の元、3人は戦っていた。
格闘戦の得意なレイスが愛機ギルティブレードをサハギンに突っ込ませ、ブレードを振るっているが敵もギルティブレードの格闘能力を察知したのか、ギルティブレードの間合いには入ってこない。こちらから近付いても、すぐに距離を取られてしまう。
その結果、射撃の不得手なレイスは敵に全くダメージを与えられていなかった。
その時、ようやくエナのガトリングが直撃し、サハギンの1機が炎を上げる。海面に浮上していることが出来なくなり、そのまま海中に没していった。
これで3対3である。
だが、敵はターゲットを一斉にエナにあわせ、総攻撃を開始した。
2機がライフルの連続射撃、1機はミドルミサイルを放つ。
『エナ、回避行動だ!』
グリュックの通信が入る。
「は、はいっ!」
ガトリングを格納して立ち上がり、回避行動に移るが遅い。
間に合わないと判断し、シールドを構えるエナだが・・・
「おっと、そうはいかないっス!」
レイスのギルティブレードがシュメッターリングに迫るミサイルをブレードで切り払った。
その間に、エナに集中していたサハギンにトラウマが一気に肉薄し、ブレードを振るう。
しかし、そのサハギンは最後の力を振り絞り、ブレードを振るおうとした。
「おとなしく…墜ちろ!」
トラウマが叫び、もう一度ブレードを振るう。哭死の装備しているブレードは、隙が少なく攻撃回数の多いタイプの・・・俗称では、爪とか呼ばれている・・・ブレードだ。
その一撃で、今度こそそのサハギンは先の1機を追って、同じように海中に没していった。
これで3対2。こうなると、趨勢は決した。
ガルドも、徐々に押し返し始めていた。
いくらリールがプラスといえども、いつまでも飛び続けてはいられない。そんなことができるのはインフィニティアだけだ。
ハーディ・ハーディが海上に戻ってきた瞬間を狙い、グレネードランチャーをお見舞いする。
派手な爆発が起こり、ハーディ・ハーディが横殴りに吹き飛ばされた。
だが、どうやら着弾の瞬間回避したらしい。完全な直撃には至っていなかった。
「ちっ、ここまでか……」
リールは悔し気に言い、そのまま戦闘海域を離脱して行った。
ガルドは追わない。こちらも結構な損傷を負っている。
それと同時に、残る2機のサハギンも撃破されていた。



メギドアークでも、既に戦いの行方は分かっていた。
メギドアークは現時点の潜水艦よりも何ランクも上の性能を持つ高性能艦である。
 1対1で戦えば、負けるわけはなかった。
「シェリー、魚雷だ」
「了解…」
メギドアークから2発の魚雷が発射される。
敵潜水艦はデコイを射出し右舷に急速旋回。なんとか回避しようとする。
「敵潜水艦、魚雷を回避」
「よし、4発発射。本命を叩き込め!」
ミリアの言葉を受け、間髪入れずにビリーが指示を出す。シェリーがコンソールを叩いた。
4発の魚雷が敵潜水艦に向かう。今度はよけ切れずに、直撃した。
「敵潜水艦、レーダーから消えました」
ミリアが相変わらず何の感情も感じさせない声でそう告げた。
「よし、浮上してAC部隊を回収。敵巡洋艦を振り切って本拠地へ帰還する」



 戦闘終了後、希望はすぐにガレージへと向かっていた。
 彼女がガレージに着くと、丁度ルミナス・レイとラー・ミリオンがガレージに収納されたところである。
 「巫護君、刃君、大丈夫?」
 先に降りてきたのは刃のほうだった。ガレージの中に希望の姿を確認すると、敬礼して言う。
 「これは委員長」
 「ちょっと……今の私はもう委員長じゃないわよ。私の名前は華僑希望だって言ったでしょ?」
 困ったように言う希望。もう当分は学校に戻る事はないだろう。
 「むう…」
 「だから、私の事は希望って呼んでちょうだい」
 「了解した。では、以後は希望と呼ぶ」
 「あと、敬礼も無しよ。それに、そんなにかしこまって話さなくてもいいわ」
 「了解した」
 これはダメだ、と内心頭を抱えながら、それでも希望は刃の事が嫌いにはならなかった。むしろ、最初会った時よりも好感が持てるようになって来た気がする。
 「じゃあ、これからよろしくね!」
 そう言って委員長は刃の手を取り、握手した。
 だが、その瞬間に一瞬刃がこわばる。希望もそれに気付き、不安そうな顔になって刃に尋ねた。
 「どうしたの?握手するのイヤだった?」
 「希望…君に一つ警告しておく」
 刃は真面目な表情になって、希望を見据えた。
 「な、なに?」
 本気で不安になり、希望が顔を曇らせる。まさか、そんなにイヤだったのだろうか?
 「迂闊に利き腕で握手をするな。その相手が実は敵だった場合、その瞬間に利き腕を駄目にされかねない」
 しごく真面目な表情で、刃はそう言った。
 「………は?」
 それとは対照的に、意表を突かれて呆けた顔になる希望。
 「君はどうやら非常に不注意なようだな。これから先君の護衛をするに当たってそれ位の事は気をつけてくれなければ困る」
 「いや、あの…」
 何か言おうとしたが結局何を言っても無駄だろうと思い、やめる。
 その時、翔一もルミナス・レイから降りてきた。
 「あ、巫護君大丈夫だった?」
 目ざとくそれに気付き、希望が翔一に声をかける。
 「ああ委員長、楽勝だぜ!まあ、俺とラー・ミリオンに任せておけば万事一件落着だね!」
 何やら、かなり調子に乗っているようだ。
 「あのねえ…あんまり調子に乗るもんじゃないわよ?もし何かあったらどうするのよ!」
 「まあ、心配ないって!」
 希望が諌めるが、翔一は全く聞く耳を持たない。
 「希望の言うとおりだ。油断は死に繋がるぞ」
 刃が口を挟む。
 「な、何だよ。何でお前が口出してくるんだ?」
 翔一はあまり刃が気にいらないようだ。だが、刃のほうはあくまで先程の希望に対する態度と変わりなく、翔一に言う。
 「俺がハーネスト社の部隊に入ってテロリストと戦っていたときの事だ。初陣で3機の敵を撃墜して天狗になり、お前のような発言をしていた新兵が次の戦闘で1人で突出して戦死した」
 「………」
 押し黙る翔一と希望。もっとも、沈黙の原因は刃の言葉の後半の新兵の事ではなく、むしろ前半の部分だったが。
 「いや、刃君って…何歳からACに乗ったりしてるの?」
 希望が恐る恐る聞く。
 「初めてACに乗ったのは8歳だ。だが、その他の戦闘訓練なら6歳の頃から受けているぞ。最初に銃を撃ったのは5歳だった」
 淡々と話す刃に今度こそ絶句する2人。
 彼はやはり、自分達とは本格的に異なる生活環境のもとで暮らしてきたのだ。
 「あの、刃君…学校とか、行ってないんでしょ?」
 しばし沈黙が続いた後、希望が再び恐る恐る尋ねる。
 「学校?ああ、行った事はあるぞ」
 「なんだ、あるのかよ…ま、そりゃそうだよな」
 翔一が安心したように言うが、それに続く刃の答えはその安心を一瞬で砕いた。
 「前に、テロリストが学校を占拠し、子供たちを人質に取った事があった。俺もその時人質奪還任務で学校に突入した」
 冷たい風が流れるような錯覚。
 不意に、がしっと希望が刃の両手を取った。
 「な、何を?」
 突然の事に警戒するそぶりを見せる刃。
 「いい、刃君。私の護衛もいいけど、それよりもまず刃君はすることがあるわ」
 真剣な表情になって刃を見据える希望。
 「これから、私が暇を見て勉強教えてあげますからね!」
 委員長気質は、まだ抜けきっていないようだ。
 「勉強?しかし、俺には…」
 「必要無くなんかないわよ!いい、今はこんな状態だけど、きっといつかは平和な世の中が来るんだから!その時になったら必要になるのよ!」
 びしっ、と言い切る。
 もっとも、本当に平和な世の中が来るのかなど分からなかったが。少なくとも、刃はこのままではいけないと希望は思ったのだ。
 さすがの刃もその気迫に押され、一歩後ずさる。
 「へえ……刃のあんなところは始めてみたよ」
 ガレージの片隅で、その様子を見ていたディックとアレックスが珍しいものを見た、という目をしていた。
 「ああ。刃って、まるで刃の切っ先みたいな奴だってガルド隊長がつけた名前だよね?」
 アレックスがディックを見上げて尋ねる。陽気で人のよいメカニックの青年も顔を曇らせて答える。
 「ガルド隊長があいつを何処から連れて来たのかは皆知らないからな。案外隠し子って事も…」
 ディックがそこまで言った時、アレックスが彼の背後に目をやり、まずい!という表情になる。だが、ディックはそれに気付いていない。
 「そういや、ガルド隊長の女関係とかって謎だよな。案外色々あるのかも…」
 「人の噂話をする時は、もっと小さな声でするもんだぜ」
 突然ディックの背後から響いた声によって、ディックがまるで時間が止まったかのように凍りつく。
 ぎぎぎぎ、という錆び付いたネジでも回す音がしそうなほどぎこちなく背後を振り返ると、そこには彼の予想していた、そして最悪の人物がいた。
 「よう、ディック。誰が俺の隠し子だって?」
 声の主は、もちろんディックが噂していたガルド当人である。
 「イ、イヤァ、ダレモソンナコトイッテマセンヨ、アハハハハ」
 悲しいほどに説得力がない。
 「俺の女関係が何だって?」
 ぽんぽん、とディックの肩を叩きながら、ガルド。
 視線でアレックスに救いを求めるディックだが、アレックスはそれに気付いていないのか、気付いていて無視したのかは分からないが口笛を吹き、
 「さて、ACの修理しちゃわないとな〜」
 と言いながらその場を去っていった。
 取り残されたディックのその後は・・・説明を省いておこう。



 敵巡洋艦の追撃を振り切り、メギドアークは一路オーフェンズの本拠地、ポイント000(トリプルゼロ)に向かっていた。
 さて、メギドアークは超大型の万能潜水艦だ。その用途は対艦戦やACの母艦だけではない。その内部には数百人分の居住施設(今はあまり使われていないが)や簡単なラボ、娯楽施設まで存在しているのだ。
 その一部のロビーに、数人がたむろしていた。
 トラウマ、エナ、レイスである。
 「なんだか段々やばい敵が出てくるようになったと思うだろ?」
 レイスがトラウマとエナを相手に一方的に喋っていた。
 「いきなり十三使徒のシスター・ヘレナや、アリーナ10位のデコード。そしてアリーナ7位のリール…確かに、あたし達にはちょっと荷が重い相手ですね…」
 エナも同意する。彼女は3人の中で最も経験が浅いため、特にそうだった。
 「でも、最初からこういう事態は予想できてたわけだし…」
 トラウマがおどおどと口を挟む。
 「だから!一体、艦長の本当の目的って何なんスか?俺たちにはあんまり話してくれないしさ…」
 エナとトラウマはそれぞれ、自分の師匠がガルドやビリーと知り合いだった為、普通にオーフェンズに参加していた。だが、レイスは違う。
 彼には独自の目的があった。その目的のために、レイスはオーフェンズに参加しているのだ。詳しい事は誰にも話していなかったが、人手不足のオーフェンズはそんなレイスの参加を歓迎したのだ。
 今ではACチームの一角をなしているレイスだが、自分の目的を忘れたわけではない。
 「僕は、いなくなった師匠を探す為…そして、あのACを見つける為にオーフェンズに参加してるわけですし…」
 トラウマの師匠である、雑賀という女性。
 彼女は恋人を目の前で正体不明のACに殺され、生きる目的を失い心を閉ざしていたトラウマに生きる為に復讐という目標を突きつけ、ACの操縦を教え込んだのだ。
 だが、彼女は突然失踪してしまった。現在トラウマが乗っているAC、哭死を残して。
 それ以後彼は雑賀を探す為に、そして恋人を殺し、自分の人生を滅茶苦茶にしたあのACを探すためにオーフェンズで戦っている。
 そう、全ての謎が、全ての目的が、ここにいれば果たせるような予感が、彼らの中にはあった。
 一体オーフェンズの真の目的とは何なのか?
 それは確かに、気になる事ではあったのだ。
 「確かなのは、ただの企業間の抗争じゃないって事でしょうね…確かにオーフェンズはハーネスト社から援助を受けてはいる、けどそれは当面アルマゲイツと敵対しているからに過ぎない。僕たちの本当の敵はいったい誰…」
 トラウマが深刻そうに言った。
 


 「どうやら、もう心配は無さそうだな」
 ブリッジには、既にビリーとグリュック、ミリアしかいなかった。
 「そう言えば、ラスコリーニコフはどうした?」
 ビリーが思い出したように、グリュックに聞く。
 「ああ。帰還した後にいきなり高熱を出して現在メディカルルームだ」
 何の感慨も込めない声で答えるグリュック。
 つまり、いつもの事なのだ。
 「ミリア、ポイント000到着までは?」
 「後5時間ほどです」
 問題はない。
 今回の作戦は予想以上の成果を上げた。
 アルマゲイツの新型AC、ラー・ミリオンとルミナス・レイだけでなく、巫女まで見つける事が出来た。インフィバスターのおまけ付きである。
 しかし・・・戦えなくなったユーミルの替わりに現れた巫女は、戦いなど経験した事のない普通の少女・・・これは皮肉なのだろうか?
 巫女にすがって生き延びる人類。
 人類のために命を落としてきた代々の巫女。
 それ以前に不可思議なのは、巫女は皆エルスティアの出身のはず。するとあの少女もエルスティア生まれなのか?
 いや、それ以前に巫女は血筋で引き継がれるはずだ。
 では、なぜ・・・
 ビリーは考えるのをやめた。
 考えて結論が出るような問題ではない。
 「……まだ、始まったばかりか……」
 ビリーは呟いた。
 始まったのは、人類の命運をかけた戦い・・・・・・




 後書き 第5話「放たれた矢」
 なんだかちょっといつもより短いです。これ以上伸ばすと、また次が中途半端になってしまうので…
 今回は新キャラは出てないですね。次の話ではまた新キャラが登場する予定ですので、心当たりのある方は楽しみに待っていてください(笑
 ACの海上戦は如何だったでしょうか?多分まだまだ表現も何もかもだめだ〜めな予感ですが(なにしろ短いし)、今後も海上戦は多いはずです。修行せねば…