「ここって…孤児院じゃない。なんでここに?」
「すぐに分かる」
全てを話す。そう言ったガルドがユーミルを連れて来たのは、彼女の出身の孤児院だった。
「おっちゃん、ここに来た事あるのか?」
リットもいぶかしげにガルドを見上げる。彼もこの孤児院の出身だ。
孤児院の敷地内に入ると、すぐに子供たちが集まってきた。
「わーい、ユーミルお姉ちゃんだ〜!」
「リット、その人たち誰?」
あっという間に子供たちに囲まれる4人。
その様子を見て、一人の女性が建物の中から出てきた。この孤児院を運営している、メリアという人物である。孤児たちの母親のような存在だった。
「あら、ユーミル…来るんなら来るって言ってくれればいいのに…あら?そちらの方は?」
メリアが、ユーミルの後ろのガルドとビリーに目をやる。
「あ、この2人はね…」
「まあ、あなたは!」
説明しようとしたユーミルを遮り、メリアがガルドを見て驚く。
「え?メリアさん、ガルドを知ってるの?」
「知ってるも何も、あなたをこの孤児院に預けたのは、その人よ!?」
メリアのその言葉に、一瞬固まるユーミル。
そして…
『えええええーーーーっ!?』
ユーミルとリットの叫び声が、孤児院にこだました。
第14話「孤児院の少女」
「なあ、エナ。また、新しく誰か来たのか?」
リットが1人の少女と話していた。レモン色の髪に緑色の瞳の、かわいらしい少女だ。13歳と、この孤児院の中では平均的な年齢である。リットと同じ歳だ。
「うん。ええと、確か名前は…ソーネチィカ…セミョーノヴナ…だったと思う」
エナと呼ばれた少女は、たどたどしくそう言った。
「ふーん、なんか長い名前だなあ」
「あたし達は、ソーニャって呼んでるよ。確か、リットより2歳年上だったけど…」
「へえ。しっかし、この孤児院もまた人増えたな…」
リットがあたりを見回す。
ここの孤児院の孤児たちの人数は、既に50人近くになっていた。
「でも、ソーニャは小さい子の面倒見るのが、上手だから」
と、エナ。彼女も、13歳にしては大人びていた。
「ふーん…」
リットもソーニャに目をやった。
茶髪に茶色の瞳。15歳らしいが、顔立ちからはエナと同じくらいにしか見えなかった。
華奢を通り越してかなりやせている。
「ねえねえ」
エナが真剣な顔になる。
「この前聞いたんだけど、なんだかユーミルお姉ちゃんと同じ名前の、すごいレイヴンがいるらしいのよね」
リットが思わず固まる。
ユーミルがレイヴンになっているのを知っているのは、この孤児院ではメリアとリットだけだ。
「それでね、まだ若い女の人なのに、すごく強いんだって」
「ふ、ふーん…すごいなあ…」
あせだらだらのリット。
エナもまさか、あのユーミルお姉ちゃんがその当人だとは思っていないのだろう。
「すごいよね。あたしもレイヴンになりたいな…」
だがエナのその言葉には、さすがにリットも慌てた。
「おいおい、何言ってんだよ!レイヴンなんて、危険だぞ!?ACに乗るんだぞ!?」
「でも…レイヴンって、儲かるんでしょ?ここも最近、また人数増えたし…レイヴンになって、ここの運営の手伝い出来たらな…って思うの」
(姉ちゃんみたいな事言うな…)
その頃、ユーミル達は…
「ゲート、の事は知ってるだろう?」
ガルドがそう切り出していた。
「ああ…聞いたことあるわね。確か、異世界へ通じる扉とか何とか…噂なんでしょ?」
メリアが答える。
「ああ、そうだ。だが…それは、噂じゃない。俺はその、異世界からやってきたんだ。そしてユーミル、お前もな」
「異世界…って、どーいうこと?」
話が唐突過ぎて、ユーミルにはよく理解できていなかったらしい。
「まあ…順を追って話そう。あれは今から10年前の事だ。俺がまだ駆け出しのレイヴンだった頃…俺は身のほど知らずの青二才だった。調子に乗ってやばい仕事に手を出した。ゲート調査のミッションだった…俺は敵対勢力に追われ、ピンチになっちまった…だが、その時だ。ゲートが突然光を放った。俺にはそれが、救いの光に見えた。まあ、どのみちもう他に手はなかったから、俺はACごとゲートの中に飛び込んだ」
ユーミル、ビリー、メリアの3人は黙ってそれを聞いている。
「そしてあたり一面光に包まれて、上も下も分からなくなっちまった。俺はもう死んだのか、と覚悟したよ。だが、行き着いた所は地獄じゃなかった。妙な神殿みたいな所に出てな…」
「そこが、異世界か…」
ビリーが言った。
「ああ。エルスティア王国というところだ。驚いた事に、向こうの世界にもACやMTがあった。そしてな…俺はそこで、ある敵と戦った」
「敵?」
「王国は正体不明の敵に攻撃されていた。よくわかんねえ奴だ。機械生物というのか…俺たちは、ディソーダ―って呼んでた。とにかく、そいつらとの戦いは、一機のACによってひとまず決着がついた」
「一機のAC…まさか、インフィニティアの事か?」
ビリーが何かに思い当たったようにそう言った。
「ああ、そうだ。真の力を解放したインフィニティアによって、敵の中枢が壊滅したからな。だが、その時にインフィニティアを操れる唯一の存在である”巫女”が、死んでしまった。一人の娘を残してな。……もうわかるだろう、ユーミル」
「………え?」
「わかれよな…まあいい。その娘が、ユーミル。お前だ」
「…わたしのお母さん?」
ユーミルはインフィニティアに乗った時聞こえた、あの優しい声を思い出していた。
「じゃあ…あの声は、お母さんの声?」
「多分な…それでだ。ディソーダ―は活動を停止しこそすれ、まだ全滅したわけじゃなかった。それに、ディソーダ―の出現は前触れでしかなかった。古い予言によると、ディソーダ―は単なる前触れに過ぎんそうだ。真の脅威は、九球の織天使と呼ばれる存在なんだとよ」
「予言…?」
疑わしそうな声で、ビリーが尋ねる。確かに、こんな時代に予言など信じろという方がどうかしている。
「俺だって信じてなかったさ。だが、ディソーダ―の出現だって当たってた。……信じるしかないだろ」
沈黙があたりを支配する。
それを破って、ガルドが再び話し始めた。
「俺はその頃までには、場数を踏み、エルスティア王国の円卓の騎士13人に名を連ねるようになっていた。それで、俺が選ばれたって訳さ…ユーミル、お前の護衛、そして指南役をな」
「ガルドがわたしの護衛?えっと…どういうこと?」
「来るべき脅威に対抗するにはインフィニティアが必要だ。だが、操縦者はユーミルしかいない…それでこっちの世界でレイヴンとして経験を積ませたのさ。来るべき時が来るまでな。どうやら、その時がきたようだ」
「ちょっと待て!」
ビリーが思わず立ち上がる。
「それじゃあ、彼女の意志はどうなる!君は彼女を戦いの道具にしたいのか!?」
「そんなこと、仕方ないだろう。あっちの世界が滅ぼされたら、次はこっちだ。何人死ぬと思ってる?俺たちには、インフィニティアとユーミルが必要なんだよ。生き延びる為にはな」
ガルドは冷たくそう言い放った。
だがビリーは引き下がらない。
「大勢を救う為なら一人を犠牲にしてもいいのか!?」
「まって、ビリー…」
それを止めたのはユーミルだった。
「ガルド、それって…わたしにしか、できないことなんだよね?」
「……ああ」
「わたしがやらないと、みんな死んじゃうんでしょ?」
「……そうだ」
「じゃあ、やる」
ユーミルは、あっさりとそう言った。
「お、おい…」
「いいのビリー。じゃあわたし、みんなとあってくるから」
子供たちと遊ぶユーミル。
この光景も、これが最後かもしれなかった。
それを遠くから見ている、2人の男がいた。
ガルドとビリーである。
「……彼女が死んでもいいのか?」
ビリーが怒りを込めた口調で言った。
「彼女の母親のようにならない保証が何処にある?」
「……死なせやしねえ」
「なに?」
「守るんだよ。そのために俺がいるんだ。お前は違うのか?」
「………」
沈黙が続いた。
「ああ…守って見せるさ…」
後書き 第14話「孤児院の少女たち」
戦闘なし。まあそれはいいとして…
エナ原案のYukさん、ソーニャ原案のTO−RUさん、ありがとうございました〜
出番少なくてすみません(^^;
特にソーニャ、台詞ないし…それ以前に彼よりソーニャ先に登場してるし(激ぉ
一応先行登場させましたが…うああ、やべえよ(ぉ
本格登場は第2部になりますので期待して待っててくださいな