「報告します!アビスマインは全て誤爆!作戦は失敗です!」
「現場のスタッフは全て死亡しました!」
「アビゴルの進行速度に変化なし!ダイス部隊、スノウ部隊共に壊滅状態です!」
次々と報告が入ってくる。いずれも悪い報告ばかりだ。
「……人間が相手なら白旗を揚げることも出来よう。だが、相手がアレではな…」
国王は静かに呟いた。
「…やっぱり、わたしが行きます!」
ユーミルが立ち上がる。
国王はユーミルを見て、寂しげに呟いた。
「すまぬな…結局そなたに頼ってしまう事になりそうだ」
「気にしなくて大丈夫…やっぱりわたしだけ残ってるなんて退屈だったから!」
そう言ってユーミルはガレージのほうへと駆けて行った。
第23話「破滅と崩壊の足音」
アビゴルはレグナ平原に差し掛かっていた。
アビスマインの爆発で大きなクレーターが出来ている。
「ガルド…アビゴルのほうは任すぞ」
アルマがエルディバイラスを転進させる。
ルカのリド・ゲイドの方に。
「…ああ」
ガルドはただそれだけ言って、アビゴルに突っ込んだ。
既にダイスやスノウ部隊は壊滅、他の機体も弾薬は尽きかけ、損傷も大きくなっていた。
「おやおや…まだ諦めないつもりですか?」
ルカが薄笑いを浮かべたまま、嘲りの声を投げかけた。
最早人のいい青年の面影はどこにもない。
「まずはお前を倒す…」
エルディバイラスがリド・ゲイドに向けてプラズマライフルを放った。
リド・ゲイドは右に高速機動してそれを回避する。
目標を捕らえそこなった光弾が彼方へと消えていく。
それを確認するより早くプラズマライフルを連射しながらエルディバイラスがリド・ゲイドに突撃した。
リド・ゲイドも黙ってはいない。
両肩、そしてエクステンションから一斉にミサイルが放たれた。一度に20発を越えるミサイルを発射している。
リド・ゲイドも並みのACではないようだ。
エルディバイラスはミサイルを意にも介さず突っ込んだ。
襲い来るミサイルを、あるいはわずかな動きで回避し、あるいはブレードで切り払い、一気にリド・ゲイドに接近した。
「おやおや…」
ルカは両腕のビームキャノンを放った。
エネルギーが一瞬で両腕の砲身から放たれ、破壊の意思を持ってエルディバイラスに迫り来る。
その恐るべき光の奔流を、エルディバイラスはプラズマライフルを2連射し相殺した。
光と光がぶつかり合い爆発が巻き起こる。
その爆風でフロートタイプのリド・ゲイドが後ろによろめいた。
「死ね、ルカ」
エルディバイラスがOBを起動した。
次の瞬間一瞬で音速に達したエルディバイラスが一呼吸にも満たない時間の内にリド・ゲイドにレーザーブレードで斬撃を叩き込んだ。
超高加速ですさまじい威力を込めた斬撃、だがリド・ゲイドの装甲は深く削れているもののそれだけだった。
「リド・ゲイドの力…甘く見ないで頂きましょうか」
至近距離でリド・ゲイドが両腕のビームキャノンを放った。
よける間もなく炸裂し、エルディバイラスが吹き飛ばされる。
エルディバイラスの右腕が吹き飛ばされた。
当然右腕に装備されていたプラズマライフルも使用不能になる。
「おやおや…アルマ、弱くなったんじゃありませんか?」
「どうかな…」
そうは言ったものの、ルカの強さは予想外だった。
爆発。
ハーディ・ハーディの片腕が吹き飛んだ。
「ちっ、しまった!」
右腕のバズーカは既に弾切れしている。左腕も今破損してしまった。
もはや攻撃手段がない。
ドルーヴァも既にロケット、ガトリング共に弾切れしている。
最早攻撃手段は残っていない。
「もういい、2人は撤退しろ!」
グリュックが叫ぶ。彼も既にスナイパーライフルとミサイルは尽きている。ガトリングガンの弾がまだ残っているが、膝をついていてはとても攻撃をしのげそうにない為、撃つチャンスなどなかった。
雑賀の哭死も弾は既に尽き、ブレードだけで小型ディソーダーを撃破していた。だが、小型ディソーダーは倒しても倒しても出てくる。
アビゴル本体もこれだけ集中攻撃が加えられているにも関わらず、恐らく損傷率は10%行っているかどうかだろう。
と、雑賀が窮地に陥った。小型ディソーダーの集中攻撃を受け、装甲が弾け飛ぶ。
「くっ!」
ブレードで片っ端から片付けるが、哭死の装甲はもちそうにない。
「ちっ、しゃあねえ!」
グリュックがグリュックス・ゲッティンに膝をつかせ、ガトリングガンを連射する。
哭死の周りの小型ディソーダーが次々と撃破されていく。
だが…
「まずい、アビゴルの攻撃が来る!全員回避だ!」
ガルドが叫ぶ。
アビゴルの頭部にエネルギーが収束していく。
だがグリュックは遅れた。
膝をついていたためとっさに反応が取れなかったのだ。
次の瞬間、アビゴルの頭部から強力なエネルギーが放たれる。
小型ディソーダーもろとも破壊の奔流がACを襲う。何とか回避するガルド達だが、グリュックだけはよけ切れなかった。
直撃はしなかったものの爆発に巻き込まれ、グリュックス・ゲッティンが吹き飛ばされて宙に舞う。
「あいつ…くっ!」
雑賀が哭死を大破したグリュックス・ゲッティンの方へと向けた。
「やべえ!全員哭死を援護だ!」
ガルドがそう言って、アビゴルの気を引くべくベーゼンドルファをアビゴルに突撃させた。その鈍い銀色のボディも既に損傷が目立つようになっている。
雑賀はグリュックス・ゲッティンのコクピットをこじ開け、哭死から飛び降りた。周りは小型ディソーダーが徘徊している。かなり危険だ。
「くっ…!」
グリュックの惨状を見た雑賀は一瞬言葉を失った。
彼の右腕はなくなっていたのだ。コクピット内は赤く染まっている。
「どういうつもりだい…?」
「約束は…破るんじゃねえぞ…」
ゆっくりと体を起こしながら、グリュックがそう言った。
こんな身体でもまだ動けるらしい。
「とにかく…この機体はもうダメだね、捕まりな!」
雑賀はグリュックを引っ張り、哭死のコクピットまで運ぼうとした。
「何してやがる…早く逃げろ」
「冗談じゃないね…無駄口叩いてる暇あったら気張りな!」
エルディバイラスのレーザーブレードがリド・ゲイドを直撃した。
「さすが、元円卓騎士団長…なかなかやりますね」
「お前も、吟遊詩人にしてはなかなかやる」
間髪居れず、キックを叩き込む。
次の瞬間リド・ゲイドから大量のミサイルが射出された。しかし。
四方からビームが走り、ミサイルがことごとく撃墜されていく。
「おや?」
ルカの視線の先にあったのは、オービットだ。
ただのオービットではない…数は少ないが、まるで自分の意志を持っているかのような動きである。
「……なるほど…来ましたか…」
青い光を放ち、何かが突っ込んでくる。
「インフィニティア…ユーミルか!」
アルマが苦々しげに呟いた。
「何故来た!」
アルマの問いに、蒼の巫女はあっさりと、
「みんながやられてるのに一人だけ黙ってるわけには行かないでしょ!」
そう答えた。
インフィニティアはリド・ゲイドにポジトロンライフルを連射する。
リド・ゲイドは左右に回避するが、よけきれず2発に1発は喰らっていた。
「くっ…これがインフィニティアか…!」
ルカの表情からいつの間にか余裕の色が消えている。
リド・ゲイドが両腕のレーザーキャノンを放つが、インフィニティアはいともたやすくそれを回避し、カウンターをとって近づいた。
「よくも騙したな〜っ!」
ユーミルの恨みがましい声と共に、インフィニティアのレーザーブレードがリド・ゲイドの両腕のレーザーキャノンを切り飛ばした。
「くっ…!」
バランスを失い後退するリド・ゲイド。
その装甲を、オービットのビームが焼いた。
「ここで…死にはしません!」
リド・ゲイドがOBを発動する。
そのまま一気に戦闘領域を離脱した。
「逃げたか…深追いはするな。それより、いったん全員撤退するぞ!」
ガルドが叫んだ。
すでに戦える状態ではない。完全体なのはインフィニティアだけだし、ユーミル1人で戦ってもどうしようもないだろう。
「よし、全機撤退!急げ!」
エルスティア王都は騒然としていた。
既に市民にも状況が伝わっており、避難を始める人々も多かった。
だが、全ての人の避難は間に合わないだろうし、避難したとしても王都が崩壊した状態でその後どうやって暮らしていくというのだろう?
前途は限りなく暗かった。
負傷者を収容している部屋では、その空気が特に深刻だった。
負傷者といっても、ほとんどの犠牲者は死亡している。怪我だけですんだのはグリュック、その他は数名だけだった。
「これで、もうレイヴンは続けられねえか…」
右腕のないグリュックが、そう言って苦笑した。
その周りを、3人の男女が取り囲んでいる。
雑賀、リール、ドルーヴァだ。
「…どうするつもりだい、これから」
「そうだな…お前みたいに、骨のある奴でも鍛えてレイヴンにしてやるってのもありだな」
グリュックは冗談でそう言った。
しかしそれは現実のものとなる事になる。
それを彼が知るのは、もう少し先の事だ。
「こりゃあ…みっちり奴を仕込んでやんないとね…」
雑賀も苦笑いしながら言う。
「アビゴルが、進路を変えた?」
その報告が入ったのは、あと1時間でエルスティア王都にアビゴルが到達するという時間の事だった。
「ああ、少しだけだがな。ぎりぎりエルスティア王都はそれるかもしれない」
「しかし、どうして急に?」
足早に会議室に向かいながら、話しているのはガルドとビリーだ。
「僕もそう思って、アビゴルの進路の先にあるものを確認してみた…何があったと思う?」
ビリーの問いに、ガルドは一瞬考え込み…
「ゲートか!」
その答えに行き当たった。
「ああ。奴はどうやら、僕達の世界を襲うつもりらしい」
「ちっ…面倒な事になったな…」
「そうでもないぞ。状況を打開する事ができるかもしれない」
「なんだと?」
そうガルドが聞き返した所で、会議室に到着した。
そこには既にアルマ、ルーク、イルム、ユーミル、国王がいた。
「来たな。ではビリー君、説明してくれ」
国王が正面の椅子に腰掛け、重々しく促した。
「はい。アビゴルはゲートを目指しています。彼の情報によると…そのゲートの繋がっているのは僕達の世界の北極だそうだ」
ビリーがアルマをちらと見る。アルマはそ知らぬ表情だ。
「ゲートについては色々聞いたけど、ゲートは発生装置無くしては維持できない。もしゲート発生装置が破壊された場合、集まっていたエネルギーは発生装置がなくなったことによりワームホールを確立できなくなり、わずかの間十倍近い大きさに膨れ上がった後に、徐々に消滅していく…だったね」
一同がうなづく。ただ1人ユーミルだけは話についていけないらしく、既に聞いていない。
「アビゴルの巨体はどう考えてもゲートを通らない。アビゴルがゲートを通るなら、発生装置を破壊すると思う。実際にゲートを通ってみて分かったんだけど、ゲートは抜けるまでにやや時間がかかる。そこで…アビゴルがゲートを通る前に僕達が向こうの世界に戻り、あっちのゲート発生装置を破壊する。そうすれば、奴は戻る事も出来ず進むことも出来ず、ワームホールの中に閉じ込められるはずだ」
それがビリーの作戦だった。
「なるほど。確かにそれならば倒す事は出来なくとも、確実に奴を封じ込める事はできる」
アルマも賛成の意を示す。
「問題は、あちら側で絶対にアビゴルをゲートが閉じるまで阻止する事だが…」
「少々難しいですね。ほとんどの機体はかなり損傷しています。修理している時間もないのでは?」
ルークの言葉を、イルムが途中で引き継いだ。
「無傷の機体は…ユーミルのインフィニティアだけだが…」
「あ、はいちゃんと聞いてるからねっ!」
いきなり声をあげるユーミル。ガルドに自分を呼ばれたとでも思ったのか?
逆に聞いていなかった事がモロバレである。
「まあ、ユーミルにゲートうんぬんを理解しろとは言わねえが…」
ガルドは既に慣れているのか、まったく気にしない。
「とにかく、時間が無い。あちらに戻る者は、早急に準備をした方が良かろう」
国王がそう言って立ち上がった。
「俺たちは町を守る。じゃあなガルド」
「それでは、これにて…皆様の御武運を」
ルークとイルムもそう言って、会議室から出て行く。
「ああ…縁があったらまた会おうぜ」
ガルドは静かにそれを見送った。
「私は傭兵達に伝えてこよう」
アルマも立ち上がった。
「じゃあ、俺と陛下は話があるんで、ちと行くかな」
ガルドも立ち上がり、国王と共に出て行った。
会議室に残ったのは、ユーミルとビリーだけになった。
「………」
「………」
沈黙が続く。
今回の作戦ではどうしてもユーミルに頼る事になる。
ベーゼンドルファもヴェルフェラプターもエルディバイラスも中破している。無傷のインフィニティアが主力になる事は間違いない。
「ユーミル…言っておきたいことがある」
「なに?」
ユーミルもビリーの真剣な表情を見て、精一杯の真面目な顔になる。
「やはり、最後には君に頼る事になってしまったけど…それでも、僕は君を守ってみせるから…安心していてくれ」
「……えと…どゆこと?」
ユーミルはビリーが何を言いたいのか、よく分からないようだ。
「つまり…」
「もしかしてビリー怖いの?だいじょーぶだって!」
「……」
ユーミルはそう言ってすたすたと会議室を出て行こうとする。
「あ、ユーミル…」
ビリーが呼び止めようとすると、ユーミルはびしっとビリーに人差し指を向けて言い放った。
「ほら、何やってるの!帰る支度しないとダメでしょ!」
帰る支度。
ユーミルの家はここエルスティアではないのだ。
ユーミルの帰るべき場所は、あそこだ。
「そうだな…帰るんだな」
ビリーは苦笑した。
そうだ、ユーミルは死ぬ気なんてない。
ならば大丈夫だ。彼女は強いから。
ユーミルがビリーを引っ張る。
「ほら、何悟ってるの!そんな風に悟るのって年寄りだぞ!」
そしてそのまま引きずっていった。
後書き 第23話「破滅と崩壊の足音」
ユーミルとビリーの仲が進展しませんね…(他人事)
状況はやっと光が見えてきた感じですね。
さて、第1部も残り1話になりました。
最後にユーミルを、ビリーを、ガルドを、そして忘れられているリットを待ち受ける運命は!?