結局帰還するのはユーミル、ガルド、ビリー、リット、アルマ、雑賀、グリュック、リール、ドルーヴァの9人だ。
その中で戦力になりそうなのは、ユーミルくらいだ。
ほかは結局ほとんど修理できていない。
アルマゲイツの傭兵達は、向こうに戻り次第即刻撤退することになっている。
そして今一同は、ゲートにいた。
既にアビゴルの姿はここから目視できるほど近づいている。
リールのハーディ・ハーディとドルーヴァのマッドドッグがゲートをくぐっていった。
機体を失ったグリュックは雑賀の哭死に同乗している。
哭死もゲートをくぐった。
「……」
ユーミルは静かに、エルスティアの町を見ていた。
アビゴルの接近に逃げまどう人々。
アビゴルはギリギリエルスティアをかすめる。
ユラシルが…彼女の母が護ろうとした町は無事だ。
「行くぞ、ユーミル」
アルマが優しい声で言った。
「うん」
うなづいてから、ふと思う。
自分は前にこの人に会っていなかったか?
(わたしは…この人を知っている…でも、誰だったかな…)
第24話 「ユーミルの涙」
目の前に広がる白い大地。
ユーミル達は北極にいた。
雑賀やグリュックたちは既に撤退したようだ。
残っているのは、ユーミル、ビリー、ガルド、リット、アルマのみ。
「ここが最終防衛線だ。都市の密集したこちらの世界にアビゴルを出せばとんでもない事になるからな」
アルマがそう言って、ゲート発生装置に機体を向けた。
「まずはあれを破壊する」
「おっけー!」
インフィニティアが肩のバスターキャノンをゲート発生装置に叩き込む。
ゲート発生装置は一瞬で爆発、破壊された。
それと同時に、固定されていたゲートのエネルギーが一気に広がる。丁度アビゴルの大きさほどまで広がったゲートは次第に小さくなり始めた。
だが次の瞬間。
ゲートの向こうから、ゆっくりとだが確実にアビゴルの巨体が姿を現し始めていた。
「来やがったか…」
ベーゼンドルファが戦闘体勢に入る。
ヴェルフェラプターも両肩のレーザーキャノンを構えた。
インフィニティアが飛翔する。
アビゴルの頭部めがけてポジトロンライフルを連射した。その攻撃を受けて、アビゴルから無数に小型ディソーダーが出現する。
しかしガルド、アルマ、ビリーによって、ほとんどの小型ディソーダーは出てきた直後に破壊されていた。
リットはGT−ファイターで空中からミサイルを浴びせて小型ディソーダーを撃破している。
アビゴルはインフィニティアの攻撃を受けても、速度を落とす事はなくゆっくりとだが確実に進んでいる。
「……そこっ!」
インフィニティアのポジトロンライフルが4発の光弾を吐き出した。それは狙いたがわずに、アビゴルの下腹部にある4つの穴にそれぞれ直撃、爆発する。
すると小型ディソーダーの出現が止まった。
小型ディソーダーの排出口を破壊したのだ。
考えてみればアビゴルには頭部のビーム以外にはさしたる武器はない。ゆえに小型ディソーダーがその護衛を担当しているのだ。
これでアビゴルの武器は頭部のビームだけになったわけだ。
アビゴルはすかさず、残った唯一にして最大の武器を放つべく、頭部にエネルギーを収束させ始めた。
だが、それもユーミルの前では遅かった。
空中から放たれたバスターキャノンがエネルギーの収束した頭部に炸裂、そのまま吹き飛ばしてしまった。
「やった!?」
ビリーも思わずそう思ったが、さすがにそれは甘かった。
頭部を破壊されても、アビゴルはなおも前進を止めない。
「こいつにもう武器はない…脚部に攻撃を集中しろ!」
アルマがそう言ってエルディバイラスのブレードでアビゴルの前足を攻撃する。ガルドとビリーもそれに倣った。
それにユーミル、リットも加わる。
5人の集中攻撃を受けて、遂にアビゴルの前足が破壊された。
その重みを支えきれなかったアビゴルは遂に動きを止める。
「なんだよ…別にゲートに封印しなくても倒せるじゃねえか」
ガルドが拍子抜けしたように呟いた。
だが…
「アビゴル内部に膨大な熱量…上昇中?どういうことだ…」
ビリーがアビゴル内部の異変を観測していた。
アビゴルの内部に膨大な熱量が発生し、どんどん膨張しているのだ。
「まさか自爆か?」
アルマの言葉は正しかった。
動かなくなったアビゴルの体色が次第に赤くなっていく。周りの氷も溶け始めた。
「自爆だあ!?往生際悪い野郎だぜ!」
ガルドが毒づく。
アビゴルの巨体は、3分の1ほどがゲートからはみ出していた。
「正確な爆発の規模はわからないが…もしもこの熱量だとしたら、3分の1でも北極の氷がほとんど溶ける…当然僕達も助からないな」
ビリーがヴェルフェラプターをアビゴルに接近させた。右手のレーザーライフルを捨て、両手をアビゴルに押し付ける。
「どうする気だ!」
「押すんだよ!」
ガルドの問いに、こともなげに答えるビリー。
「馬鹿かてめえ、無茶に決まってんだろうが!」
「北極の氷が溶ければ海水面が上昇し、大半の都市は海に沈むぞ!」
「そりゃそうだが…こんなデカブツをどうやって押すんだよ!」
そうガルドが言っている間に、ユーミルのインフィニティアがアビゴルに取り付いた。そしてそのまま押し始める。
「こいつが爆発したらやばいんでしょ!だったら押すしかないじゃない!」
そしてエルディバイラスもインフィニティアの横に並んだ。
「ふむ、しかし無理はするな。ぎりぎりになったら逃げるんだ。いいね?」
アルマが優しくそう言う。
「おっけー、その前に押し返すよ!」
インフィニティアが力を込めた。
すると、わずかにアビゴルが動く。
「動いた!」
「よし、そのまま押し返すぞ!」
ガルドも、仕方なくベーゼンドルファを3機の横に並べた。
「仕方ねえな…ユーミル、ビリー、危なくなったら逃げろよ!」
リットにはできることはない…いや。
「姉ちゃん!」
アルマゲイツの部隊がここに残していったのか、乗り捨ててあったダイスに乗り込みリットもアビゴルに取り付いた。
「ダイスじゃほとんど何の役にも立たないけど、なんもしないよりはましだろっ!?」
得意げに言うリット。
5機のACが必死にアビゴルを押していた。
アビゴルは少しずつだが、確実にゲートの中に押されている。ゲートも段々縮んできた。
しかし、アビゴルの温度も既に4千度を越えている。爆発するのは時間の問題だった。
「駄目だ、間に合わない!」
ビリーが悔しそうに叫ぶ。あと3分も全力で押せば完全にゲートの中に押し込めることは出来そうだった。
しかし、アビゴルは既に所々が内部から溢れ出すエネルギーに絶えられずに崩壊し始めている。
「もう充分だ。やるだけの事はやった…撤退するぞ!」
アルマが言った。
ビリー、ガルド、リットにも分かっていた。今撤退しないと、確実に爆発に巻き込まれて死んでしまう。いや、もう手遅れかもしれない。
「でも、このまま放って置いたら爆発するんでしょ!?町がたくさん沈んじゃうんでしょ!?」
ユーミルは納得しなかった。
むしろ、どうせ間に合わないのなら最後まで頑張って、少しでも被害を少なくするべきだと思った。
「ユーミル…諦めなさい」
アルマが静かに、言い聞かせるようにそう言った。
ユーミルは言い返そうと口を開いた。
「っ……!」
だが、何故だか言葉が出てこない。
何故、自分は言い返せないのだろう。
この人とはやはりずっと前に、どこか出会っている。
でも、どこで?
ビリー、ガルド、アルマ、リットがアビゴルから離れていく。
「さあ、ユーミル」
アルマがもう一度言うと、ユーミルもしぶしぶアビゴルから離れた。
「全機OB起動して離れるぞ!」
ガルドが叫び、OBを起動する。
ユーミル、リット、ビリーもOBを起動した。
しかし、アルマは起動しなかった。
「アルマ…?」
「え……どうしたの!?」
ビリーとリットは既にOBが発動し、一気にアビゴルとの距離が広がった。
ガルドとユーミルもそのままOBが発動し、一気に離れていく。
「私はここで最後まで被害を最小限に食い止める。行け!」
「なんで!?」
遠ざかりながら叫ぶユーミル。慌ててOBを解除するも、既にかなり距離は離れている。
ガルドもOBを解除し、叫んだ。
「馬鹿野郎!何のマネだ!」
「私は既に一度死んだ身。構う事はない。生者には生者のすることがあるはずだ」
そう言ってアルマは再びアビゴルを押し始めた。
「……」
ガルドはそれを聞いて、アルマの意志を悟った。
アルマはもう一度死んでいる。今の彼は死人だ。
既に死んでいるのだ、生に執着があろう筈もない。
ユーミルはすぐに戻ろうとしたが、インフィニティアを後ろから押さえている者があった。
ガルドのベーゼンドルファだ。
「ガルド!?放して!放してってば!」
「行くぞ、ユーミル!あいつの言うとおりにするんだ!」
インフィニティアのパワーはベーゼンドルファをはるかに上回る。だが、それなのにインフィニティアはベーゼンドルファに捕まれ動けなかった。
「ガルド、ユーミルを頼むぞ!行け、2人とも!」
アルマが再び叫ぶ。
それを聞いたユーミルの中で、遂に記憶のもやが晴れた…
幼い自分。
周りにいるのは、母…ユラシルと、ガルド。
そして…
「ガルド、ユーミルを頼むぞ」
そう言って出かけていく人物。
「いってらっしゃい、あなた」
ユラシルがそう声をかけ…
「いってらっしゃい、おとうさん」
そうだ。
この人は自分のお父さん。
逆光で顔が良く見えない…
「ああ、気をつけろよアルマ」
ガルドが言った。
アルマ?
次の瞬間その人の顔がはっきりと見えた。
お父さんの顔。
それは、アルマだった。
「行かないで!!」
自然に涙がこぼれていた。
ユーミルは必死に叫んでいた。
エルディバイラスはアビゴルを押している。
返事はない。
ビリーとリットも戻ってくる。
「帰ってきて!」
アルマはその日以来帰ってこなかった。
そして母ユラシルも死んだ。
一気に両親を失い、悲しみに暮れるユーミルを見るに耐えかねたガルドが、時が来るまで彼女の記憶を封印したのだ。
「何をしているんだ!そこでは、爆発に巻き込まれるぞ!」
アルマが叫ぶ。
「ユーミル!」
ガルドがインフィニティアを引っ張ろうとするが、さすがにそこまではできなかった。
「わたし…まだおかえりって言ってないよぉ…だから、帰ってきてよっ…!!」
泣きじゃくりながら、幼女のように叫ぶユーミル。
「ユーミル、私はもう死んだ身だ。君たち生きているものとは違う!」
「そんな事関係ないよ!」
それでもアルマはアビゴルから離れない。
「既にかなり因果律を捻じ曲げているからな。これ以上は、どのみちもう無理なのだよ…次元の崩壊に関わる。わかってくれ、ユーミル」
「いんがりつだとかなんとか…わけわかんないよっ…」
遂にユーミルはガルドを振りほどいた。
「お父さんっ!!」
エルディバイラスの動きが、一瞬止まったように見えた。
そして次の瞬間、視界は真っ白になった。
インフィニティアの防壁により、ビリー、ガルド、リットは助かった。
だがその代償は大きかった…
「ユーミルのおかげで助かったか…」
わずかに残された白い大地。
4機のACが佇んでいた。
ユーミルだけが。何故か降りてこない。
ガルドとビリーがインフィニティアのコクピットに向かう。
「あー、開いたあ。くすくす、明るいなあ」
最初に聞こえてきたのはその声だった。
「ユーミル?」
ビリーが訝しげにユーミルの顔を覗き込む。
だが、ユーミルはそれを無視して眼下に広がる北極の地を見下ろし、
「うわあ、真っ白。ねえねえ、これ全部雪なのぉ?それとも氷?」
と、無垢な表情で尋ねてくるのだった。
言葉をなくすビリーとガルド。
「姉ちゃん、また悪ふざけしてるのかよ?」
リットもユーミルの顔を覗き込む。
ユーミルはやっと3人に気付いたかのように、彼らを見回した。
「ねえねえ、何してるの?」
まるで幼女のような笑み。
「……姉ちゃん……?」
リットも二の句が告げずにいる。
ユーミルは彼らを見回し、くすくすと無垢な笑いを返すだけだった…
結局北極の氷のかなりの部分が溶け、全世界で海水面が上昇。
後に「ノアの日」と呼ばれるこの大洪水で、地表の40%が海の中に沈み、人類の50%が死滅した……
以来人々はその居住地を「海上都市」に移していくこととなる…
ビリー達はその後姿を消した。
彼等が再び歴史の表舞台に登場するのは、4年の月日が経ってからの事である…
後書き 第24話「ユーミルの涙」
やっと!なんとか!第1部が終了しました!
読み終わって分かると思いますが、全然終わってません(爆)
しかもなんか暗い結末です。
第2部からはいよいよ皆様のキャラが本格登場します。
そして話もさらにパワーアップを目指したいと思いますね。
では、スペシャルサンクス行きましょう。
これもひとえに読んで下さる皆さんの応援があってこそですからね。
この小説を発表する場を快く設けてくださったラストマシンさんやYukさん。
キャラクターを送ってくださったZさんやTO−RUさんやYukさん。
そして読んで下さった方々、ありがとうございました!
また第2部でお会いしましょう!