ルミナス・レイがレーザーブレードを振るう。
 最後のMTが爆炎を上げ、消滅した。
 4体のダイスと20体のMTが、ルミナス・レイ一機のために全滅した瞬間である。
 「敵全滅。機体損傷率5%。任務続行に支障なし…」
 コクピットの刃が、そうどこかに報告していた。
 「任務了解。目標変更、これより敵部隊を陽動する」
 ルミナス・レイはOBを起動し、姿を消した。



 第3話「さらば、故郷よ」



 時同じくして、トンネル出口。
 希望の駆るACインフィバスターは、ようやくランデブーポイントである港へと到着していた。だが、翔一はまだ追いついてこない。
 「……遅い……やっぱり遅刻だわ…」
 嘆息する希望。
 日常の台詞とあまり変わっていない。
 「ったくもう……巫護君は来ないし、刃君も来ないし、迎えとかいう潜水艦も影も形も見えないし…どうなってるのよー」
 愚痴ってみる。
 当然ながら反応はどこからも帰ってこない。
 レーダーを見るが、何の反応も無い。
 ふと思う。
 (そういえば、寮のおばさんとかどうしてるだろうか。心配…してるわね。たぶん。今まで7時までに帰らない事なんて無かったもの。遅い時も生徒会の用事だっただけで…)
 そんなことをとりとめもなく考えていた。
 その時だった。
 レーダーに反応。数は20以上だ。
 まるで希望を取り囲むように、こちらに向かってくる。
 「敵!?」
 希望がそれに気づいた時には、既に敵の一部が目視出来る位置まで近づいてきていた。
 無人MTだ。
 飛行型の無人MTがインフィバスターを包囲する。だが、攻撃はしてこない。
 「か、囲まれたの…!?」
 希望は迷った。
 戦うべきか、逃げるべきか。
 だが逃げ道は無いし、戦う気もしない。
 自分ひとりでACを操縦して敵を倒すなんてできる訳が無い。
 だがその時、新たな反応が現れた。
 大きい。ACではない。
 海のほうだ。
 水しぶきとともに海が割れ、巨大な影が一瞬見えたかと思うと、それはゆっくりとその姿を現した。
 巨大な潜水艦。
 


 「インフィバスターが敵に囲まれています」
 オペレーターのミリアが淡々と状況を報告する。
 艦長であるビリーは即座に告げた。
 「総員、第1種戦闘配備!AC部隊、準備が整い次第順次出撃、インフィバスターを護衛しろ!」
 「了解、総員第1種戦闘配備」
 艦内に警報が鳴り響く。
 一方ガレージでは、既にほとんどのACが出撃準備を整えていた。
 一人の中年の男が全体を指揮している。その表情は歴戦の戦士のそれだ。
 メギドアークのAC部隊隊長、ガルドである。
 「敵は今の所MTだけだが、気合入れていけ!今ブレンフィールドには十三使徒の一人、シスター・ヘレナがいる事が確認されてるからな!もしかしたら出てくるかも知れねえぞ!」
 「了解です!トラウマ、哭死行きます!」
 先陣を切って飛び出していったのは、温厚そうな童顔の青年だ。
 そのACは黒を基調とした、所々に入った青が映える機体・・・雑賀が乗っていた哭死だった。
 乗っているのはあの時の青年。
 一気にメギドアークのACガレージから射出され、陸地へと降り立つ。
 MTはそれに気付くと、一斉にガトリングを哭死に浴びせ掛けてくる。トラウマは機体を左右に滑らせほとんどを回避した。
 「無人MTなんかで…調子に乗るなよっ!!」
 ライフルが火を吹く。MTが1機、2機と落ちた。
 そのまま後退し、障害物の影に隠れながらライフルで攻撃を続ける。インフィバスターからMTを引き離すのである。
 それに続いて、2機目のACが飛び出してきた。
 「レイス、ギルティブレードもう出たっすよ!」
 全体的に黒く塗装され、所々に赤が入った機体。
 ACギルティブレード。
 ハンドガンに、ダガーと呼ばれるブレード。中型ミサイルにレーダー。
 乗っているのは20代半ばの黒い長髪の、長身の男だ。何やら今の軽い台詞とのギャップがあるが、それは謎である。
 哭死同様射出され、一気に陸地に降り立ったかと思えば次の瞬間にはもう周りのMTを2機、ブレードで撃墜している。
 かなりの白兵戦能力だ。
 無人MTは突如現れた2機のACを脅威と認識したのか、全機がインフィバスターから離れ哭死とギルティブレードのほうに向かっていく。
 「いいか、エナ。敵は無人MTだ、練習と思ってやれ!」
 「はい、コーチ!」
 隻腕のグリュックが声をかけているのは、今射出されようとしているACに乗っている少女だった。
 レモン色でショートボブの髪、緑色の瞳・・・
 エナ・コーナー。4年前に孤児院で、レイヴンになるとリットに話していたあの少女である。
 黒いパイロットスーツを着込み、ACに乗っているところを見て、本当にレイヴンになったらしい。
 乗っているACは薄いピンク色の中量2脚ACである。ハンドガンにガトリングガン、そしてシールド。
 グリュックス・ゲッティンの機体構成に似ている。どうやら彼女にACの操縦を教えたのはグリュックのようだ。
 「エナ・コーナー、シュメッターリング、行きます!」
 エナも先の2機同様、射出され一気に陸地に降り立った。
 先に出た2機に気をとられている無人MTに横からガトリングの砲撃を放った。その攻撃で次々にMTが炎を上げて墜落する。
 希望はその光景を見ているだけしか出来なかった。
 「これが迎えなのかしら…」
 多分そうだろう。現にこちらには全く攻撃を仕掛けてこない。
 そうしているあいだに、翔一も姿を現した。
 「これがACの戦いか…」
 ラー・ミリオンはかなり損傷している。シスター・ヘレナにやられた傷だ。
 「巫護君?よかった、やっと来たのね…」
 ほっとした声で、希望が言った。
 「ああ…あのシスター・ヘレナって奴が出てきて…」
 「そういえば、結構壊れてるわね。でもよかったわ、無事で」
 希望がにこりと笑って言った。偽りの無い本心だ。
 自分達は全く別の世界に入ってしまったのだ。
 この状況で心を許せるのは翔一くらいしかいない。
 「ああ…」
 翔一は浮かない表情だった。
 無理も無い、何しろ圧倒的な機体の性能差があったにも関わらず手も足も出なかったのだから。
 そうこうしている間に、MTは既に全滅していた。
 潜水艦から、もう1機ACが現れる。
 赤いACだ。
 右腕に肩武装のはずのガトリングガンを、肩にはグレネードランチャーとマルチミサイルを装備しているAC。
 ガルドのケイオス・マルスだった。
 「よう、お前が刃の言ってた巫女か?」
 希望と翔一に通信が入る。ケイオス・マルスからだ。
 「そうだけど…」
 知っている名前が出たので、すこし安心した希望が答えた。
 「まあ、そいつに乗ってるってことはそうなんだろうがな。取り合えず、今メギドアークを岸につける。乗り移ってくれ」
 「俺たちの敵じゃないんだろうな…?」
 翔一が警戒するように、そう尋ねた。
 「まあな。だが、詳しい話は後だ。急いだほうがいい」
 その言葉とともに、レーダーに新たな反応が現れた。
 今度は数が多い。50体はいる。
 「おいでなすったぜ。今度は多分ACも混じってるな。お前ら2人はメギドアークに隠れてろ!」
 そう言ってガルドは敵の反応のほうへと向き直った。
 「俺がトップを取る!レイスはライト、トラウマはレフトだ!エナはバックから援護射撃してくれ!」
 『了解!』
 ガルドが指示を出し終えると同時に、敵がその姿を現した。
 無人MT30機、ダイス9機。そして、見慣れないACが1機。
 4脚重装AC。カラーリングは純白だ。
 「あいつ、まさか…」
 翔一の予感は正しかった。
 「やはり、巫女を保護する為に現れましたね…オーフェンズの皆さん」
 そのACから聞こえてきた声は、シスター・ヘレナのものだった。
 「十三使徒のシスター・ヘレナっすか!?こりゃまた物騒な奴が出てきたもんだね」
 レイスが相変わらず軽い調子だったが、幾分緊張を含んだ声で言った。
 「奴が出てきたか…しかもご丁寧に、ラジエルに乗ってやがる」
 ガルドの表情にも焦りが見えた。
 「……委員長、潜水艦の中に入ってろ」
 「え?って、どうする気?」
 翔一は周りの雰囲気を見て、希望にそう言うと敵に向き直った。
 「おい、俺も戦うぞ」
 ガルドにそう告げる。
 「ああ?素人が何言ってやがる。いいから隠れてろ」
 「戦力が欲しいんだろ?」
 ガルドが馬鹿にしたように言うが、翔一は引き下がらなかった。
 「……まあいい。だが、奴にだけは向かっていくなよ」
 ガルドはあっさりと妥協した。翔一の言っていることが事実だったからだ。
 翔一は何故自分がそんなことを言ったのか分からなかった。
 だが、考えるより先にそう言っていたのだ。
 そう。
 希望を守る。
 そのためにはここで負けるわけには行かない。
 「心配しなくても、そんな気無いよ」
 翔一はあっさりとうなづいた。
 先程シスター・ヘレナに完全に敗北したばかりである。
 今度は、敵も新型に乗っている。逆立ちしても勝てそうに無かった。
 「お前、名前は?」
 ガルドが尋ねてくる。
 「翔一だ。巫護翔一」
 「そうか。俺はガルド。まあ、自己紹介は後にしようぜ」
 名乗った後で言うことではないだろう。
 「ちょっと!巫護君も戦うの!?」
 希望が後ろで翔一を止めようと、インフィバスターをラー・ミリオンの横に歩かせてきた。
 「委員長は中に入っててくれ」
 「何言ってるのよ!巫護君の機体、もうだいぶ壊れてるでしょ!?」
 確かにそうだった。
 先程の戦いのせいだ。
 「いいから入ってろ!今は、やらなきゃいけないときなんだよ!」
 希望が押し黙った。
 「………わかったわよ」
 ややあって、希望が口を開く。
 「そのかわり!私も戦うわよ!」
 「馬鹿、何言ってるんだよ!それじゃ意味ないじゃんか!」
 「意味無いって何よ!私だって、やるときはやるわよ!」
 「だから!委員長は安全な場所にいろよ!」
 「2人とも、痴話喧嘩はそこまでっすよ!敵がくるっス!」
 レイスが2人の間に入った。
 「ちょっと、痴話喧嘩って…」
 「委員長、話は後だ!こうなったら仕方ない、行くぞ!」
 「……わかればいいのよ!」
 敵の先陣は無人MTだった。
 トラウマの哭死とレイスのギルティブレードがブレードでそれらを撃破していく。
 ラー・ミリオンもレーザーライフルでMTを撃ち落す。
 インフィバスターもガトリングでMTを落としていった。
 すると撃破されたMTの隙間から、次々とダイスが突っ込んでくる。
 ダイスが一斉にマシンガンを放つ。
 敵のダイスは9機、こちらのACは6機。ガルドはシスター・ヘレナに向かったため、戦力差は9対5だ。
 「性能と腕前はこっちのほうが上だ!1機ずつ確実に減らせ!」
 通信が入る。メギドアークのグリュックだ。
 「了解!」
 「了解です!」
 「了解っス!」
 トラウマ、エナ、レイスが応じる。
 「りょ、了解!」
 「は、はいっ!」
 一瞬遅れて、翔一と希望。
 だが、
 「お前たちは残存MTの殲滅を頼む」
 と、グリュックが2人に言った。
 「な、なんでだよ!?」
 翔一が異議を唱えるが、それに対するグリュックの返答ははっきりしていた。
 「お前たちはまだ人を殺した事が無いだろう。MTは無人だ。ダイスは有人、なら担当は決まっただろう」
 翔一は言葉に詰まった。
 そうなのだ。
 これはシュミレーションではない、実戦なのだ。
 当然ながら敵ACの中には人が乗っている。
 もちろん翔一は人を殺した事など無い。
 そして・・・自分以上に、希望はどうだ?
 今日始めてACに乗った少女が人殺しをできるわけが無い。
 「…わかった。残存MTを殲滅する」
 翔一はグリュックの言葉に従うことにした。
 慣れればコクピットを狙わずにACだけを倒す事もできるのだろうが、それでも確実ではないだろう。
 そうしている間にも、トラウマとレイスの挟み撃ちを喰らい1機のダイスが早くも撃破された。
 エナがガトリングを連射する。
 1機のダイスが直撃を受け、火花を散らした。
 シュメッターリングにデュアルロケットを放とうとするが、その時には既にトラウマの哭死が背後に回っていた。
 黒い死神の放つブレードが、そのダイスを両断する。
 「2機目!さあ、次はどいつだ!」
 トラウマが叫ぶ。
 レイスのギルティブレードが、トラウマに2機がかりで向かおうとしたダイスのうち1機をOBからのブレード攻撃で、一刀の元に切り捨てた。
 「こっちを忘れてもらっちゃ…困るっスよ!」
 軽い口調だが、それとは裏腹に気迫を感じさせる雰囲気だ。
 その気迫に飲まれたのか、もう1機のダイスがブレードを振りかざしてギルティブレードに向かっていく。
 「格闘戦で俺に勝とうなんて甘いんだよ!」
 一閃。
 ダイスのブレードのほうがレンジは長かったにも関わらず、機体を両断されて爆炎を上げたのはダイスのほうだった。
 



 その頃ガルドのケイオス・マルスはシスター・ヘレナのラジエルと戦っていた。
 ラジエルの武装はグレネードライフル、レーザーブレード、そしてツインレーザーキャノンである。大振りな武装ばかりで、扱いにくそうに見えるのだが・・・
 ケイオス・マルスが先手を打って空中から肩のグレネードランチャーを展開、発射した。
 ラジエルはグレネードライフルを撃ち、相殺する。爆風で空中にいたケイオス・マルスがバランスを崩した。
 その機を逃さず、もう一発グレネードライフルを放つラジエル。
 ケイオス・マルスは空中でOBを起動し、横に高速起動して回避する。
 「ちっ、さすがは十三使徒か…だが、こっちだって円卓の騎士なんだよ!」
 そのままジグザグ移動でラジエルに突っ込んでいく。
 ブレードで攻撃するつもりなのだろうが、白兵戦は機体高の低い4脚のラジエルのほうが有利だ。
 しかも、腕前に差があるわけではないのだ。
 「血迷いましたか?」
 ヘレナがやんわりと、そう言うがガルドは無視した。
 一気に肉迫し、ブレードを振る!だがまだ間合いの外だ。
 ブレードから光がほとばしる。
 ブレード光波。
 プラスの力を持つ者・・・通常は強化人間しか使用できない能力の一つである。
 だが、強化されていないにも関わらずプラスの力を持つ者がいた。
 ガルドなどの円卓の騎士、ヘレナなどの十三使徒、そして巫女。
 2脚タイプで構えずにキャノンを撃つ事ができるのもそのせいである。
 ブレード光波は一直線にラジエルに向かう。よけられる間合いではない、しかしラジエルはブレードを振り、自らも光波を放ってそれを相殺した。
 「もらったぜ!」
 ガルドが突っ込んだ。
 光波を打てば、少しの間・・・1秒強ブレードが使用不可能になる。ブレードを振るえば隙ができるからだ。その時間で充分だった。
 もっとも、ブレードが使えないのはこちらも同じである。だが、ブレード以外の武装は、こちらは3つ、敵は2つ。
 ラジエルがグレネードライフルを撃つ前に、ガルドは右腕のガトリングガンでラジエルのグレネードライフルを破壊した。
 残る武器はツインレーザーキャノンだが未だ未展開、プラスの能力があっても展開してないものを撃つ事は出来ない。
 すでにブレードの隙は消えようとしていたが、さきにブレードが使えるようになるのは先に使ったこちらのほうである。
 ガルドがコア目掛けてブレードを振るった。
 だが!
 一瞬ラジエルを光の幕が包み、ブレードが押し返される。
 「何っ!?」
 驚愕するガルド。
 何が起こったのか理解できなかった。
 確かにブレードはコアに命中しているはずだった。だが、防がれた。
 まるでシールドに止められたかのように…
 ラジエルの反撃が来る。
 鋭いレーザーブレードのつきの一撃が、ケイオス・マルスの左腕を貫き、そのまま引きちぎった。
 だが、ガルドが驚愕しながらもとっさに回避しなければ、そうなっていたのはケイオス・マルスのコアだっただろう。
 「まさか…」
 ガルドは今の謎の現象の正体に思い当たった。
 「驚かれたようですね…」
 ヘレナが、まるで子供に説明するかのような調子で言った。
 「今のはエクステンションのシールドです。左腕のシールドと違って、360度全包囲をカバーする事が可能…その分消費エネルギーが多いので、一瞬しか使えませんが」
 「わざわざご説明どうも…」
 そう毒づいてからガルドは気付いた。
 今のはエネルギー回復の為の時間稼ぎだ。
 だが、もう遅い。
 もうエネルギーは半分以上回復してしまっただろう。ブレードを失ったこちらが無理して攻めても、返り討ちにあうのが落ちだ。
 「攻めて来ない所を見ると、もう降参ですか?」
 「冗談じゃねぇ…まだこれからだぜ」
 ガルドは不敵に笑って見せた。



一方ダイスと無人MTはその数を大きく減らし、すでにダイスは3機、無人MTは5機しか残っていなかった。
 哭死から放たれた8連小型ミサイルがダイスを撃破する。残り2機。
 その時、敵の増援が現れた。
 無人MT20機、そしてACが1機。
 ステルスタイプのタンクACだ。
 シスター・ヘレナがそれを見て、穏やかに笑う。
 「おや、デコード。随分と遅かったですね」
 デコードと呼ばれた男はただ一言、
 「これより戦闘体勢に入る」
 とだけ答えた。
 年齢は30近くといったところだろうか。黒い長髪だが、レイスとは違って見た目は鬱陶しかった。サングラスをしていたが、トラウマの師匠であるあるレイヴンと違ってセンスは悪かった。
 かなり、見た目が悪役である。
 武装はパルスライフルとダガーしか装備していない。
 しかもタンクACである。かなり扱いにくそうな機体だ。
 「行くぞ、ダウナー…」
 ぼそりと呟き、デコードはトラウマ達の方へと向かってきた。
 「データ照合!ランカーレイヴン、デコードです!ランキングは10位!」
 エナが皆にそう告げた。
 ランカーレイヴンとは、アリーナと呼ばれるACの闘技場でランクインしているレイヴンの事である。
 このアリーナとランキング制度はノアの日以前にもあったのだが、当時は企業の勢力はアルマゲイツが独走していた為にレイヴンの需要はさほどではなかったためにアリーナのレベルもあまり高くは無かったのだが、ノアの日以後企業間のバランスが崩れ、レイヴンの需要は急速に増加した。それに伴い、アリーナのレベルも急激に上昇したのである。
 つまり、ランキング10位ということは、かなりの強敵という事になる。
 ちなみにアリーナにはほとんどのレイヴンが参加しているが、オーフェンズのメンバーはアリーナには参加していない。もちろん十三使徒のメンバーや円卓騎士もしかりだ。
 つまりランカーレイヴン以外にも、強い奴はいるということだ。
 「ランカー、しかも10位か…エナには荷が重過ぎるな…」
 メギドアーク内のグリュックはそう呟いた。
 何しろ、彼女は本格的な実戦はこれが始めてなのだ。
 トラウマやレイスでも、1対1では勝つことは無理だろう。トラウマもまだ実戦経験は2年足らずだし、レイスも「レイヴンになって10年以上になる」と本人は言っているが、グリュックの見立てではどうやら3年程度だろう。
 翔一と希望は問題外だ。
 今この船にいるメンバーでデコードと戦えるのは、ガルドか刃か、艦長であるビリーだろう。
 こんなことなら、本拠地に残してきたメンバーも連れてくるんだったな。
 グリュックは後悔したが、考えても始まらない。
 ガルドはシスター・ヘレナと交戦中だ。しかも劣勢のようである。
 刃はいない。
 となると・・・
 「来たっス!」
 レイスの声。
 デコードのダウナーがパルスライフルでレイスを攻撃している。
 ギルティブレードを突っ込ませるレイス。
 グリュックは敵の目的に気付いた。
 「行くなレイス!誘いだ!」
 グリュックの見たところ、敵のメインスタイルは格闘戦。
 パルスライフルを受けつづけるのを嫌ったレイスが突っ込んでくるのを待っているのだ。
 だがレイスのギルティブレードは既に敵のブレードの間合いに飛び込んでいた。
 待っていたといわんばかりにブレードを突き上げるダウナー。
 「うわっと!」
 間一髪。
 レイスはブレードでその攻撃を受け止めていた。
 「……ほう」
 何の感慨も感じられない声で、デコードが呟く。
 「危なかったっス…」
 危機感から、距離を取るレイス。
 彼が白兵戦の天才でなければ、今ごろ命は無かっただろう。
 「……やはり、僕が出よう」
 ビリーが立ち上がる。
 だが、オペレーターのミリアがそれを遮った。
 「待って下さい。新たな反応を探知。あと20秒で戦域に到達します」
 あいも変わらず、淡々と状況だけを告げる。
 「データ照合。ルミナス・レイです」
 「刃か!」
 グリュックが安堵の声を上げる。
 これで戦局は逆転する。
 



 夜闇を切り裂き、純白の機体が宙を舞う。
 その姿は、希望や翔一にも見えた。
 「刃君?」
 「あいつか…」
 2人が同時に声を漏らす。
 「刃、そのタンクはランキング10位のデコードだ。任せる」
 グリュックがそれだけ言った。それで充分なのだ。
 「任務、了解」
 デコードもルミナス・レイに気付き、そちらに向き直る。
 「……奴が例の奴か…」
 そう呟き、パルスライフルを5発放った。
 刃はわずかな動きだけで、それを回避。
 そしてそのまま、ダウナーに突っ込んでいく。
 ダウナーは舌なめずりしてブレードを構えた。
 来た!
 純白の機体をブレードで完全に破壊する様を思い描き、ブレードを振るう。
 だが、次の瞬間デコードはその目を疑った。
 ルミナス・レイが慣性を無視した、ありえない動きをしたのだ。
 いきなりルミナス・レイの姿が右に消える。
 「何…?」
 次の瞬間、フィンガーマシンガンの強烈な洗礼を浴びせられ、ダウナーが火花を上げた。タンク型といってもブレードの威力を重視した設計である。装甲はそれほど高くはないのだ。
 翔一もルミナス・レイの異様な動きに驚いていた。
 結局洋司からルミナス・レイの隠された性能を聞くことは出来なかったが、今の動きで翔一はルミナス・レイの両肩に装着されたパーツが何であるか、気付いていた。
 フレキシブルハイパーブースター。
 360度に旋回可能な追加ブースターだ。
 それにより、従来のACでは考えられないような変化自在の機動力が生み出されるのだ。
 デコードももちろん黙ってやられてはいない。しかし、刃の動きはそれ以上だった。
 ブレードが振るわれ、ダウナーの左腕が切断される。
 ブレードを失ったダウナーは同時に戦闘能力もほとんど失った。
 「くっ……おのれ、こうもたやすく…貴様、何者だ…」
 「お前に知る権利はない」
 振るわれたブレードをなんとか回避し、デコードはOBを起動し離脱していった。
 「おのれ…」
 コクピットの中で、刃への恨みを募らせながら。



 「おや…あっけないですね…」
 ヘレナがその様子を見て、わずかに嘲りの調子を込めてそう言った。
 「へっ、これで残ったのはお前だけだな」
 ガルドが言う。
 増援のMTも、残っていたダイスも、既にトラウマやエナ、翔一と希望によって撃破されている。
 「仕方ありませんね…今日のところは、退かせてもらいましょう」
 さすがにこれだけの人数とは戦えないと思ったようだ。
 それに、メギドアークにはまだビリーもいるはずだ。
 いくら十三使徒といえどもビリー、ガルド、刃の3人を同時に敵に回せるわけがなかった。
 撤退していくラジエルを見ながら、ガルドはケイオス・マルスの状況を確認した。
 結構損傷が甚大だ。
 彼の真の乗機であるベーゼンドルファほどでないにせよ、ケイオス・マルスも充分高性能なACである。
 「ちっ、俺も歳かね…」
 若干寂しげに呟き、機体をメギドアークに向ける。
 「皆、ご苦労だった。これよりブレンフィールドから離脱する。各員、収容を急いでくれ」
 通信がそう継げた。ビリーだ。
 「それから、翔一君、希望君。ようこそ、オーフェンズへ。僕達は君達を歓迎する」
 ようこそ、オーフェンズへ。
 その言葉を聞きながら、翔一と希望は自分達が非日常の世界へと入り込んでしまったことをはっきりと自覚した。
 果たして、自分たちに平穏な日常は戻ってくるのだろうか?
 それはまだ、わからなかった。




 後書き 第3話「さらば、故郷よ」
 今回は戦闘シーンばかりです。しかも長い・・・
 さて、新キャラが一気に登場しました。
 エナ、デコードのキャラ案を送ってくださった友人YuK氏、トラウマのキャラ案を送ってくださったZさん、レイスのキャラ案を送ってくださったマルコさん(最近HN変わったんだったか?)、どうもありがとうございました。
 彼らはレギュラーキャラになっていくはずです。
 口調とかはもちろんサンプル口調とかも参考にしているのですが、若干書きやすいように変更しているところもあります。御了承くださいね(深々)
 なお、まだ登場していないキャラも、これからどんどん出てくると思います。一度にたくさん出すと、混乱したり1人1人の影が薄くなったりする恐れがあるので・・・
 次回は・・・海上戦・・・かな(笑)