第7話「漆黒の刺客、再び」
黒煙を上げる施設をバックに、ユーミルのインフィニティア・バスターとヴェルフのヴェルフェラプターが、対峙していた。
施設が破壊されてから現れた事からも分かるように、敵の狙いは施設の破壊を阻止する事ではないようだった。
つまり、敵の目的はただひとつ。
ユーミルを抹殺する事である。
「やっぱり出て来たわね〜!この前の修理代は、取り返させてもらうわよっ!」
ユーミルには緊張感は欠片も無いようだったが。
ヴェルフェラプターは静かに、ユーミルの出方を覗っている。
「これで、どうだっ!!」
ユーミルは右腕のグレネードライフルを放った。
ヴェルフは空中に飛び上がり、それをかわす。
パイロット、機体共に、かなりの反応速度だ。
上空からライフルを連射するヴェルフェラプター。
「そんなちゃちな攻撃、全然効かないわよ〜」
その攻撃をものともせず、チェーンガンを浴びせ掛ける。
「そこっ!」
連続発射される弾丸が、ヴェルフェラプターをとらえた。
しかし、大した効果は与えられていないようだ。ヴェルフもライフルでは効果がないと悟ったか、両肩の大口径エネルギーキャノンを向ける。
普通は構えないと撃てないキャノンタイプの武器を空中から撃ってくるという事は恐らく、強化人間なのだろう。
ユーミルも構えなしでキャノンタイプの武器を撃つことができるが、彼女は強化人間ではない。その理由は、ユーミル自身も知らないことだった。
エネルギーキャノンが放たれる。
一撃でサーチャーの脚部を吹き飛ばした、恐るべき兵器だ。
しかし、この前とは違った。
サーチャーより動きの遅いバスターで、ユーミルはその攻撃をかわしたのだ。
相手の驚きの『感情』がユーミルに伝わってくる。
「へっへ〜ん!そう簡単にわたしはやられないよ〜!」
『さすがだな、蒼のユーミル…』
唐突に声が響いた。
ヴェルフが、外部音声で喋ったのだ。
「なんだ、喋れたんだ。ちっとも喋んないんだもん。無口だね」
いつもと変わらない調子のユーミル。
ヴェルフの声を聞いて生きていたものは居ない、という事を知らないからでは、無いだろう。知っても、変わりはしないのがユーミルだ。
天然なだけだが。
「やられたくなかったら、おとなしくサーチャーの修理費払ってよね!」
そう言い放つユーミル。
答えは、返ってこない。
返って来たのは、エネルギーキャノンの一撃だった。
機体を横に滑らせ、回避するユーミル。
だが、ヴェルフの攻撃はそれで終わらなかった。
急降下し、バスターの横から斬撃を放つ。
今度はよけきれなかった。重装甲のバスターでも、ダメージを防ぎきれない。
「っ!このおっ!」
ユーミルも負けじとブレードを振るうが、相手は既に空中だ。
『どうした、所詮その程度なのか』
ヴェルフの嘲笑うかのような声が響き渡る。
「馬鹿にしないでよねっ!」
ユーミルが叫ぶ。その気迫が、ACの装甲を突き抜けてヴェルフにまで届いた。
『この力…パイロットとしても、侮れんようだな』
ヴェルフの言葉に、ユーミルが一瞬戸惑いを見せる。
「え?パイロットと…"しても"?」
『やはり貴様は消さねばならん!』
ヴェルフが再び空中から突っ込んでくる。
ユーミルも迎え撃つべく、ブレードを構えた。
しかし、互いに真の狙いは、斬撃ではなかった。
ヴェルフェラプターは、急降下し斬撃を浴びせると見せかけて、大口径エネルギーキャノンを放つ。
ユーミルは空中に舞い上がり、それをかわした。
そして、その下をヴェルフェラプターが通り抜けた瞬間、真下に向けてグレネードライフルを放つ!
『何っ!』
よけられるはずも無く、直撃を食らうヴェルフェラプター。
しかし、並みのACなら大ダメージを与えているはずの攻撃を受けても、ヴェルフェラプターの動きは鈍らなかった。
「直撃したはずなのに…まだ動けるなんて、しつこい…」
『調子に乗るな!』
ヴェルフェラプターがライフルを連射する。
「そんな攻撃、効かないもんねっ!」
『どうかな?』
次の瞬間、ブレードを装備した左腕が爆発した。
「うそっ!?何で?!何でよ!……不良品…?」
もちろん、そんな訳が無い。
ライフルを間接部分に集中させて、破壊したのだ。
全く同じ場所に連続でライフルを直撃させるとなると、かなりの技量が必要なはずだ。
それをやってのけるヴェルフの技量は、相当なものだ。
『いくぞ!』
ヴェルフェラプターが再度、突っ込んでくる。
今度は恐らく、剣で来るつもりだ。
ユーミルのほうは、ブレードを持つ左腕が破壊されてしまった為、ブレードは使えない。
エネルギーキャノンが放たれる。
直撃を狙ったものではなく、足止めだ。
衝撃で重量級のバスターも、一瞬動きが止まる。
『死ね!ユーミル!』
「やらせないもんねっ!」
ユーミルも、グレネードライフルを撃つ。
しかし目標はヴェルフェラプターではなく、地面だ。
爆風でヴェルフェラプターが煽られ、バランスを崩す。
ユーミルはOBを起動させ、ヴェルフェラプターに突っ込んだ。
ブレードは無い。しかし―――
『体当たりか!?』
そう。バスターの重量を活かした、体当たりだ。
ズガアアアッ!!
衝撃音と共に、ヴェルフェラプターが吹き飛ばされる。
さらに、グレネードライフルを叩き込んだ。
横転するヴェルフェラプター。
「ふっ、勝負あったわね」
その前に歩み寄るバスター。
「さて、修理代払う気になった?」
ヴェルフェラプターは動かない。そして、ヴェルフの答えも返ってこない。
「……あれ?」
「終わったか…ユーミルのほうは…」
MTを全て始末したガルドが、ユーミルのほうに視線を向ける。
その頃には、既にヴェルフェラプターが倒れていた。
バスターは左腕が破壊されているが、他に目立った損傷は無い。
「……やべえ!」
ガルドは見逃さなかった。
ヴェルフェラプターが、横転したままブレードを構え直しているのを。
「ユーミル、危ねえ!」
しかしそれより早く、ヴェルフェラプターはいきなり立ち上がり、ブレードを振るう!
だが。
ブレードは虚しく宙を切った。
『なっ!』
ユーミルは、既にバスターを後退させている。
「殺気が溢れてバレバレだったんだけど…」
『…やはり貴様は危険すぎる…そのパイロット能力…そして、貴様の存在自体が、危険すぎる…』
「ほえ?…どういう事?」
ユーミルが間の抜けた声でつぶやいた、次の瞬間。
ヴェルフェラプターが宙に舞った。
先程までとは比べ物にならない機動力だ。
「な、何それ!」
『死ね、ユーミル!』
ヴェルフェラプターが空中から突っ込んでくる。
そして、ブレードがバスターを捕らえる!
「当てられた!?あう〜、修理費が〜…」
ブレードを破壊されたバスターで接近戦は不利だ。体当たりも、不意をついた先程の一回以上は当てられないだろう。
ユーミルは後退しながらガトリングガンを連射した。
しかしヴェルフは、気にせずにバスターを追い詰める。
そこに横からの一撃が来た。
スナイパーライフルでの狙撃―――ライト・ヘルメスだ。
「ガルド?」
『貴様に用は無い!』
ヴェルフェラプターはガルドに向けて数発ライフルを放ったのみだ。
「てめえ、またしても俺の相棒をやろうとは、太てえ野郎だぜ!」
それを全てかわし、再度スナイパーライフルを放つガルド。
しかしヴェルフはスナイパーライフルの弾丸を、何とブレードで切り払った!
「んだと!?」
『貴様に用は無いと言った』
ライト・ヘルメスにライフルを連射し、動きを止めるヴェルフ。そして、大口径エネルギーキャノンを構える―――
「ガルド、危ない!」
ユーミルがバスターを急速移動させ、ヴェルフとガルドの間に割って入る。
しかし―――エネルギーキャノンは、放たれる事は無かった。
『くっ…奴が戻ってくる…ここまでか…』
苦しげなヴェルフの声が聞こえたかと思うと、ヴェルフェラプターはそのまま転進し、飛び去っていってしまった。
「な…どういう事だ?」
訳が分からず、飛び去っていく漆黒のACをただ呆然と見送るガルド。
そして―――
「………」
悲しげな目で、それを見つめるユーミル―――
「……闘ってるの?」
ユーミルのその呟きは、誰にも聞こえる事は無かった。
後書き
はい、第7話「漆黒の刺客、再び」をお送りします
何と今回は!最初から最後まで、オール戦闘シーンです!
戦闘シーン苦手とか言っておきながら、この無謀ともいえる展開、何してんだろ私…
むしろ自殺行為かもしれない
それ以前に、この後書き自体が駄文…