翌日。
 ガルドのPCに、メールが届いていた。
 「ん…アリーナからか…何!?」
 ガルドが思わずメールを破棄する。
 メールの内容は、挑戦を受けた、という内容のものだった。
 挑戦者は、一つ順位が下の―――ビリー・フェリックス。
 「あの若僧…ユーミルはわたさねえぞ!」
 闘志を燃やすガルド。
 「リット、起きろ!コズミックゼウスの準備だ!!」


 第9話「水面下の陰謀」



 ユーミルの部屋―――
 「へ〜、ガルド、ビリーから挑戦されたんだ」
 「なんか気合燃やしてたぞ」
 笑いながら言うリット。
 「ふ〜ん。わたし達も、見に行こ!」
 「ああ。応援に来てくれると、僕はすごく嬉しいな」
 2人の後ろから突然声がした。
 「ビリー?」
 「何だ、来てたのかよ」
 「ああ。君たちに応援に来てもらおうと思ってね」
 「姉ちゃんに、じゃなくて?」
 リットの鋭い指摘を、ビリーは何とか受け流す。
 「ま、まあそういう事だから、よろしく頼むよ」
 「う〜ん…でも…」
 「ユーミル、アリーナ行くぞ!」
 「あ、やっぱり」
 ユーミルの予感は的中した。
 ガルドが部屋に入ってきたのだ。
 そして―――
 「なっ…!お前、何でこんな所にいるっ!?」
 「言うまでもない、勝利の女神を確保しに来ただけさ」
 たちまち暴走するガルド、それをさらりと流すビリー。
 この2人は、本当に相性が悪いようだ。
 「馬鹿野郎、お前は敵だろうが!ユーミルは俺と来るんだよ!」
 「そんな事、彼女に聞かないと分からないだろう?」
 ばちばちと火花を散らす2人。
 「喧嘩はアリーナでやれよな…」
 ぼそりと呟くリット。
 「ユーミルは、俺と来るよな」
 「ユーミル、僕を応援してくれるんだろう?」
 2人同時にユーミルに迫る。そして再び視線をぶつからせる二人―――
 「うん、2人とも応援してるから、頑張ってね♪行こ、リット!」
 そう言って、リットを連れて出て行くユーミル。
 取り残された2人の間を、一陣の風が吹きぬけた。
 


 「あの青二才、今日こそケリを付けてやる!ユーミルの前でかっこ悪く負かしてやる!はっはっはっはっ!」
 コズミックゼウスのコクピットで叫ぶガルド。はっきり言って、かなり馬鹿である―――
 ACコズミックゼウスはガルドのアリーナ専用機だ。重装2脚ACで、武装は拡散バズーカとコンテナミサイル、ブレードである。
 さらに、急速旋回用のエクステンションブースターが装備されている為、旋回性はかなり高い。ジェネレーター容量も高レベルだ。
 「よし!コズミックゼウス、行くぜ!」
今回のステージは、再びバトルドーム。
 障害物は一切ない、技量が問われるステージだ。
 コズミックゼウスと、ファルノートが対峙していた。
 ファルノートの武装は、ハンドガンからレーザーライフルに変わっている。
 最近開発されたものらしい。
 試合が、始まった。



 軽量級のファルノートが、空中に舞い上がった。
 空中からミサイルで攻撃する。
 コズミックゼウスはブースターで回避する。しかしさすがにガルドの腕でも全てをかわす事は出来なかった。
 コズミックゼウスのほぼ真上からレーザーライフルで攻撃するビリーのファルノート。
 「ちっ、やるじゃねえか!」
 OBで距離を離すガルド。
 ガルドは内心、驚いていた。
 所詮アリーナだけの経験で、歴戦の自分にかなうわけがない、と思っていたのだが―――
 ビリーの腕前は想像以上だった。
 軽量級の長所を生かし、重量級のコズミックゼウスを翻弄する。
 (火力も装甲も敵の方が上だ…スピードを生かさなきゃ勝てない!)
 ガルドに反撃の機会を与えず、ひたすらに攻め続けるビリー。
 空中からレーザーライフルで、どんどんAPを削っていく。
 (なかなかやる…しかし所詮は青二才だな!)
 ファルノートが降下してくる。ジェネレーター容量が減ってきたのだ。
 「やっぱりな!」
 ガルドはコズミックゼウスをファルノートに肉迫させた。
 ブレードを振るう。
 しかしファルノートは、ジャンプしてその斬撃を回避した。
 だが、ガルドは即座に拡散バズーカを叩き込む。
 さすがにその一撃は回避できず、3発の内2発を喰らってしまう。
 「くっ、さすがにやる!」
 「降参するなら今のうちだぜ!」
 「そうはいかない!」
 軽く飛び上がり、ジャンプ切りを試みるビリー。
 「甘いぜ!」
 ガルドは飛び込んでくるビリーのファルノートに、コンテナミサイルをコンテナごと放った。
 軽量級がコンテナの直撃を食らえば、一撃で致命傷を喰らう可能性もあった。
 しかし。
 ビリーはコンテナをブレードで切り払った!
 「何っ!?」
 これにはガルドも思わず驚きの声をあげる。
 「危なかったな…」
 その隙を逃さず、レーザーライフルで攻撃しつつ後退するファルノート。
 「思いのほかやるじゃねえか…見直したぜ」
 ハイレベルな戦いだった。
 「僕は勝たなければならない…絶対に」
 この間にも、2人は戦いを続けている。続けながら、会話しているのだ。
 「そんなにユーミルが大事か?」
 からかうように聞くガルド。
 「ああ、大事だとも!」
 「…何?」
 冗談で聞いてみたガルドだった。しかし、本気で答えが返ってくるとは思いもしなかったのだ。
 「彼女は、僕にとって必要な存在だ!」
 「…本気かよ…あんな万年天然脳内桜前線のどこがいいんだよ!?」
 コクピットの中で思わずずっこけるビリー。
 (ま…まあ確かに、そうかもしれないけど…相棒からもそういう目で見られてたのか…)
 「それでも…」
 しかし、ビリーには分かっていた。
 「いや、だからこそ、僕には彼女が必要なんだっ!」
 再度ジャンプ切りを試みるビリー。
 ビリーの言葉に気を取られたガルドは、その一撃をもろに喰らってしまった。
 「くっ、やりやがったな…だがな、それとこれとは話が別だ!俺もそう簡単に負けるわけにはいかねえんだよ!!」
 ガルドは上空に向けてコンテナを射出した。
 「やらせない!」
 ビリーはOBを発動させ、距離を取りながらデコイを撒く。
 ほとんどのミサイルがデコイに向かう。
 その間にファルノートは空中に舞い上がった。
 「OB後に空中に上がった?リミッターを解除したか…決着を急ぐ気だな!」
 対するガルドも空中に舞い上がった。
 機動性はファルノートのほうが圧倒的に有利だ。
 ファルノートは空中でレーザーライフルを連射しながらコズミックゼウスの側面に回り込もうとしてくる。リミッターを解除しているからこそできる戦法だ。
 ファルノートはコズミックゼウスの左に回りこんだ。
 「ブレードで来る気だな…だが!」
 そう、コズミックゼウスは旋回用ブースターを装備している。この機体に対する回り込みなど、意味が無いはずなのだ。
 敵が十分に近づいたのを見計らい、ガルドは不意をついて機体を旋回させる。
 そのままブレードを振るう。ブースターによる旋回の勢いを活かした、回転切りだ!
 直撃すればファルノートは耐えられない。
 しかし、ブレードは虚しく宙を斬ったのみだった。
 「何っ!」
 ガルドは自分が敵の術中にはまった事を自覚した。
 ファルノートは、コズミックゼウスの上にいた。
 そのまま、上から一気にブレードを振り下ろす!
 その時、異変が起きた。
 ファルノートのブースターが、爆炎を上げ。
 失速し、ファルノートはそのまま墜落した。そして、炎を上げる機体―――




 観客席からどよめきが上がる。
 その人々の中に、ユーミルとリットもいた。
 「な、なにあれ!どうしちゃったの!?」
 慌てるユーミルとは対照的に、冷静にファルノートを見つめるリット。
 まだ子供とは言っても、やはり彼は一流のメカニックだ。
 「…リミッター解除の反動…じゃない、あれって爆弾の爆発だ!多分、ファルノートに爆弾が仕掛けられてたんだよ!」
 「ば、ばくだんっ!?」
 不穏な言葉に顔色を変えるユーミル。
 次の瞬間には、ガレージへと走り出していた。
 「ね、姉ちゃん!?」
 慌ててリットも後を追う。



 「……爆弾が仕掛けられてたのか…」
 着陸したコズミックゼウスのコクピットで、いまいましげに呟くガルド。
 そのまま炎を上げるファルノートに機体を接近させ、コクピットハッチを開く。
 「冗談じゃねえ…こんな所で死ぬのは許さねえぞ!」
 そのままコズミックゼウスでファルノートのコクピットをこじ開け、飛び移った。
 意識を失っているビリーを助け出し、まだ生きているのを確認してからコズミックゼウスに戻る。そのままファルノートから機体を遠ざけようとした、次の瞬間。
 ファルノートが大爆発した。
 「くそっ!」
 爆風でさすがのコズミックゼウスも後ろ向きに倒れこんでしまった。
 コズミックゼウスのコクピットハッチを閉めるのが後少し遅かったら、2人ともファルノートの爆発で死んでいただろう。
 「よりによって俺との試合中にとはな…やってくれるじゃねえか…」
 ガルドは誰にともなく、毒づいた。
 「取りあえず…ユルサネエ…」



 「失敗したか…」
 遠くからそれを見ながら、忌々しげに呟く人影があった。
 「まあ良い…殺し損ねたとはいえ、メリットが何もなかったわけでは無い…」
 そう言って身を翻すその人影は、あの老執事だった。



 後書き…
 という訳で第9話「水面下の陰謀」をお送りします。
 ビリーとガルドの戦いでした。もう、戦闘シーンが入るのが当たり前になったですね。
 今回、ちょっと厳密にはACには出来ないだろうな〜ということが入ってます。
 分かりますね…
 ファルノートがブレードを"振り下ろした"のと、コズミックゼウスがコクピットハッチをこじ開けた事です。
 この辺はまあ、なんと言うか…
 苦情がありましたら、私に直接言って下さい。
 取りあえず、話のほうはだいぶシリアスになった…のだろうか?