「どうした?達者なのは、口だけなのか?」
 スティルスを駆るマルコスがガルドを翻弄する。
 軽量逆間接スティルスの装備は、ハンドガンにラージロケット、垂直打ち上げミサイル。
 軽量機体にしては多すぎる武装だった。
 対するガルドのケイオス・マルスはガルドの開発した右腕用ガトリングガン、グレネードランチャー、マルチミサイル。
 マルチミサイルは敵のデコイであっさり無効化され、ガトリングガンの弾数は既に尽きかけていた。強力な武器であるが発射までに銃身が回転するわずかの時間がかかり、そのタイムラグでよけられてしまうのである。
 残る武器はグレネードランチャーだけである。だがこの武器を使うには、構え動作をとらなくてはいけなかった。強化人間でもない限りは。
 「残るはグレネードランチャーだな。しかしお前は強化人間では無い。この勝負、既に見えたな」
 マルコスが嘲りを込めてそう言った。
 確かにガルドは強化人間ではなかった。
 ケイオス・マルスは既に敵の攻撃でぼろぼろだった。
 ハンドガンで熱暴走を起こされ、ラージロケットの直撃を食らっている。
 「やらせるかよっ!」
 ガルドがガトリングガンを放つ。
 しかしその攻撃はあっさりとかわされている。そしてガトリングガンの銃身が空回りした。残弾が0になったのだ。
 「往生際の悪い奴だな!おとなしく死ね!」
 ブレードを構えて突っ込んでくるマルコス。止めを刺すつもりだろう。
 「生憎と…ここで死ぬわけにはいかねえんだよ!」
 (あまりこっちで力は使いたくなかったが…仕方がない!)
 「終わりだ!」
 スティルスがブレードを振るう。
 「そっちがな!」
 次の瞬間、スティルスにグレネードランチャーの一撃が炸裂した。
 「な、何だと!?そんなバカな!」
 ケイオス・マルスは構え動作に入っていなかった。
 「貴様…強化人間だったのか?」
 「いや…違うな。俺は強化人間じゃない…エルスティア王国円卓の騎士の1人…ガルファード=ナウル=ニコライさ。これは騎士の力だぜ…」
 「な…何を言っている?」
 「お前が知る必要は無いさ…どうせここで死ぬんだからな!」
 ケイオス・マルスがブレードを振るう。間合いの外であるにも関わらず、それはスティルスの右腕を切り落とした。
 「光波だと…!?」
 「終わりだ!」
 再び構え動作無しでグレネードランチャーを放つガルド。
 爆発。
 スティルスは跡形もなく吹き飛んでしまった。
 「さあて、急ぐか…ん?あれは…!」
 そのガルドの頭上を、巨大なMTが通過していった。
 「あんなモンまで…仕方ねえ、いくか…」
 ガルドはユーミルと合流すべく、ケイオス・マルスを発進させた。


 第13話「青い光、閃いて」



 「あれは…まさか、オベリスクか!?完成していたのか…しかもまさか実戦投入してくるなんて…」
 ヴェルフェラプターの中でビリーが呟く。
 「おべりすく?」
 「アルマゲイツ本社が極秘に開発していた巨大MTだ。全長105.3メートル。全身に高火力の火器を搭載している…正面からやりあったらACが数ダースあっても足りないぞ…いけない、来る!」
 オベリスクの至る所からプラズマキャノンが放たれた。
 「手近なビルの影に隠れるんだ!」
 「わ、わかった!」
 ヴェルフェラプターとインフィニティアはとっさに物陰に隠れた。
 衝撃でビルが揺れ、半壊する。
 「駄目だ、ビルじゃ持たないか…」
 「ねえビリー、あれって何処で動かしてるの?」
 「え?恐らく、頭に当たる部分にコクピットが…どうする気だ!?」
 「つまり、頭を潰せばいいんでしょ?」
 「……無茶だ。頭部周辺は特に火器が多いぞ!」
 「任せてっ!」
 インフィニティアが飛び上がった。
 当然オベリスクはインフィニティアに火力を集中させる。
 その弾幕をすり抜け、ユーミルは確実にオベリスクの中枢に近づいていった。
 「な…回避してる?」
 地上のビリーも驚く。
 だが、即座に両肩のエネルギーキャノンで援護を始めた。
 エネルギーキャノンが炸裂する。だが、その巨体の前には効果はあまり無かった。
 爆発が起こる。
 インフィニティアに敵の攻撃が直撃したのだ。
 「ユ、ユーミル!?」
 そのまま墜落してくるインフィニティア。
 だが、インフィニティアはそのまま空中で体勢を立て直して着地した。
 「や、やっぱダメか…」
 さしものインフィニティアも、今の攻撃で装甲が若干へこんでいた。もっとも、並みのACでは一撃で大破していただろうが。
 オベリスクは再び2人に上空から攻撃を浴びせる。
 「2人とも、無事か!」
 通信が入る。ガルドだ。
 「ガルド?」
 「ユーミル、今そっちへ向かってる。無茶をするなよ!」
 「何言ってるの、早く逃げてよ!ガルドまでこっち来てどうするの!?」
 「馬鹿野郎、お前おいて逃げられるかよ!いいから待ってろ!」
 通信が切れた。
 次の瞬間、2人の至近距離で爆発が起こる。
 「ユーミル、固まると危険だ!」
 「わかってる!」
 2機は左右に分かれた。
「ユーミル、敵の狙いは僕だ。僕が囮になる。その間に、必ず仕留めてくれ。頼んだぞ!」
 「ビリー!?」
 そう言い残し、ヴェルフェラプターがOBで敵の後ろに回りこんだ。
 それを見て、オベリスクが旋回し、ヴェルフェラプターの方に向かう。
 「オベリスクは、後方は火力が弱い!敵が後ろを見せたときがチャンスだ!」
 逃げながらビリーが叫ぶ。
 「……!」
 ユーミルは覚悟を決めた。
 ごちゃごちゃ言っても仕方がない。それよりも、一刻も早くオベリスクを撃破することだ。それが、ビリーを助ける道なのだ。
 ユーミルは空中に飛び上がった。
 オベリスクのほとんどの火力はビリーに向けられていた。
 ビリーは何とかしのいでいるが、いつまで持つかは分からない。
 「ビリーは…やらせないんだからっ!」
 空中に舞い上がったユーミルに気付いたオベリスクが、インフィニティアにも攻撃を再開した。しかし、後方の少ない火力では、インフィニティアにかすりもしない。
 オベリスクが再旋回を始めた。
 だが、その巨体ゆえに旋回速度は遅い。
 インフィニティアはどんどん中枢に迫る。だが次の瞬間、オベリスクから何かが射出された。
 それは、インフィニティアを囲み、一斉にレーザーを浴びせる。
 「な、何これっ…!?」
 「くっ、オービットか!?」
 地上のビリーが叫んだ。
 自立性支援攻撃兵器、オービット。
 敵の周囲を囲んで攻撃する為、ある意味最もよけにくい武器といえる。
 爆発が起こった。右腕のビームライフルがやられたのだ。
 「あ、ビームライフルが…でも、そのくらいで!」
 インフィニティアはブレードを振るい、オービットを次々と叩き落した。
 だがその時には、オベリスクは既にインフィニティアを正面に捕らえている。先程同様の集中砲火がインフィニティアを襲った。
 「くっ…これじゃ近寄れない…!?ビームライフルもないのに…」
 「ユーミル、駄目だ!下がれ!」
 ビリーがヴェルフェラプターのリミッターを解除し、オベリスクの後方に張り付こうとするが、ユーミル同様オービットに阻まれた。
 「くそ、邪魔をするな!」
 ビリーがオービットを切り払おうとした、次の瞬間。
 敵の攻撃がビリーのヴェルフェラプターを直撃した。
 「うわああっ!」
 吹っ飛ばされ、墜落するヴェルフェラプター。
 そこに再び、敵の砲撃が迫る。
 だがそれは間一髪、放たれたグレネードで相殺された。
 「どうした青二才。えらく苦戦してるじゃねえか」
 ガルドのケイオス・マルスだ。
 「タイミングよく来てくれたな…それより、ユーミルを頼む…」
 ビリーのヴェルフェラプターは、既に戦闘のできる状態ではなかった。
 ユーミルはいまだに空中で、敵の中枢に近づけずにいた。
 エネルギーは減らないものの、ユーミル本人に疲れが見える。
 集中砲火を何とかよけつづけているが、このままでは埒があかない。
 「何とかしてやりたいが…もう、グレネードも今ので打ち止めさ。弾薬はすっからかんだ」
 さらに、リミッターを解除してOBでここまで来たため、ジェネレーターも焼きついていた。3次元戦闘はおろか、ただ飛ぶ事すら出来そうにない。
 (ユーミル…お前なら勝てる…!死ぬなよ…)
 


 (―――ユーミル…あなたの力…私に乗っている限り…あなたは負けないわ―――)

 ユーミルの頭の中で声が響いた。
 「この声…あの時の?」
 
 (―――あなたには…力があるわ…あなたならできる―――)

 「あなたは誰なの!?」
 
 (―――生きるのよ、ユーミル―――)

 「……人の話し聞いてるの!?誰かって聞いてるのに!」
 
 (―――わたしは、あなたの―――)

 その瞬間、動きの止まったインフィニティアに集中砲火が迫っていた。
 
 (―――お母さんよ―――)

 「………え……?」

 そして、インフィニティアにオベリスクの全火力が直撃した。
 『ユーミル!!』
 ビリーとガルドの声がハモる。
 だが―――
 インフィニティアは無傷だった。
 「な…無事なのか!?」
 驚愕するビリー。
 インフィニティアの全身から、淡い蒼の光が放たれている。
 それを見たガルドの顔色が変わった。
 「……勝ったな」
 インフィニティアがブレードを振るう。
 すると、青い光の奔流がオベリスクめがけて放たれ、それは中枢に直撃した。
 中枢が爆発し、その爆発はオベリスクの全体へと広がっていく。
 そして、オベリスクは墜落し、大爆発を起こした。
 


 ―――この日、アルマゲイツ支社は組織解体され、残った人員は本社に接収された。
 だが、副社長ビリーの姿は何処にもなかった。
 


 「これから、どうすんだよ?」
 リッドが、ガルドに聞く。
 ここは、普段のマンションでは無い。
 ガルドが密かに持っていた、秘密の格納庫である。
 そこには、ガルドのものらしい1体のACが置かれていた。
 「……時が来た、って事さ…これからの俺たちには、する事がある」
 ガルドがそのACの前でそう言った。
 「全部…教えてくれるんでしょ?」
 ユーミルが不安そうに、言った。
 「ああ」
 「僕も、力を貸すよ」
 ビリーがユーミルをみて微笑する。
 「さて…これから忙しくなるぜ…」
 



 後書き 第13話「無限の輝き、閃いて」
 世界観についてはもはや何も言うまい…(爆)
 てか、インフィニティアは別格です。あまり気にしないで下さい(笑)
 第2部ではもう少しACらしくしよう…第2部まだだけど…
 取り合えず第1部前編が終わりという形になってヴェルフ編が一区切りつきましたが、これはプロローグみたいなものです…
 さて、頑張らねば…