生きたいという猛烈な欲求が
貴方を満たすのはいつの日のことだろうか
或いは――


アーマード・コア、名も無い物語


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人を殺すことに躊躇いが無いと言えば嘘になる
俺は自ら畜生に身を落としても尚、まだ人でいたいと考える
それでも俺は殺した
何人、何十人、何百人と、ただ、自分が糧を食らう為に
それが悪だとは思わないが、ただ漠然とした薄っぺらい罪悪感は残る
結局、淋しいのかも知れない

栄華を誇るアリーナに出るわけでもなく

名を挙げているわけでもなく

ただ俺の中の普段が続く日々

そんなのは普通に暮らす奴等も一緒だと分かってはいても
世界の誰もが俺と言う人間を知りたがらない毎日は、俺にとって少し苦痛だ

潮時、そんな言葉が頭の中を過った日――


第3話


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 地下都市では雨こそ降っても、雪が降る場所は少ない。
 地表部にいまだ『白い』雪が降るホワイトランドでは都市でも雪が見られるらしいが、あとは聞いたことも無い。
 こんな事を言っているが、俺は別に雪が見たいってわけじゃない。
……何なんだって言われると自分でも良く分からない。
 だが、何処か何かがすっぽりと抜け落ちている感覚だけが俺を苛んでいる。
 この妙な空虚感が俺の中に現れたのはこの間、野暮用で出向いたスラムに雨が降ったときだ。


 バラックと言うにもボロくて、瓦礫の山にしか見えないような所でも人間は生きている。
 ひょっとしたら一時期よりも人間は強くなっているのではなかろうか。
 大破壊を越えて種としての栄華こそ傾いたものの、単品で見れば今の方がきっと力強い。
 そのボロ屋の建ち並ぶ一角でオレは不意に天気予定に無い雨に降られた。
 これだからスラムは……なんて悪態をついたが、まぁ、都市内に降る以上毒性雨の心配は無い。
 だが、半額で買った一張羅のジャケットを濡らしたくなかった俺は取り敢えず屋根のある所に掛け込んだ。
 そこは屋根とは言ってもやっぱりガラクタを積み上げたような場所だったが、雨をしのぐには十分だった。
 空を見上げつつ、ぼーっと煙草を吹かしては煙を空に向かって吐きかける。
 30分もそんな事を繰り返せば足下には吸殻の山が出来る。
 煙草だけは止められない。
 まぁ、いつものことなので気にも留めず、俺は兎に角雨が止むのをジーっと眺めていた。
 そうだ、確かそこで見たんだったな。
 ふと振り返ったバラックの奥、電灯も何も無くて真っ暗なそこに偶然何かのスポットが当たったのだ。
 そしたら、そこに二人。スラムの奴等がいた。
 細い黒髪の、きめの細かい肌……いわゆるアジア系の綺麗な女。
 それと、ぼさぼさ髪で締まった身体つきした童顔の男。
 キスしてやがった。
 それも初々しい、触れるだけの。
 あいつ等、食う物にも困るくらいなくせにちゃんとすることするんだな、なんて俺は。
 こう言ってしまえば凄く月並みで低俗な理由で空しがってるように聞こえるだろう。
 だが、そうじゃない。
 そうじゃないんだ。
 正直、俺の収入でも女は幾らでも買える。
 自分で言うのも何だが、俺は性格もルックスも決して悪くない。
 無論俺は“ノーマル”なので女に対してのことだが。
 だから女に困ると言う事は先ず無い。
 じゃぁ、なんだ。
 恋に飢えてる? 愛に餓えてる? 今更世に言う『本当の愛』とか『恋』なんぞを探せとでも?

『……莫迦らしい』

 でも、件の感覚がそれから感じられ始めたのは事実だ。
 俺は常に何かに飢えて、何処か知らないとこから来る気持ちに苛まれている。


「不条理だ……まったく」
 最悪の目覚めだ。
 頭をくしゃくしゃと撫でて独り言を言いながら向けた視線の先は扉を開いた冷蔵庫である。
 それを見た俺はさらに不条理なものに見舞われた。
 因みにその中身は空のドレッシングと腐った牛乳――以上。
 久方ぶりに割のいい依頼が入って『こりゃ一張羅が二張羅に増えるか』とうきうき気分だった所に、これだ。
 29年も生きていればいい加減自分のズボラさにも慣れる。
 だが、今日のこれはちょっと別だ。
 空になるまで気が付かずに置いておくとは流石の俺でも少なからず引く。
 『自分がズボラだという事』を知っている俺でもこれは少々ショックな事だ。
「……取り敢えず、飯食お」
 俺は部屋の鍵にもなるカードを手に取り、ジャケットのポケットに放り込んでボロい棲家を出た。

 家の周りの道路はろくに再開発も進んでいなくて、あちらこちらで強化コンクリートに罅が入っている。
 重装型のACが着地なんぞしたら木っ端微塵に吹き飛ぶんじゃないか? なんて漫画みたいな話が頭に浮かぶ。
 思わず笑ってしまいそうになって、暫くしかめっ面でいたら先の鬱気は飛んだ。
 代わりに喉と腹が痛いが。
 そんな『ガタガタだが広い道路』を5本跨いだ辺りで、やっとまともな通りが姿を現す。
 此処まで、既に徒歩20分。
 レイヴンの生活とは斯くに辛いものなのだろうか? などという阿呆な考えも浮かばなくなって久しい。
 感傷的な部分というものはどんどん年と共に削がれて行っている気がする。
 しかし、それを思うのは決して俺だけではない筈なので割と如何でも良い事でもあったり。
 大き目の往来(アリーナ・ストリートとか言うらしい)に出てから、アリーナに向かって細い道を2つ越えた先が目的地だ。
 ショッピングモールの片隅にある兎角安い食品店。
 俺は何かと金が無いので此処でよくお世話になる。
 競争の激しいアリーナの周辺だけあってか、安くてもそれなりに品はいい物を置いている。
 威勢の良い声が各売り場から聞こえるのは今やここだけと言って良いかも知れない。
 若かった頃は前時代的な営業法だ、なんて良く馬鹿にしたもんだ。
 でも、今の歳位になるとなんとなく『いいもんだな』なんて思えてしまう。
 俺は取り敢えず、特売している賞味期限切れ寸前の物をカゴに放り込んだ。
 ……ネット上だけの結婚生活すらあるという“無菌主義”が横行するこの時代。
 これでも同じ『人間』なんだよな、とか考えると些か不思議な気分になってくる。
 最も、冴えない頭しか持たない俺だ。
 大概こういう思考はそこで途絶えしまって終わり、思い出すことも無いのだが。
 買い物カゴが一杯になったところでオート・スキャンシステムを通る。
 カードから引き落とされた金額を確認して買い物終了だ。

 買い物袋を久し振りに両手に提げて、ぶらぶらとメーンストリートをほっつき歩く。
 今日入った依頼の発動時刻は都市標準時で22:34からだ。
 帰って飯を食って一寝して支度をする時間を差し引いても、まだ十分過ぎる位時間はある。
 俺は行き付けのガレージへと立ち寄ることにした。


「よう」
 そいつはいつも背を丸めてACに食い入るかのように丹念な整備を行っていた。
 視力矯正手術が一般医療となっているこのご時世で、ずれた老眼鏡を掛け直しながらレンチやテスターを握る爺。
 若いペーペーは『蚤取り爺』なんて馬鹿にしやがるが、整備の腕でこの爺様に敵う奴など居ないと言って良い。
 俺はこいつに自分が駆け出しの死にたがりだった頃から世話になってきた。
 ACは実用品でもあるが、精密機械でもある。
 いつ何がどうなってトラブるか、なんて人間が予測出来る筈がない。
 そのトラブルの所為でどう命を落とすかなんて言わずもがなだ。
 だからこの爺様はいつも、そのACが出撃する前に配線の一本までチェックして見せるのだ。
 自分の手に掛った“AC”が死なないように。
 猜疑心の塊みたいな俺が唯一信頼するガレージのオーナー兼メカニック長だ。
 命を預ける相手なのだ。
 人間的なものはある程度どうでも良いが、作業が慎重且つ迅速であるに越したことは無い。
「……おう、一応あがっとるよ」
 爺様はえらく面倒臭そうに口を開く。整備中はいつもこうだ。
 そして完璧な仕上げ――この『蚤取り』が終わるまでは必ず『あがってるよ』に『一応』が奴の言中に入る。
 俺は溜息を一つすると腰に手を当ててこう言った。何気なく。 
「ま、お出かけは23:00だ。頼んだ」
 奴はいつもなら黙って作業に戻るだけだ。
 だが今日は――今日は違った。
 ふと、顔を上げて何処か遠くを見るように目を細める。
 すると、溜息のような一言が皺だらけになった口の端から漏れ出した。
「お前――お前は死ぬなよ」
 爺様から返ってきた言葉に俺は思わず息を飲んだ。
 このガレージに旧くから通い詰めている人間なら、この爺様からこの言葉が出た時に何が起こるかは知っている。
 いや、その身に思い知らされている。
 『死』――
 俺は拳に汗が滲むのを感じた。
 カラカラになった喉がなんとか、かすれた声を紡ぎだす。
 せめて表情だけ。
 ニヤリとさせて俺は言った。
「……俺の番ってことか?」
 爺はもう何も言わなかった。
 ただ、黙々と作業に没頭している。




……何でかは知らない。だが一つだけ確かなことがある。


あの爺様に『死』と言う単語を貰った奴が確実に消えていくのを、俺は厭と言う程見てきた。
しかも、原因にマシン・トラブルは全くない。9割が討ち死んだ。
科学的根拠なんて勿論存在し得ない。
ただ、あの爺が悔しい顔をする事だけは確かだ。
登録されたガレージ番号で照合され『マシンだけが戻ってきた』時のあの爺様の表情はいつも『悔しい』と叫ばんばかりの物だ。
職人としてのプライドが『負けた』事を許さないのだろう。
『操縦する奴の腕如何なんぞ如何でも良い』『ただ、相手のACに負けたことが気に食わないんだ』と
いつも奴の顔はそう言っている。


……いや、もうそんな事は如何でもいい。




 帰り道を歩く俺はきっと、不治の病を宣告された患者と同じ類の顔をしていただろう。
 実際、家に着いて鏡を見て驚いた。
 青白く血の気が引いた頬に、見事に出来上がった目の下の隈。
 これじゃまるで――
「病人だな」
 俺は一人呟いた……よく三文小説に書かれるような場面だ。
 だが、俺が今いるのは現実の世界だ。
 小説にあるように“此処から何かが始まるようなこと”はまず無いと言っていい。
 当り前だが、それこそが現実だろう。
 呟きは誰に聞かれることも無いまま、うちの狭い洗面所に吸い込まれて消えた。
 久々に入った割の良い依頼。
 長いことありついてなかった美味い飯がたらふく食えて、一張羅が二張羅に増えるかって時なのに。
 俺は、酷く憂鬱だった。


 地上に日が差して日が沈むように――地下都市のでかでかとしたホリゾントにもそれが映っては消えた。
 まるで移ろい行く世の中のようだ、なんて良く言ったものだが俺はもうそんな齢じゃあない。
 繁華街にはネオンが煌めき居住区は寝静まる時間。
 俺は、中々言う事を聞こうとしない足を持ち上げては下ろすという動作を繰り返す。
 あの爺様の住むガレージへと向かうのだ。
 腐敗臭漂う黒い路地を抜けて、罅割れた強化コンクリートを避けながら、時折狭い空を見て。
 手をぶらぶらさせたり、背伸び序でに欠伸なんかしながら、偶に落ちてるエロい本読んだりして。
 仕事だ。これが俺の。
 これで俺はお飯が食えるのさ。
 そうだ、何が悪い?
 何のために高い給料貰ってるのか、そいつを考えりゃどうと言う事は無いんだ。
 多分、全てに於いて得るものと失うものは等価だ。
 それをその人間が如何考えるかは別だが。
「しかし……こんなんでも殉職って言うのか?」
 人通りもまばらな、目だけがギラギラと光る奴等ばかりが棲む通りで、馬鹿な事を呟く。
 にやつきながら歩いている俺は端から見たなら、周りの奴等同様さぞかし気味悪く見えただろう。
 それは兎も角これは――殉職なんて格好いいもんじゃない。
 これは……なんだ、なんて言っていいやら。
 そうだ、自己満足だな。
 最後までこいつを通す、それだけだ。
……いや、そんなものですらないかも知れない。
 これは――なんなんだろうな、なんて言っていいやら。
 うん、そうだ。
「意地だな」
 そうだ、意地なんだ。
 親も何もかも、この『人間』共が構成る社会すらも裏切って手に入れたこの身分が、きっと正しかったと。
 そう、証明する為には『俺が』満足する死に方をしなきゃならない。
 少し気が晴れた気がして、口元が緩む。
 ガレージへの最後の角を曲がった俺は、きっと不気味な顔をしていただろう。
 普段は面倒臭がりながら掛けるサングラスが、今日は有り難く感じた。


 とりとめが無い事って言うのはとりとめが無いからとりとめが無いと言う。
 それが浮かんでは消えているうちに俺は何時の間にやらガレージの扉をくぐっていた。
「じ……エルンスト」
 俺は初めてその爺の名前を呼んだ。
 慣れない事はするもんじゃない。
 俺は声が裏返りそうになって焦った。
 そんな内心を知ってか、知らずか。
 椅子に腰掛けてコーヒーを啜っていた爺さんは、それでも何時ものように面倒臭そうにゆっくりとこちらを振り向く。
 そして不意にニヤリ、とするとゆっくりと口を開いた。
「なんだ、若造?」
 俺と初めて会った頃と、全く同じ口調で。
「『相棒』は仕上がったのか?」
「できとるとも」
 何時ものあの面倒そうな口調じゃない。
 あの「取り敢えず」も付かない。
 この爺様が今言ったこと、それの意味する所はただ一つだ。
 俺はフッと笑み零すと、起動用のシリンダーキーを受け取った。
 一口だけ手をつけたコーヒーを残して。
 何か、知らないところで予感があった。
 今日、確実に俺は死ぬ。
 でも俺はそれで満足だ。
 そんな予感がする事自体もう『普通』ではないのだから。
 ああ、そうだ。
 俺はこれでやっとオレの『普通』から抜け出す事が出来る。
 俺は、満足だった。
「行って来る」
 そう言って椅子から立つ俺に爺様は決して目を向けなかった。


 扉を開き、ガレージの中へと入る。
 油臭い匂いも何もかもが皆懐かしく感じる瞬間。
 表現としては大間違いだ。
 でも、確かにそう感じる。
 着慣れたツナギに着替えて、フルフェイスのヘルメットを被る。
 狭いコックピットに這うようにして入り、キーシリンダーをゆっくりと左に回す。
 コックピット内に電圧が掛りグリーンのランプが点灯する。
 これは各部が正常な証だ。
 だが、これだけでは始動用に積まれたバッテリーが干上がってしまう。
 所謂イグニッションをオンにしただけの状態だからだ。
 頭部に据え付けられているメイン・カメラが薄く光り、自らの起動を示して周囲に警戒を促す。
 ディスク・アニメのマニアなら感涙もののシーンなのかも知れないが、よくわからない。
 まぁ如何でもいいことだ。
 俺はせっかちで単純だ。
 この部分だけは昔から変わっちゃいない。
 だから、ACの挙動にもろに影響が出る部分は常に現行で最高の出力を誇る奴にしている。
 次にジェネレーター。
 サイドパネルのスイッチを3つ上に押し上げると、高周波のようなかん高い音が響く。
 これは高出力のものだけが持つ特有のものだ。
 各部にオイルが回り、関節のサーボモーターが暖まるまで3分。
 相棒の暖気に掛る時間はジェネレーターのお陰で極端に短い。
 その代償が戦闘継続時間の短さだ。
 長時間フルパワーで使うと、このGBG−10000型は音を上げる。
 良くてオーバーヒート、最悪パーツが溶融して御釈迦。
 出力を微調整しつつ仕上げに入る相棒。
 メインパネルに表示された自己診断。
 あの爺の手に掛るようになってからは一度も『緑』以外の明かりを灯したことは無い。
 今日も例外は無い。オールグリーン。
 各部がマウントされていたフレームが外れ、ゆっくりと遠ざかっていく。





≪命を掛けたおままごと≫で如何に自分が楽しんで死ぬか。
このACはそれを常に考えてきた結果の筈だ。
世界というのは広いようで狭い物だ、同時に自由というものも限りなく不自由な物だ。
俺は人間であることを捨てられない。
なら、その不自由な中で如何楽しむかを考えて何が悪い?





 GOサインが出て数秒。
 俺は立ち尽くした相棒を進ませるべくスティックを倒した。
 ゆっくりと、本当にゆっくりとガレージの風景が流れていく。
 油のこびり付いたクレーン、意味も無く掛けられたチェーン、磨きこまれた工具類。
 そして、相棒の目はエルンストが居る事務所を映し出した。
「…………」
 爺様は何も無いかのようにディスプレイを見てコーヒーを時折啜っていた。
 いい加減メガネが合わないのか、時折老眼鏡を外しては画面を覗き込む。
 ふとこちらを見た目はコックピットの中に居る俺とカメラ越しにぴたりと合った。
 まるで、こちらが何処を見ているか端から知っていたかのように。
 口の動きを読む。
『かえってこい』
 俺は、なんて返したら良いのかわからなくなった。
 駄目だろう、此処でそんな言葉を俺にかけては。
 駄目だろうよ、爺さん。
 わけも無く溢れようとする涙をただひたすら堪えた。
 じぃっ、と年代物のACを眺める爺と、出撃前なのにその爺さんをただ見つめ返すように佇むAC。
 端から見ればなんて滑稽な場面だろう。
 俺は、サイドパネルに指を伸ばした。

≪マニュアルコマンド・A2132−C≫

 相棒はその巨大なマニピュレーターの人差し指と中指を立てて、軽く頭部の前に持ってくるとそのまま爺と逆方向を向いた。
『……あの馬鹿』
 歩み始めた相棒の後からそんな声が聞こえた気がした。
 でも、もう振り向かなかった。



 久々に出た『外』の汚れきった大気は何時の間にか随分と綺麗になっていた。
 怪しいグレーの先が見得ない程の霧……いや粉塵も、太陽からの恵みを覆い隠すダークグレーの雲も、綺麗になくなっていた。
 あるのは沈み際、自らの輝きを誇示する太陽と、それに染まるようにして赤く燃える空。
 武骨な、人型を模して作り上げられた相棒は暫くその輝きが消えるまで一緒に佇んでいた。
 空が宇宙の色に変わり、大気という最高のフィルターを通して星達が瞬き始める。
 集音マイクで拾えないほどゆるやかな風が相棒を撫でていくのが分かる。
「……さぁ、お出かけだ」
 オトコは戦っていなきゃ生きられない。
 今までだってそうだ。
 ハイスクールを上がって、ゴミ掃除の仕事に就職したって毎日がゴミとの『戦い』だった。
 辞めたら親が死んで、一人で生きなきゃならなくなった時にも、待っていた物は自分との『戦い』だった。
 負けたら待っているのは“死”だけじゃない。
 もっと悲惨な物だって、もっと厭な物だってあるだろう。
 そうだ。
 だから俺はレイヴンになった。
 そう、できるだけ。
 「負けた時に死ねる場所」に限りなく近い所を探して。

 時間は22:47

 淡いグレーの地下都市迷彩に塗られた相棒は昼間の地上では良く目立つ。
 だが夜ならば闇色をした天然のカーテンが俺とこいつを隠してくれる。
 それに、赤外線センサーまで欺く装備はこいつにはされていない。
 暗視スコープ同士の戦いとなれば、色などもうどうでもよくなる。
 何時の間にかゲートのある荒野を離れ、目の前には廃墟と化した地上の都市が広がる。
 俺はそのままそのメーンストリートらしき場所を、コンバットモードすら立ち上げずに歩いた。
 星も月夜も綺麗な良い夜だ。
 しっとりとした穏やかな空気が相棒の装甲越しにも伝わってくる。
「廃墟……懐かしい」
 俺は廃墟が好きで、レイヴンになってからも最近までよく写真なんぞを取りに行っていた。
 何故惹かれるのかなんて分かるものではないし如何でも良い。
 ただ、それがそこにあるというだけで胸の奥が奇妙な感じで訴えてくる。
 好き、というよりは衝動の赴くまま、それを抑制しなかったというだけの話かも知れない。
 しかし、その事とてもう如何でも良いことだ。
 物事なんてものは考えれば考えるほど集束したり拡散したりする、取り留めの無い物だ。
 終わりも始まりも中身すらも実は無いのかもしれない。

 22:59

 後一分で俺は戦場へと赴くだろう。
『システム、戦闘モード起動』
 相棒もそうだ。
 そして恐らく帰れない。そんな気がした。
 レイヴンの勘を侮ってはいけない。
 それも悪い方に働く勘――

 23:00

 サブパネルに綺麗な緑色で映し出されたアナログ時計。
 その秒針が午後11時きっかりを指した。
 こいつは趣味でソフト屋から買い付けたものだ。

 ミッション、スタート。

 俺は此処でもう一度、遅まきながらも任務内容の確認をする。
 今回の任務はこうだ。

『先日に“ネストの”ガレージから奪われた資材を、この廃墟を根城とするテロチームから可能な限り回収する事』
『その際に発見した勢力は鏖――みなごろし――にする事』
『報酬は後払いの65000コーム、重要度レベルC以上の対象は捕獲及び撃破数に応じ賞与を与える』

 ……馬鹿高い報酬、ネストという単語、そして皆殺し。
 すべてが罠だと示すような任務を俺はわざと請け続けた。
 金を払って恐怖的快感を得るテーマパークのアトラクションのようなものだ。
 命をチップに背筋を走り抜ける快感と莫大な報酬を得る。
 俺にとってレイヴンという職業はそんな物だ。
 ……いや、これが職業などと言えるものか。
 飼い犬だ。まるで。
≪3時半方向に出力感知。ACクラス・機数1。識別応答……ナシ≫
 無機質な女の声のアナウンス。
 相棒の背中に備え付けたレーダーが不明機を捕らえたのだ。
 俺は半ば無意識に逆方向へスティックを倒すとそのまま構えたマシンガンを放った。
 相手がACなら躊躇はまず必要がない。
 HEAP弾(貫通榴弾)がコンクリートを砕き派手な花火を散らす。
 仕留めた感触は無い。が、これで分かった。
 やはり俺の受けた依頼は。
「……狙い通りだ」
 低く押し殺した声でそう言う俺の手は、何処から湧いたとも知れない歓喜にうち震えた。
 広域周波数――オールラウンド――だが、相手からの通信は無い。
 これから死ぬ奴に喋る事なんぞ無いということか?
 まぁ、いいさ。
 精々楽しんで殺る、または殺られる。
 趣味で金を稼ぐのではなく、趣味で金が貰えるようなものだ。
 楽しまなくては明らかに損をする。

 暗い視界の中、それでも随分と敵機の輪郭ははっきり見える。
 特注の複合センサーが生み出すコンピュータ・グラフィクスの精度は極めて高い。
 パーツとしてのこいつが持つ本来の性能とは桁違いの物だ。
 後付けの高精度光学センサーを無理矢理“HD−08−DISH”の処理バイパスに通してある。
 こいつはどんな暗闇でも相手を捉えてくれる。
 今までも何度も俺を助けてくれた。
 星の灯りでさえ捉えて夢を見させるこいつだ。
 月明りもある今日はさぞかし綺麗に映し出すことだろう。
 瓦礫の上に立つ敵機。
 シルエットからパーツの判別を要求……詳細請求しているから率は34.24%
 小型軽量の高性能ハンドガンに何らかの背部武装、レーザーブレードは不明。
 型は軽量級……なら。
「しッ!」
 瞬時に武装を切り替える。
 と、ほぼ同時に背中に備え付けられた連装ロケット砲が火を吹いた。
 シュガッ!という音と共に先まで影が仁王立ちしていた場所を粉々に吹き飛ばす。
 俺は追い討ちとばかりに床までペダルを踏み込むと機体を一気に飛翔させた。
 慣れた加速感と共に俺はシートに『叩き落された』。
 ふわりとした浮遊感に一気に息を吸い込んで吐く。
「くっ、は!」
 煙を割ってセンサーが捕らえた先には的が――いない。
「……ふん」
 俺はそのまま機体を反転させると後ろに跳び退った。
 今度は俺が立っていた場所に散弾の弾痕が刻まれる。
 後にあった一際高いビルの残骸をペダルのひと吹かしで飛び越え、そのまま機体を隠す。
 相手は高機動型である事はほぼ間違いない。
 こちらより優れた加速性能、上昇性能、そして瓦礫が堆く積まれた地形。
 トップアタックが効果的な方法だろう。
 なら、近・中距離で動きは止められない。
 俺はそのまま機体にステップを踏ませてレーダーに映る光点から身を離した。
 相手が舌打ちの一つでもしていてくれれば御の字だ。

……まだ、手に汗の一つも浮かんでこない。
 もっと。
 もっとだ。
 もっと楽しませてもらわなければ。

 俺の中の凶暴な部分が目覚めてくる。
 誰にでもある破壊と暴力と煮えたぎる血への衝動。
 頬は紅潮し、目は見開かれる。
 なのに頭だけは酷く冷静で手も足も自らの意志通り、いやそれ以上に動いてくれる。
「さぁ、どうした?」
 答えが無いのは分かりきった事だ。
 それでも俺の口からは決り文句が流れていく。
「来いよ。来ないなら行かせて貰う」
 返答はやはり無い。
 俺は好き勝手喋った。
「イレギュラーハンターか? 随分と大層な身分なんだな。それともお喋りしたらママに殺されるのかい?」
『……喋り好きだな、来るんじゃねぇのか』
 此処で初めて相手からの強制着信。
 相手の性質は分かった。
 この程度のカマ掛けで引っ掛かる奴は殺しに慣れた奴じゃない。
 解析したACのスタイル通り“ありがちなアリーナ野郎”だという事が。
 俺は一気にペダルを踏み込んだ。
 レーダーの光点が凄まじい速さでその距離を縮めていく。
 光点が重なるか否かの所で、まるで昼間のように周囲を映し出すセンサーが相手を捉えた。
 モニターに光学防御用のスモークが掛り左腕の発する緑色の光点が、胴と脚を繋ぐジョイントへ。
 人型を模した機動兵器の最たる急所を狙ったその攻撃はいとも簡単に躱される。
 瞬間、強烈な衝撃が機体を襲った。
 バランサーが≪maximam output!≫の表示を出したまま機体が動かなくなる。
 ハンドガンが齎す衝撃に、機体が自らの転倒を避ける為にバランサーを最大稼動させたのだ。
 人間で言えば力いっぱい踏ん張った状態になってしまい動かなくなる。
 アリーナ野郎にありがちなろくでもない攻撃だ。
 俺は躊躇いも無くバランサーを手動でカットする。
 弾丸の衝撃に弾き飛ばされた機体が地面へと倒れこむまでは1秒もない。
 コンマ何秒の世界だ。
 瞬間、アクセルフル!
 足もとに敷かれたマットのふわりとした感触がペダル越しに伝わる。 鳥篭に固定された身体はベルトを引き千切らん勢いで前に飛び出そうとする。
 ……奴は少なからず動揺しているはずだ。
 二足歩行機械のタブー『転倒』。
 それに自ら陥らせる奴などそうはいない。
 全てはあの爺と俺の仕業だ。
 “勝つ為にだけ”採った最悪の方策だ。
 お陰で真っ暗な世界を垣間見た。 それでも、奴さんが恐らく装備しているであろうレーザーブレードの一撃を貰うよりかは遥かにマシだ。
 暇はもう無い。
 機体がスローモーションのように立ち直り、合わせたままにしたアサルトガンの照準が目標を捕捉する。
 そのままトリガーを引くが、相手は高機動型だ。
 それなりに使いこなしてはいるようでやはり手応えは無い。
 発射火薬の量を削って装弾数を増やした半端もののこの銃は、弾速が出てくれないのだ。
「ちっ」
 ロケットのセフティをフルオートへ。
 右へ左へと機体を沈みこませ、相手の弾をかいくぐる。
『やるな、ならこっちも本気だ』
 再び強制着信した相手の声、いままでは威嚇の意味もこめて努めて低くしていたのだろう。
 今ならその声が若い奴のものだとすぐに分かる。
 だけど、今更乗って来ても遅い。
 俺はもっと前から絶頂付近にいる。 だから、あんたは死ぬ。





……『あんた』が?






「は……」

 正に「はっとした」瞬間だった。

 『俺が』死にに来たんじゃなかったのか?
 本日2度目の激震が機体を襲う。
 がん、ごん、と言った類の金属同士がぶつかり合う音で俺は我に返った。
 凄まじい音に耳鳴りがする。
 不意に何か情けない音がして機体が大きく傾くと、L側のアームが吹き飛んだ。
 今度はアラームの音に耳鳴りがする。

 気が付くと俺の相棒は地面に倒されていて、その瞳に向かってハンディ・ショットガンの銃口が大写しになっていたのだった。

『……あっけねぇな、アレだけの曲芸見せておいて。それともシメは別料金なのか?』
「…………」
 先のセリフへのあてつけとも取れるそれにも、俺は答えられなかった。
 ACはどんな形でも一度倒れると自力ではほぼ起き上がることは出来ない。
 でも俺は喋くる敵さんなんぞもう如何でもよくって腹を抱えながら笑いをこらえていた。
 ヘルメットのバイザーを貫いて、頬骨の辺りに掠めている破片も気にせずに。
『……何が可笑しい?』
 笑いは止まらない。
 時折「くくっ」と呻き声のように口の端から漏れていく。
 これが俺の最『後』かと思うと可笑しくてしょうがない。
 結局“死にたがり”は治ってなかったって事と、以外にも格好良く死のうと自分が考えてた事がわかったからだ。
 端から無い未来に相も変わらず希望は一欠片も持ち合わせていなかった。
 それでも『嗚呼、俺ってば生きてたんだ』なんて思う事も普通すぎて今の俺にはたまらなく可笑しかった。
 相変わらず笑いつづける俺。
 きっと奴さんは気でも違ったかと思っているだろう。
 でもそれは間違いだ。
 今、ここで俺は正気に返ったのだから。
 自分の逝き方が『俺』と言う人間そのものを生かすということに今気が付いたのだから。
 気付かず悩みつづけて内に入り込み続ける今までよりも今の方がよっぽど『正』気に近い。

「悪いな」
 俺は間髪入れずフル・オートのままになっていたロケット砲をばら撒いた。
 発射数によって発射位置が変わってしまうロケット。
 AC用のものには一点に命中する様照準のオートサポートが付いているが、効く間もなく全弾が打ち尽くされた。
 本来は“面”に打撃を与える為の武器だ。
 使い方は間違ってはいないのだが、ネスト純正の奴にはセミオートの設定しかない。
 つまり、こいつもあの爺とつるんでやった事の一つだ。
 ロケットは敵さんを飛び越えて、辛うじて原形を留めていた廃墟に着弾する。
 爆炎と粉塵で流石の高性能センサーも一瞬乱れた。


「俺は生きる、悪いな」
 俺は敵さんに悟られないようにゆっくりと機体の肘を地面に立たせてそう呟いた。
 そうしている間にも、敵さんの『混乱しながらもこちらへ殺意を向けている雰囲気』は伝わってくる。
「生きることは俺の最大のあてつけなんだ」
『だから助けてくれとでも言うつもりか? 生憎だがそれ程俺は優しくない』
 つくづく芝居に付き合うのが好きな敵さんだ。
 どうやら完璧にアリーナ上がりのボンボンらしい。
 出来試合の見すぎだろう、それともナーヴ・ドラマか?
 どちらにせよ死合いがドラマだと思っている馬鹿であることには違いない。
 “本物”なら先ず間違いなく、次に声を聞く前に縊り殺しているだろう。
 その方が長生き出来るからだ。
 煙が晴れてきてしまう。
 薄っすらと相手の機影が見え初めて、俺は覚悟を決め始めた。
 俺から見て上に壁があることを、オートマップで再確認して。
 さぁ、チャンスは一回だ。
 崩れかけの廃墟にもう一度倒壊を始めさせる、その時だけ。
『終わりだ』
 瞬間、俺はトリガーを目一杯引いた。
 また不意打ちかと悠長に後退する敵機に向けて引きっ放しにした。
 全てを吐き出すように。





 死んだ時に何かを感じる奴が、それがたった一人でもいる事がわかった。
 若し死ねば俺はそいつの中だけで生きる。
 それで満足だ、なんて考えるわけが無い。
 ましてそれが俺よりも老い先短い爺たった一人なのだ。
 ふざけるな。やってられるか!






 弾を喰らった時の衝撃とはまた違った振動が機体を揺さぶる。
 連続したその衝撃に意識が遠退くのを感じながらも、俺はペダルとスティックに込めた力だけは抜かなかった。
 やがて、一際大きな衝撃と共に機体が止まる。
 同時に意識もハッキリした。
 さぁ、機体のチェックなんぞしている暇は無い。
 すぐさまマニュアルで機体の肘を立てさせて、コアの後部――背を斜めに壁に当てる。
 目一杯スティックを引きながら、ブースターに火を灯す。
 そう、機体を壁に当てて無理矢理起こすのだ。
 関節機構的に、一度倒れれば自力で起き上がれないこいつら。
 『たった一度の転倒で死なせてたまるか』と、あの爺様が思いついた最終手段だ。
 一秒、二秒、三秒……じりじりとしか起き上がらない機体。
 それでもコンデンサのプールはあっという間に底を着こうとする。
 レッドゾーンの耳障りな警告音が、一際大きくなる。
 背負ったロケット砲とレーダーが完全に脱落損壊したのだ。
 お構いなしだ。
 廃墟からの白煙はまだ漂っている。
 武装用のマウントもブースターカウルも擦らせて、全身を軋ませながら。
「う……」
 口から走らず呻き声が漏れる。
 スティックを折れそうになる程引いて。
「うぅ……」
 タイム・オーバーだった。 コンデンサ・オーバーレブ。
 無線は、オールラウンドにしたままだ。
 煙の中からゆらりと現れた相手は、それでも俺に銃を向ける事無く仁王立ちのままだった。
 いい加減本当に飽きた強制着信。
『……大した物だ』
 相手にも≪energy chargeing!≫の警告音はまる聞こえだろう。
 俺はそれでもスティックを引き続けた。
 出力が抜けてスカスカのペダルと一緒に。
『大した物だ、あんた』
 よく言ってくれる。そして良く喋ってくれる。
 その一秒一秒が俺を生かしているって知ってるか?
『こんなに楽しいのは久し振りだ。そうでなくては面白くない』
 いいからさっさと来いよ。
 いい加減、芝居のセリフは聞き飽きた。
『だが、お前は死ぬ』
 奴さんの左腕に青白い月光が灯る。
 細長く調整されたそれは明らかに格闘戦を重視した物だ。
 それでも俺はスティックを引き続ける。
 ゆっくりと歩き始めた敵さんから視線だけはずらさずに。
『この俺、アヴァロンの破壊魔に殺されて』
 ああ?
 あいつなら何も喋る前に終わってるさ。
 俺も、お前も。
『さぁ、心置きなく死ね』
 言い終わるや否や、こっちへ突っ込んでくる。
 俺はもう一つだけ用意された隠し手を“打ち込んだ”――




ばーか、死ぬってのはもっと簡単なもんさ、殺すのもな。





 確実にコックピットを狙っての攻撃。
 でも、だからこそ俺は迷う必要は無かった。

≪マニュアルコマンド――A1X2B1≫

 打ち込まれたそれは、相棒の神経を通って身体を動かす。
 わざわざマニュアルにした理由はそれが『左腕』のモーションだからだ。
 これもチャンスは一度、先よりもタイミングは難しい。
 だが、俺は運命との賭けに、勝った。
 フルブーストで突っ込んできていた敵機と、地面にしっかりと“立った”相棒。
 最強のブレードレプリカ・月光を湛えたその左腕を、俺は右腕で受け止めた。
『何ぃ?!』
 驚くのも無理は無いな。
 立つ筈の無い機体が立ち上がり、避けられない筈のブレードがいま正に目の前で止められているのだから。
「レイヴンってのはなぁ……」
 そのまま機体の重みとブースターパワーで押し戻す。
 相棒は入力されたモーションのままに腕を振り切ると、その照準をカチリと奴さんがいる腹に突きつけた。
『ま……まて、ま』
「生きてる奴の事さ」
 『俺は』そのままトリガーを引いた。
 




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俺が俺の普通から脱した日。
それは、こうして何だかとてもあっけない幕切れを迎えた……んだかなんだか。
それでも、俺は生きてる。
生きてりゃ死ぬ事なんて必要ない。
生きてりゃなんでも出来るから。
知らないなら知れば良い。知られてないなら知らせれば良い。
愛し足りないなら愛せば良い。
貧乏上等、ジレンマ上等。
実は何にせよ生きてこそじゃないか?
ああ、そうだ。
後で聞いた話、実は罠に填まったのは奴さんのほうだったって事。
ゴミはゴミ同士で潰しあえってことらしい。
お陰で俺はレイヴンじゃなくて、ただの整備見習になってしまった。


何にせよ、結果なんてもう如何でもよかった。
ニコチンとタールが入った本物の煙草と、仕事の後に飲むショットガンがあれば。



アヴァロン・バレーの空は今日も青というよりは白で、何処までも抜けるような色をしていた。






第3話――CLOSED



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