「いいか!元時刻より報告にあったこの超巨大ディソーダ−を<アビゴル>と呼称する!」
ここはエルスティア王城の作戦司令室である。
円卓騎士のルークとイルム、ガルド、そしてアルマゲイツの傭兵達、そしてユーミルとリット、ビリー、大臣と国王、アルマ、ルカがいた。
今説明しているのはガルドである。
「アビゴルの目標はここエルスティア王都であると思われる!奴の到着はおよそ16時間後と推定!いいか、それまでになんとしてもこいつを潰す、さもねえと王都は壊滅だ!気合入れてかかれ!」
「それでは、具体的な作戦を説明します」
それを引き継いで話し始めたのはイルムだ。
「かつてないタイプのディソーダ−である為、敵の情報が不足しています。よって、敵のデータを収集するために、AC数機による直接戦闘を行います。先日の戦闘により破損したACはすでに修復済みです」
「ってわけで、誰かがあのデカブツとACでやりあわなきゃなんねえ。俺に任せろ!って奴はいるか?」
ガルドが皆に聞いた。
「僕が行こう」
ビリーが言った。
「仕方ないねえ…あたしも出るよ」
「俺も行ってやってもいいぜ」
雑賀、グリュックもうなづく。
「ではあなた方3人、あと私も出撃します」
イルムも立ち上がった。
「悪いが時間がねえ。出撃するメンバーは急いで準備してくれ。輸送機の準備は既に出来てる」
ガルドの言うとおりだ。
4人は足早に出て行く。
第22話「ミッション・ザ・マイン」
「何だ…あれが敵なのか…」
輸送機の窓からそれを見たビリーが思わずそう呟いた。
まだ結構な距離があるにも関わらず、その姿は肉眼で確認できるほどの大きさである。
『出撃用意!出撃用意!』
輸送機内に機内放送の声が響く。同時に出撃を示す警報が鳴り響いた。
「出撃か…」
ビリーはヴェルフェラプターに乗り込むべく歩き出した。
もしも僕たちがアビゴルを倒せないことになったら、ユーミルが戦うことになる。
だが、そうさせる訳には行かなかった。
ユーミルの倒すべき敵はナインボールとか、そういう理由ではない。
ユーミルを死なせるわけには行かない。絶対に。
たとえ自分の命を犠牲にしても…
『カレアバーナ、哭死、グリュックス・ゲッティン出撃用意完了!』
ビリーもヴェルフェラプターに飛び乗った。
『ヴェルフェラプター、出撃用意完了!全機発進よろし!』
『イルム、カレアバーナ行きます』
『雑賀、哭死出るよっ!』
『グリュック、グリュックス・ゲッティン出るぜ!』
3機のACが輸送機から降下した。
「ビリー、ヴェルフェラプター、出る!」
それを追うように、漆黒の刺客の乗機もその黒い巨体を宙に躍らせた。
データ収集目標アビゴルは、4機の前方およそ2000メートルに位置していた。
進行速度はACに比べてはるかに遅い。
アビゴルはゆっくりと前進を続けていた。
ビリー達の存在に気付いていないか、あるいは無視しているのか。
1500メートル位置まで近づいた。
「全機散開。アビゴルが800メートル位置まで接近後、ヴェルフェラプターのキャノンで先制攻撃を仕掛けてください。その後は各自の判断で攻撃。ただし目的はあくまで情報収集です。無理はせずに耐久値が半分を切ったら離脱してください。データの保存も忘れずにお願いします」
淡々と指示を出すイルム。
「あいよ」
「了解だ」
哭死は右に、グリュックス・ゲッティンは左に移動した。
カレアバーナは中央だ。
両腕のブレードしか武器を装備していないカレアバーナは白兵戦闘しかこなせない。
ビリーはキャノンの照準を合わせた。もっとも、敵が巨大なため撃てば当たるような状態ではあったが。
1100…1000…900…モニターに表示されているアビゴルとの距離を示す数字がゆっくりと、だが確実に小さくなっていく。
「800!」
ビリーはトリガーを引いた。
ヴェルフェラプターの両肩の長い砲身にエネルギーが収束し、強力な破壊力を持つ光弾が発射される。
アビゴルは回避行動をとらなかった。その巨体では、とってもよけられはしなかっただろうが。
爆発。
一瞬アビゴルの動きが止まる。
ぱらぱら、と砕けたアビゴルの表面組織が崩れ落ちる。
だがアビゴルの巨体には、それはかすり傷程度に過ぎなかった。人間で言えば、手を少しすりむいた程度のものでしかない。
「攻撃開始」
イルムが淡々と、そう言った。
その言葉と同時に、哭死とグリュックス・ゲッティンからスモールミサイルが一斉発射される。計20発の小型ミサイルが、煙の尾を引いてアビゴルに集中した。
立て続けに起こる爆発。
煙でアビゴルの巨体がかすんで見える。
しかし、煙が晴れた所には、ほとんど無傷のアビゴルの姿があった。
アビゴルの全身が止まる。
目とおぼしき場所が赤く光った。どうやらこちらに敵意を持ったようである。
次の瞬間、アビゴルから数十体の小型ディソーダーが射出された。
各自が即座に小型ディソーダ−を片付けていく。その間にもアビゴルは前進を再開していた。
カレアバーナがブレードを振るう。それは目の前の小型ディソーダ−2体を消し飛ばし、そこから放たれた光波が直線状にいた7体を切り裂いた。
小型ディソーダ−はわずかの時間で殲滅された。
しかし、それもつかの間のこと。
アビゴルは再び小型ディソーダ−を射出する。
再び4機は小型ディソーダ−の群れに囲まれることになった。
「これではキリがないぞ!」
「一時撤退、データを元に作戦を立てましょう」
イルムの決断は素早かった。
4機はOBで一気にアビゴルから遠ざかり、輸送機に飛び乗る。
それを無視するかのように、アビゴルは再び進撃を開始した…
彼らが王都に帰還してから1時間後に、作戦は決定し、全ACパイロットがミーティングルームに集められた。ユーミル達や雑賀達、そしてアルマゲイツのダイスパイロットやエルスティアのACパイロット。かなりの人数だ。
「これより作戦内容を説明する」
そう言ったのはガルドだ。
「あまり時間がねえ。やっこさんはあと11時間でここまで来る。そこでだ、レグナ平原でケリをつける。ここを目指すのなら必ずあそこを通るはずだからな」
それを引き継いでアルマが言った。
「我々の持つ超高火力地雷、アビスマイン12個を全てあそこに仕掛ける。あそこなら周りに町もなく大爆発が起きても影響はないだろう」
「だが問題は時間だ。アビスマイン12個を仕掛け終わる前に敵が通り過ぎちゃ元も子もねえ。時間はぎりぎりだ。そこでAC部隊で敵の足止めをする」
ざわめきが起こった。無理もない。かつてない敵だ。
「では、全員出撃用意!時間が無いぞ!」
アルマがそう言うと、ダイスパイロットたちはしぶしぶ立ち上がった。
ガレージでは、皆が大急ぎで出撃の用意をしていた。
出撃するのはガルド、ビリー、アルマ、イルム、ルーク、雑賀、グリュック、リール、ドルーヴァ、そしてダイスのパイロットたち、エルスティアのACパイロット達である。エルスティアの量産型ACは、スノウ。4脚に両腕ガトリング、小型ミサイルとレーダーを装備している。
もっとも大きな戦いもなく、戦闘は円卓の騎士任せなのだ。スノウの数は全部合わせても30機足らずで、パイロットも実戦慣れしていない。
後方支援をするのが関の山だろう。
「ちょっと!なんでわたしは留守番なの!?」
ガレージの一角で、ユーミルがガルドに詰め寄っていた。
「馬鹿野郎!お前は留守番だ!何度も言わせんな」
「なんで!?納得いかないよ!今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「どうしたんだ?」
騒ぎを聞きつけたビリーがやって来た。
「あ、ビリー聞いてよ!ガルドったら、またわたしに留守番してろって言うんだよ?信じらんない!」
ガルドが口を開くより早く、ユーミルがまくし立てる。
「ユーミル、よく聞いてくれ」
ビリーがユーミルの肩に手を置く。
「え?なに?」
その真剣な表情に、ユーミルも思わず真面目な顔になる。
「僕は君に死んでほしくないんだ」
「…え?なんで…?」
「だから、ここにいてくれ。頼む」
「え?え?」
そう言い残し、ビリーはヴェルフェラプターの方へと歩いていった。
「まあ、そういうこった。お前はここにいろ。分かったな?」
ガルドも真剣な表情でユーミルに言い聞かせた。
「……うん。わかった」
仕方なく、ユーミルもうなづいた。
「じゃあ、おとなしくしてろよ」
そう言って、ガルドもべーゼンドルファの方に向かう。
(さっきのビリー、なんだかいつもと違った…)
ユーミルは1人取り残され、ふとそんなことを考えていた。
(どうしたんだろう…)
一方アルマゲイツの傭兵部隊も、出撃の準備を終えようとしていた。
「やれやれだね。段々やばいほうに話が進んでくよ」
雑賀が面倒くさそうにぼやいた。
「これも仕事だ。仕方あるまい」
ドルーヴァが言った。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。
強い敵と戦うのを楽しんでいるのかもしれない。
「まあ、そうだな。しかしお互い死なない程度に働くとしようか」
リールが肩をすくめる。
「全くだ。死んだら元も子もないからな。特に雑賀、お前は死ねないだろう」
グリュックの言葉に「は?」という表情をする雑賀。
「おいおい…あの坊主にACの操縦教えるんだろ?」
「ああ…そういやそうだったね…」
「忘れてたのかよ…」
「ガルド」
べーゼンドルファに乗り込もうとしたガルドを、誰かが呼び止めた。
アルマだ。
「どうした?お前から声をかけてくるなんて珍しいじゃねえか」
「あの男の事だ」
「あの男?」
ガルドはあの男とは誰の事を言っているのか、見当がつかなかった。
「ルカだ」
「ルカ?奴がどうかしたのか?」
周りは慌ただしく、2人の会話を聞いているものなどいない。
「用心しろ」
「何?」
「奴には裏がある。くれぐれも気をつけることだな」
そう言ってアルマは立ち去ろうとし、不意に足を止めた。
「それと、もう一つ」
「?」
ガルドはいぶかしげな表情をする。
「もしも私に何かあったら、その時はユーミルを頼む。死なせるなよ」
「……そうだな」
ガルドが静かにそう答えると、アルマは黙ってその場を立ち去った。
(しかし…ルカに裏があるだと?そういえばルカは残るんだったな…)
ユーミルに一事言っておいたほうがいいかもしれないと判断したガルドは再びユーミルに会いに行こうとした。
『総員出撃用意!総員出撃用意!全ACは輸送機に移動せよ!』
だがその時には、既に出撃を告げるアナウンスがガレージに響き渡っていた。
一瞬迷うガルドだが…
「仕方ねえか…」
と、ベーゼンドルファに乗り込んだ。
ユーミルならば大丈夫だと判断したのだ。
この選択は、結果的には間違いだった。
それを知るのは、すぐ先の事である。
AC総数70機を越える大部隊である。
輸送機の数も多い。
次々と輸送機がACを搭載して発進していく。
それをユーミルは城の屋上から、不安げに見つめていた。
「姉ちゃん…」
その傍らのリットも不安げだ。
その2人の背後にやって来た人影があった。
「大丈夫ですよ。きっと上手くいきます」
その声に2人が振り返る。
そこにいたのは、吟遊詩人ルカだった。
「あ、ルカっち」
「なんですか、ルカっちって…」
ユーミルの呼び方にあからさまにいやそうな表情をするルカ。
「じゃあルカぷー」
「いや、それもちょっと」
「それじゃルカちん」
「姉ちゃん…」
リットが脱力している。
「ユーミルさんは残ったんですね」
「うん。ガルドやビリーが、留守番してろってさ…」
「不安ですか?」
ルカがユーミルの心境を見通したかのように、そう尋ねた。
「……うん」
「あなたは彼等が信じられませんか?」
「そんなことないけど…」
「なら、信じて待ちましょう。彼らはきっと無事に帰ってきますよ」
ルカがそう言って優しく笑った。
「うん、わかった。そうだよね」
ユーミルもうなづいて、にっこりと笑う。
『アビゴル視認!全機出撃!』
その言葉で、遂に戦いが始まった。
何機もの輸送機から、次々とACが投下されていく。
『アビスマインの設置には時間がかかります!それまでアビゴルの足を止めて下さい!』
通信がそう告げる。
先陣を切ったのは、ガルドのベーゼンドルファだった。
「くらえっ!」
ベーゼンドルファのグレネードライフルが火を吹く。
アビゴルの前面に炸裂し、爆発した。
続いてルークのカイゲンヴェルクがプラズマライフルを発射する。光弾がグレネードと同じ場所に炸裂した。
その頃には、全てのACが投下完了している。
ダイスが一斉にロケット弾を放った。ロックオンできないとはいえ、相手は巨大である。全弾がアビゴルに命中した。
スノウ部隊も一斉に両腕のガトリングガンを放つ。
次々とアビゴルにガトリングが着弾、火花を散らした。
だが次の瞬間異変は起こった。
アビゴルの頭部にエネルギーが収束していく。
「攻撃が来る…?」
「全員回避だ!」
ガルドがとっさに叫んだ。
それに反応できたものはすかさず空中に飛び上がり左右に散った。
だが、反応できなかったものはアビゴルの頭部から放たれた強大なビームによって一瞬で消し飛んでしまった。
特に実戦慣れしていなかったスノウ部隊は今の一撃で半数以上が消滅している。
「量産型とはいえACだぞ?それを一撃で消し飛ばしたってのか…」
ガルドが戦慄した。
ある意味、こいつはナインボール・セラフよりも強いではないか。
「固まるな!散らばれ!」
ビリーがそう言った。
「言われなくてもっ!」
「あんなの喰らったら命がいくつあっても足りねえしな…」
雑賀とグリュックがそう言ったように、既にアルマゲイツの傭兵達は散らばっている。さすがに戦いなれているようだ。
だが、ACが散らばったのを見ると今度はアビゴルは小型ディソーダーを射出した。
その数はおよそ100体。
「高火力の武器を持つ機体はアビゴルを攻撃する。それ以外は小型を掃討しろ」
アルマがそう言って、エルディバイラスをアビゴルに突っ込ませた。
プラズマライフルで攻撃しつつ、一気に間合いを詰める。
すると、アビゴルの背中から大型の空中ディソーダーが現れた。
「何?」
その数は2体。ACよりも大きい。
2体は一斉にエルディバイラスめがけてビームを連射した。
エルディバイラスは空中でそれを左右に切り返し全てかわすと、そのうちの1体に肉迫しブレードで切りつける。
その1体は一撃でその巨体を上と下に両断され、墜落した。
強力な破壊力である。
もう1体はエルディバイラスを脅威であると判断したのか、エルディバイラスにしつこくビームを連射する。
アルマはプラズマライフルを2,3発叩き込み、もう1体も黙らせた。
下でも激戦が繰り広げられている。
小型ディソーダーの数は既にかなり減っていたが、アビゴルは再び小型ディソーダーを射出した。
キリがない。
アビゴル本体への攻撃も行われているが、アビゴルの進行速度には変化がなかった。
「くそっ!このままじゃ!」
ビリーがエネルギーキャノンを放つが、それでもアビゴルの足は止まらない。
一方、エルスティア王都では状況が逐一報告されていた。
状況は芳しくない。
アビスマインの設置はまだ完了していないし、アビゴルの進行速度に変化はない。
それを聞いていたユーミルはいきなり立ち上がった。
ルカが慌てて止める。
「わたしも行く!」
「いえ、あなたは留守番しているようにと言われたでしょう?約束を破るつもりなんですか?」
「でも、このままじゃ…」
「なら、私が出撃しましょう。私が行けばあなたが約束を破る事はありません」
「ルカが?でも、ルカのACは?」
「心配しなくても、ちゃんと隠してありますよ。ということで、ここは私に任せておいて下さいね」
ルカはにっこりと笑い、そのまま部屋を出て行った。
部屋を出たルカは、まっすぐ城の外へと歩き始める。
その顔には薄笑いが浮んでいた。
「さて、面白くなりそうですね…」
レグナ平原では、急ピッチでアビスマインの設置作業が行われていた。
もし誤爆すれば大変な事になる。作業は慎重を要した。
「よし、後1個だ!」
現場主任がそれを確認した次の瞬間。
「おい、何だあれ?」
一人が異変に気付いた。
上空に突如1機のACが現れたのだ。
緑と赤のカラーリングのフロート機体。両腕には強力なビームキャノンが装備されている。
「王都からの援軍か?」
「なんでこんな所に?」
次の瞬間、ビームキャノンが光を放った。
光は地面を薙ぎ払い、アビスマインに炸裂する。
12個の超威力地雷が次々と誘爆し、その場のスタッフ達は一瞬で膨大な光と熱量にさらされ消滅してしまった。
「さて…これでアビゴルに対する手は一切なくなってしまいましたか…これからどうするんでしょうね?」
コクピットのルカは、そう呟いて再び薄ら笑いを浮かべた。
その大爆発は、当然必死にアビゴルを阻止しているガルド達にも確認できた。
「今の爆発…まさかアビスマインか!?」
ガルドもさすがに驚きを隠せない。
アルマは冷静に、だが悔しげに呟いた。
「…ルカか」
やがて、レグナ平原のほうから1機のACが飛行してきた。
「リド・ゲイド…やはり貴様か、ルカ」
アルマのエルディバイラスがルカのリド・ゲイドに向き直る。
「茶番は終わりですよ…さて、これからどうするつもりでしょうね…」
ルカは悠然と微笑んだ。
後書き 第22話「ミッション・ザ・マイン」
遂にルカさんが本性を現しました。
一気に急展開、もうラストは間近です。
さてさて、どうなることやら…